【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花

文字の大きさ
上 下
27 / 70
2章:アシュリンと出会い。

アシュリンとラルフ。 6話

しおりを挟む
 その日、帝城は悲しみに包まれていた。
 事件の二時間後。
 皇帝陛下の部屋であった出来事はすぐに城の中に広まり、リリシアは三人を殺害した容疑で捕まってしまった。
 そして俺達、フリーデン王国の人間は別室に監禁されている。

「ユート殿どういうことですか! リリシア様が皇帝陛下を殺害? そのようなバカな話があるものか!」

 護衛隊長は突然の展開に驚きを隠せず、憤慨していた。

「今俺達に出来ることはありません」
「我々は帝国と敵対していたのだ! このまま何もせずに待っていたら殺されるだけだぞ! いや、我々が殺されるだけならまだいい。帝国と戦争になったらどれだけの犠牲が出るか⋯⋯それどころか王国が崩壊してしまうぞ」

 護衛隊長は戦争になったら王国が負けるとわかっているんだ。それだけ今の帝国との戦力差は大きいし、リリシアが皇帝を殺害したことが真実なら、他国も王国の敵になるだろう。

「だけど真面目な話、犯人はリリシアちゃんじゃねえだろ?」
「そうだ! リリシア様がそのようなことをするはずがない!」
「武器だって入口にいた兵士に預けていたし⋯⋯いや、武器はあったな」

 そう⋯⋯ザインの言うとおり武器はある。

「護衛の騎士から奪えばいいだけだ。リリシアちゃんの技量なら奪った剣で皇帝陛下と騎士二人を殺すことなど容易いだろう」

 どんな手練れでも不意をつけば、簡単に倒すことが出来る。ましてや相手は神速と呼ばれている者だ。
 そのこともリリシアが犯人だと疑われる要因になったのだろう。

「ですがリリシア様が罪を犯した証拠はありませんよね? 無実だという証拠もありませんが⋯⋯」

 護衛隊長が意気消沈してしまう。
 罪を犯した決定的証拠はないけど、ほぼ全てのベクトルはリリシアが犯人だと言ってる。

 だが⋯⋯

「ありますよ」
「えっ?」
「リリシアが無実だという証拠ならあります」
「ほ、本当ですか!」
「ええ⋯⋯たぶんそろそろ⋯⋯」

 トントン

 そしてタイミングよく部屋のドアがノックされる。

「だ、誰だこのような時に⋯⋯まさか帝国は私達を殺すつもりで⋯⋯」

 護衛隊長は震える手でゆっくりドアノブを回す。すると来訪者が部屋に入ってきた。

「ひぃぃぃぃっ!」

 護衛隊長は来訪者の顔を見て、悲鳴をあげながら尻餅をつく。
 その姿はまるで幽霊でも見たかのようで、そのまま気絶してしまうのであった。

 ◇◇◇

 護衛隊長が意識を失った頃。
 主がいないはずの玉座には、一人の男が座っていた。

「どういうつもりだ? そこはあなたが座っていい場所ではないぞ」

 第二皇子のデレックは、鋭い眼光で玉座に座っている者を見下ろす。
 デレックは冷静に話しているように見えるが殺意が溢れており、何のしがらみがなければ、今にも玉座に座っている男⋯⋯ルドルフに斬りかかる勢いだった。

「父上が死んだ⋯⋯いや、殺されたのだ。王国に報復するためにも、皇帝であるこの俺が帝国をまとめるしかあるまい」
「皇帝だと? 兄上は謹慎を言い渡されていたはずだ。そのような者が皇帝になるとは笑わせるな」

 デレックはこの部屋にいる者⋯⋯騎士団長のゾルド、宰相のデュケル、第三皇子のアルドリック、そして二十数名の上級貴族に問いかける。

「アルドリック、お前はどう思う」
「俺? 俺が何を言っても結果は変わらないからどうでもいいよ」
「もう少し真剣に考えろ。兄上が皇帝になったら、帝国は滅びるぞ」
「どうなろうが俺には関係ないね。誰が皇帝になるか話し合うなら俺抜きでやってくれ」

 デレックはこれ以上何を言っても無駄だと感じ取り、頭をかかえる。
  
「ともかくこの非常時だ。最も人望がある者が国をまとめるのに相応しいと思わないか?」

 ルドルフは玉座から立ち上がり、デレックと対峙する。

「それが兄上だと言いたいのか? いいだろ⋯⋯この場にいる者達に聞いてみるとしようか。ゾルド騎士団長、あなたはどう思われますか?」
「俺はデレック様が皇帝に相応しいと思う。失態を犯しているルドルフ様では、帝国をまとめることは難しいだろう」

 騎士団長の言葉にデレックは心の中で笑みを浮かべる。
 元々騎士団長はデレック派であった。初めにデレックを皇帝に推すことによって、流れを掴もうとしていたのだ。
 だがそもそも騎士団長が言うように、ルドルフは先日のパーティー会場で、リリシアに無礼を働くというあり得ない失態を犯している。そして皇帝陛下に処罰されているのだ。
 そのような者にデレックは負けるわけがないと考えていた。

 しかしこの後。信じられない光景が広がっていた。

「一人一人聞くのは面倒だ。兄上を推す者は挙手をしてくれ」

 デレックの問いかけに一人二人と手を上げる。
 そしてその勢いは止まらず、終には六割の者が挙手するのであった。

「バカな! あり得ない! お前達は帝国を滅ぼすつもりなのか!」

 デレックの叫びに挙手したほとんどの者が目を逸らした。この事からルドルフと何か後ろめたいことがあるのは明らかだ。

「デレックよ。これが答えだ。文句はあるまいな」

 こうして次の皇帝はルドルフに決まった。
 その事実にデレックは愕然とし、その場に崩れ落ちる。

「まずは皇帝となった俺の最初の命令だ。反逆の意志を見せたこの二人を、牢獄に閉じ込めておけ」

 玉座の間の外から兵士達が現れ、あっという間にデレックとゾルドが捕縛される。

「兄上⋯⋯いや、ルドルフ! どんな手を使った!」
「どんな手だと? お前の人望のなさを責任転嫁するとは、見苦しいな。早くこの反逆者を連れていけ」

 兵士達はデレックとゾルドの腕を掴み、無理矢理玉座の間の外へと引きずっていく。

「離せ! 皇族の私に触れるなど無礼だぞ!」

 デレックの叫びも虚しく、二人は玉座の間を退出させられた。
 そしてルドルフはアルドリックに視線を向ける。

「良かったな。もしデレックの味方をしていたらお前も牢獄行きだったぞ」
「⋯⋯正しい選択が出来て良かったよ」
「そうだな。だが間違った選択をした時は、お前もデレックのようになることは忘れるな」
「肝に銘じておく」

 アルドリックはこの場に用はなくなったのか、玉座の間を去っていく。

「邪魔者達は全て消えた⋯⋯これでようやくこの椅子が俺のものとなる」

 ルドルフはこれからの輝かしい人生を思い浮かべながら玉座へと向かい、全てを手に入れようとしていた。

 だが⋯⋯

「その席にお前を座らせる訳にはいかない」

 突如玉座の間の扉が開き、ルドルフの行動を阻止する者が現れるのであった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...