【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花

文字の大きさ
上 下
23 / 70
2章:アシュリンと出会い。

アシュリンとラルフ。 2話

しおりを挟む
 神殿都市のクラーク家のことは、アシュリンも少しだけ耳にしたことがある。

 クラーク家は、いろいろなところに手を貸していると、ホイットニーが新聞を読みながら教えてくれたからだ。

「新聞にクラーク家ことがのるくらいだもんね」
「あー、あったね、そんなとこと。うちの両親、いろんな人たちと関わりあるから」

 遠い目をしながら苦笑を浮かべるラルフに、アシュリンはこてんと首をかしげる。

「ご両親のこと、あまり好きじゃないの?」

 ストレートにたずねられて、ラルフは一瞬言葉をんだ。そして目を何度かまたたかせて、「どうしてそう思うの?」と逆にたずねてきた。

「だって、あんまりうれしそうな顔じゃないから」

 アシュリンは家族のことが大好きだ。だから、話すときどうしても口元がゆるんでしまう。

 でも、ラルフにはそれがなかった。

 むしろ、あまり思い出したくないようにも見えて……それが不思議でアシュリンは眉を下げる。

「好きか嫌いかで問われたら、好きだよ。でも……両親はいそがしい人だから、あんまりかまってもらった記憶がないんだよね」

 そしてラルフは、自分の両親のことを話し出した。

 ラルフの父はミッチェル、母はアグネスという名前で、神殿都市だけではなく幅広はばひろい場所で活躍かつやくしているらしい。

 両親はいそがしく、顔を見せてもすぐに仕事に向かってしまうため、クラーク家ではお手伝いさんがいてその人と一緒に過ごすことが多かった。

 そんな両親だったが、ラルフのことを愛しているのは伝わっていた。どんなにいそがしくても、ラルフを抱きしめたり置手紙を残したりと愛が伝わるように努力していた。お手伝いさんも良い人で、両親がどれだけ彼を愛しているのかを話してくれたので彼はさびしくなかったと口にする。

「――でも、本当はちょっとさびしかったのかも?」

 右手の人差し指と親指を一センチくらい離して笑う姿に、アシュリンは「そっかぁ」とつぶやいた。

 クラーク家では、行き場をなくした子どもたちのための支援をしていて、両親はその準備や自分の仕事に追われていた。いそがしく動き回る両親に迷惑をかけちゃダメだと、ラルフは自分のことは自分でできるように努力したとのこと。

 十二歳の誕生日を機に、旅立つことを決めたのは……

「世界をこの目で見たかったのもあるけれど、両親がどんなことをしているのかも知りたかったんだ。話で聞くのと、実際見るのでは、印象が違うだろうから」
「そうなの?」
「うん。耳で聞く情報と、目で見る情報ってわりと違いがあるんだよ。ぼくは初めて、両親が支援している孤児院を見て驚いたんだ」

 アシュリンと歩くペースを合わせているラルフは、ちらりとルプトゥムに視線を送る。ルプトゥムはそっと彼に近付いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...