【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花

文字の大きさ
上 下
24 / 70
2章:アシュリンと出会い。

アシュリンとラルフ。 3話

しおりを挟む
 使い魔の背を撫でながら、ラルフは再び語り出す。

 最初に向かったのは、海が見える村。魚の漁のために朝早く起きて、船に乗っていく村人たちはたくましく見えたこと、次の目的地は両親が支援している孤児院のある山奥の村。

 そこでは子どもたちと村人たちが一緒に畑仕事をしたり、料理をしたりと生きるためのことを教えていた。

「一回だけ、旅の途中で両親にあったよ。ついこの前なんだけどね」
「びっくりしてたんじゃない?」
「うん。思いっきり抱きしめられた」

 そのことを思い出したのか、ラルフの目がやさしく細められる。

 両親たちとゆっくり話したのはとても久しぶりのことで、とても楽しかったと微笑む姿を見て、アシュリンの心が和む。

 とはいえ、普段あまり話さないから、なにから話せばいいのかわからなかったとラルフは後頭部をかいた。

「にゃんでも話せばいいにゃー。親子にゃんだから」

 今までずっと黙って歩いていたノワールがアシュリンの足元から、ラルフに声をかけた。彼はノワールに視線を落として目を丸くし、じっとノワールを見つめる。

「会話が続かにゃくても、いいにゃ。ただ『会話したい』という気持ちが大事にゃ」

 ノワールはぴょんとアシュリンの肩に跳んだ。そして目線をラルフに移し、ぷにぷにの肉球を見せた。

 思わず、ツンと肉球をつつくラルフ。シャー! と怒られたので、肩をすくめる。

「会話したい気持ち、かぁ」
「ラルフが旅に出て、きっとさびしいだろうしね。でも、お互いなにを話せばいいのかわからないみたいな感じなのかも?」
「それはあるかも。……そうだね、今度会ったら、ちょっといろいろ話してみるよ」

 アシュリンとノワールはこくりとうなずいた。

 きっと、次に会うときにはたくさんの会話を楽しめるだろう、と考えながらワクワクと胸がおどった。だって、それは素敵なことだと思うから。

 アシュリンがにまにまと口元を動かしていると、ラルフとルプトゥムが視線をわしてくすりと笑い声を上げる。

「アシュリンたちのことも話していい?」
「いいよー」
『もちろんです!』

 黙っていた本がいきなりしゃべりだした。

 本はアシュリンとラルフを囲うようにくるくると動き回り、どこか興奮こうふんしたように声を張り上げる。

『ボーイ・ミーツ・ガール! 青春ですね!』
「なにそれ?」
「少年が少女に出会うこと……だっけ?」
「それじゃあラルフが主人公になっちゃわない?」

 人差し指を口元に添え、ムムムとうなるアシュリンにラルフは本に視線を送る。本はくるくると回り続けていた。

『自分の人生、自分が主人公ですよ!』
「それはそうかもしれないけどー……」

 むぅ、と唇をとがらせるアシュリンをたしなめるように、ノワールが肉球を頬に押し付ける。

「それぞれの人生があるんだにゃー」
「にゃー」

 ぷにぷにの肉球に頬をゆるませるアシュリン。気持ちを持ち直したのか、ノワールの鳴き真似をした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

ちびりゅうと きえた ケーキ

関谷俊博
児童書・童話
「いちばん あやしいのは…」 「あやしいのは?」 「ズバリ ちびりゅうさんですね」 「が がお!」

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...