【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花

文字の大きさ
上 下
7 / 70
1章:アシュリンの旅立ち。

アシュリンの旅立ち。 7話

しおりを挟む
「ねぇ、お母さん。本当に買ったもの、全部リュックに入っているの?」
「入っているわよ。おじいちゃんの魔法のリュック、軽くていいでしょう?」
「うん、なんにも入っていないくらい軽いよ!」

 ホイットニーが買ったテントや、食料品などがリュックに入ったはずだが、背負ったときから変わらずに軽い。

「魔法のリュックはね、なんでも入っちゃうし、入ったものの時間を止めちゃう、すごいリュックなのよ」
「時間を止めちゃう?」
「食べ物も飲み物も、ずーっと美味しいままってこと」

 だからあんなに食べ物を詰め込んだのか、とアシュリンは納得した。日持ちしない果物もリュックの中に入っているので、大丈夫かなぁと思っていたけれど、ホイットニーの話を聞いて大丈夫なのだとほっとした。

「それじゃあ、おうちに戻ろうか。今日はおばあちゃんがアシュリンのためにごちそうを用意してくれているはずよ」
「ごちそう!」
「旅立つ孫のために、ね」

 やっぱりちょこっとさびしそうに見えるホイットニーに、アシュリンはにっと白い歯を見せて笑う。

「お手紙たくさん書くね!」
「……うん、待っているわ」

 手を繋いでフォーサイス家に戻る二人。

 ホイットニーの言ったように、良い香りがしてぐぅぅ、とアシュリンのお腹の虫が鳴いた。

 慌ててお腹を押さえたが、ホイットニーは気にした様子はなく、「美味しそうねぇ」とただ柔らかく目元を細めていた。リビングに入ると、パァーン! と大きな音が鳴り、紙飛沫が舞い、アシュリンは目を丸くする。

「今日は盛大にいくぞー!」

 グリシャがアシュリンの腰を掴み、ふわっと持ち上げてその場でくるくると回る。父にこんなふうに遊んでもらったのは久しぶりで、アシュリンは「目が回るー!」と文句を言いながらも顔がふにゃりと笑っていて、嬉しさを隠せていない。

 その日はごちそうをたくさん食べて、ホイットニーとエレノアと一緒にお風呂に入り、家族全員で寝た。三年前、兄が旅立つ前日もこうしていたなぁと思い出し、アシュリンは目を閉じて旅のことを考えた。

 ――どんなことが待っていても、きっとだいじょうぶ。

 目を閉じているといつの間にか眠りに落ち、気が付いたら朝になっていた。

『さぁさぁ、夢と希望の冒険へ、レッツゴー!』
「……興奮してるなぁ、この本」
「ノワール、わたしの本と仲良くね」

 朝起きて、身支度を整えて、朝食を摂ったあとに祖父からもらったリュックを背負う。

 本はアシュリンの近くでパタパタとページを開いて、閉じてと忙しい。

「それじゃあ、みんな、行ってきます!」

 笑顔で大きく手を振って、フォーサイス家と村人たちに見送られながら、村をあとにした。

 アシュリンの冒険が、いま始まる!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

リュッ君と僕と

時波ハルカ
児童書・童話
“僕”が目を覚ますと、 そこは見覚えのない、寂れた神社だった。 ボロボロの大きな鳥居のふもとに寝かされていた“僕”は、 自分の名前も、ママとパパの名前も、住んでいたところも、 すっかり忘れてしまっていた。 迷子になった“僕”が泣きながら参道を歩いていると、 崩れかけた拝殿のほうから突然、“僕”に呼びかける声がした。 その声のほうを振り向くと…。 見知らぬ何処かに迷い込んだ、まだ小さな男の子が、 不思議な相方と一緒に協力して、 小さな冒険をするお話です。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

とじこめラビリンス

トキワオレンジ
児童書・童話
【東宝×アルファポリス第10回絵本・児童書大賞 優秀賞受賞】 太郎、麻衣子、章純、希未の仲良し4人組。 いつものように公園で遊んでいたら、飼い犬のロロが逃げてしまった。 ロロが迷い込んだのは、使われなくなった古い美術館の建物。ロロを追って、半開きの搬入口から侵入したら、シャッターが締まり閉じ込められてしまった。 ここから外に出るためには、ゲームをクリアしなければならない――

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

稀代の悪女は死してなお

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

処理中です...