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1章:アシュリンの旅立ち。
アシュリンの旅立ち。 7話
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「ねぇ、お母さん。本当に買ったもの、全部リュックに入っているの?」
「入っているわよ。おじいちゃんの魔法のリュック、軽くていいでしょう?」
「うん、なんにも入っていないくらい軽いよ!」
ホイットニーが買ったテントや、食料品などがリュックに入ったはずだが、背負ったときから変わらずに軽い。
「魔法のリュックはね、なんでも入っちゃうし、入ったものの時間を止めちゃう、すごいリュックなのよ」
「時間を止めちゃう?」
「食べ物も飲み物も、ずーっと美味しいままってこと」
だからあんなに食べ物を詰め込んだのか、とアシュリンは納得した。日持ちしない果物もリュックの中に入っているので、大丈夫かなぁと思っていたけれど、ホイットニーの話を聞いて大丈夫なのだとほっとした。
「それじゃあ、おうちに戻ろうか。今日はおばあちゃんがアシュリンのためにごちそうを用意してくれているはずよ」
「ごちそう!」
「旅立つ孫のために、ね」
やっぱりちょこっとさびしそうに見えるホイットニーに、アシュリンはにっと白い歯を見せて笑う。
「お手紙たくさん書くね!」
「……うん、待っているわ」
手を繋いでフォーサイス家に戻る二人。
ホイットニーの言ったように、良い香りがしてぐぅぅ、とアシュリンのお腹の虫が鳴いた。
慌ててお腹を押さえたが、ホイットニーは気にした様子はなく、「美味しそうねぇ」とただ柔らかく目元を細めていた。リビングに入ると、パァーン! と大きな音が鳴り、紙飛沫が舞い、アシュリンは目を丸くする。
「今日は盛大にいくぞー!」
グリシャがアシュリンの腰を掴み、ふわっと持ち上げてその場でくるくると回る。父にこんなふうに遊んでもらったのは久しぶりで、アシュリンは「目が回るー!」と文句を言いながらも顔がふにゃりと笑っていて、嬉しさを隠せていない。
その日はごちそうをたくさん食べて、ホイットニーとエレノアと一緒にお風呂に入り、家族全員で寝た。三年前、兄が旅立つ前日もこうしていたなぁと思い出し、アシュリンは目を閉じて旅のことを考えた。
――どんなことが待っていても、きっとだいじょうぶ。
目を閉じているといつの間にか眠りに落ち、気が付いたら朝になっていた。
『さぁさぁ、夢と希望の冒険へ、レッツゴー!』
「……興奮してるなぁ、この本」
「ノワール、わたしの本と仲良くね」
朝起きて、身支度を整えて、朝食を摂ったあとに祖父からもらったリュックを背負う。
本はアシュリンの近くでパタパタとページを開いて、閉じてと忙しい。
「それじゃあ、みんな、行ってきます!」
笑顔で大きく手を振って、フォーサイス家と村人たちに見送られながら、村をあとにした。
アシュリンの冒険が、いま始まる!
「入っているわよ。おじいちゃんの魔法のリュック、軽くていいでしょう?」
「うん、なんにも入っていないくらい軽いよ!」
ホイットニーが買ったテントや、食料品などがリュックに入ったはずだが、背負ったときから変わらずに軽い。
「魔法のリュックはね、なんでも入っちゃうし、入ったものの時間を止めちゃう、すごいリュックなのよ」
「時間を止めちゃう?」
「食べ物も飲み物も、ずーっと美味しいままってこと」
だからあんなに食べ物を詰め込んだのか、とアシュリンは納得した。日持ちしない果物もリュックの中に入っているので、大丈夫かなぁと思っていたけれど、ホイットニーの話を聞いて大丈夫なのだとほっとした。
「それじゃあ、おうちに戻ろうか。今日はおばあちゃんがアシュリンのためにごちそうを用意してくれているはずよ」
「ごちそう!」
「旅立つ孫のために、ね」
やっぱりちょこっとさびしそうに見えるホイットニーに、アシュリンはにっと白い歯を見せて笑う。
「お手紙たくさん書くね!」
「……うん、待っているわ」
手を繋いでフォーサイス家に戻る二人。
ホイットニーの言ったように、良い香りがしてぐぅぅ、とアシュリンのお腹の虫が鳴いた。
慌ててお腹を押さえたが、ホイットニーは気にした様子はなく、「美味しそうねぇ」とただ柔らかく目元を細めていた。リビングに入ると、パァーン! と大きな音が鳴り、紙飛沫が舞い、アシュリンは目を丸くする。
「今日は盛大にいくぞー!」
グリシャがアシュリンの腰を掴み、ふわっと持ち上げてその場でくるくると回る。父にこんなふうに遊んでもらったのは久しぶりで、アシュリンは「目が回るー!」と文句を言いながらも顔がふにゃりと笑っていて、嬉しさを隠せていない。
その日はごちそうをたくさん食べて、ホイットニーとエレノアと一緒にお風呂に入り、家族全員で寝た。三年前、兄が旅立つ前日もこうしていたなぁと思い出し、アシュリンは目を閉じて旅のことを考えた。
――どんなことが待っていても、きっとだいじょうぶ。
目を閉じているといつの間にか眠りに落ち、気が付いたら朝になっていた。
『さぁさぁ、夢と希望の冒険へ、レッツゴー!』
「……興奮してるなぁ、この本」
「ノワール、わたしの本と仲良くね」
朝起きて、身支度を整えて、朝食を摂ったあとに祖父からもらったリュックを背負う。
本はアシュリンの近くでパタパタとページを開いて、閉じてと忙しい。
「それじゃあ、みんな、行ってきます!」
笑顔で大きく手を振って、フォーサイス家と村人たちに見送られながら、村をあとにした。
アシュリンの冒険が、いま始まる!
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