1 / 70
1章:アシュリンの旅立ち。
アシュリンの旅立ち。 1話
しおりを挟む
静かな森の中に、小さな村がある。
木々の緑に囲まれた、自然豊かな場所だ。
……自然しかない、と言ってもいいかもしれない。
そんな村の一角に、大きな家がある。そこにはフォーサイス家が暮らしていた。
「アシュリン、今日は窓を拭いておくれ」
「はぁーい」
大きなバケツの中に雑巾を入れて、「よいしょ」と気合を入れて持ち上げる。
レディシュの背中まである髪を、二つにわけて三つ編みにし、青と緑色のミックスカラーの目で窓を見上げるのはアシュリンと呼ばれた少女だ。
水をこぼさないようにゆっくりと歩いていく。今日は曇りだから、窓の汚れが良くわかる。
バケツを床に置いて、雑巾をぎゅっとしぼってから、アシュリンは窓を拭き始めた。ごしごしと拭いていると、生まれたときから一緒にいる黒猫――使い魔のノワールが声をかけてきた。
「どうして人間は魔法でそうじしないの?」
「なんでだろうねぇ? 魔法をつかったほうが、はやいのに」
「ねー」
この世界――エルピスに暮らす人々は、魔法が使える。水を出したり火を出したりと生活に欠かせない魔法が誰でも使えるのだが――フォーサイス家の教育方針で、魔法をあまり使わず生活している。
ごしごしと窓を拭き続け、ピカピカになると風の魔法を使って乾かす。
なぜか乾かすときだけは、魔法を使ってもいいルールなのだ。
「うん、ピカピカ!」
「ピカピカだねー」
ノワールがぐーっと伸びて、眠そうにアシュリンの言葉を繰り返した。次の窓を拭こうと雑巾をバケツに入れて移動しようとした瞬間、ぴたりと足を止める。
「どうしたの?」
「なんだか……誰かに呼ばれた気がして。気のせいかなぁ?」
辺りをキョロキョロと見渡して、アシュリンは首をかしげた。確かに、なにかの声が聞こえたような気がしたのだが……と。
『――……』
「やっぱり呼ばれてる!」
「どこから聞こえるのさ、それは」
「え? ええっと……ノワール、ついてきてくれる?」
「しょうがないにゃぁ……」
ノワールは呆れたようにアシュリンを見て、ぺろぺろと右前足を舐めた。それから首輪の鈴をちりんと鳴らしながら、先に地下室へ向かう。
慌ててノワールを追いかけるアシュリン。窓辺にはぽつんとバケツだけが残った。
「まってよ、ノワール! 声が聞こえるのはわたしだよー?」
そうだった、とばかりにノワールの足が止まる。ちょこんと座ってアシュリンを見上げるので、ひょいと抱き上げる。
抱っこしたまま、アシュリンは声のしたほうへ足を進める。たどりついたのは、地下室へと続く階段。
ごくりとつばを飲み込んで、アシュリンはゆっくりと地下室へ続く階段を下りていく。
地下室は広くて、薄暗い。
「本当にここから聞こえたの?」
「うん、今でも呼ばれている気がするもん」
『その通り!』
ビュンっと風を切る音とともに、なにかがアシュリンの目の前に飛び出してきた!
木々の緑に囲まれた、自然豊かな場所だ。
……自然しかない、と言ってもいいかもしれない。
そんな村の一角に、大きな家がある。そこにはフォーサイス家が暮らしていた。
「アシュリン、今日は窓を拭いておくれ」
「はぁーい」
大きなバケツの中に雑巾を入れて、「よいしょ」と気合を入れて持ち上げる。
レディシュの背中まである髪を、二つにわけて三つ編みにし、青と緑色のミックスカラーの目で窓を見上げるのはアシュリンと呼ばれた少女だ。
水をこぼさないようにゆっくりと歩いていく。今日は曇りだから、窓の汚れが良くわかる。
バケツを床に置いて、雑巾をぎゅっとしぼってから、アシュリンは窓を拭き始めた。ごしごしと拭いていると、生まれたときから一緒にいる黒猫――使い魔のノワールが声をかけてきた。
「どうして人間は魔法でそうじしないの?」
「なんでだろうねぇ? 魔法をつかったほうが、はやいのに」
「ねー」
この世界――エルピスに暮らす人々は、魔法が使える。水を出したり火を出したりと生活に欠かせない魔法が誰でも使えるのだが――フォーサイス家の教育方針で、魔法をあまり使わず生活している。
ごしごしと窓を拭き続け、ピカピカになると風の魔法を使って乾かす。
なぜか乾かすときだけは、魔法を使ってもいいルールなのだ。
「うん、ピカピカ!」
「ピカピカだねー」
ノワールがぐーっと伸びて、眠そうにアシュリンの言葉を繰り返した。次の窓を拭こうと雑巾をバケツに入れて移動しようとした瞬間、ぴたりと足を止める。
「どうしたの?」
「なんだか……誰かに呼ばれた気がして。気のせいかなぁ?」
辺りをキョロキョロと見渡して、アシュリンは首をかしげた。確かに、なにかの声が聞こえたような気がしたのだが……と。
『――……』
「やっぱり呼ばれてる!」
「どこから聞こえるのさ、それは」
「え? ええっと……ノワール、ついてきてくれる?」
「しょうがないにゃぁ……」
ノワールは呆れたようにアシュリンを見て、ぺろぺろと右前足を舐めた。それから首輪の鈴をちりんと鳴らしながら、先に地下室へ向かう。
慌ててノワールを追いかけるアシュリン。窓辺にはぽつんとバケツだけが残った。
「まってよ、ノワール! 声が聞こえるのはわたしだよー?」
そうだった、とばかりにノワールの足が止まる。ちょこんと座ってアシュリンを見上げるので、ひょいと抱き上げる。
抱っこしたまま、アシュリンは声のしたほうへ足を進める。たどりついたのは、地下室へと続く階段。
ごくりとつばを飲み込んで、アシュリンはゆっくりと地下室へ続く階段を下りていく。
地下室は広くて、薄暗い。
「本当にここから聞こえたの?」
「うん、今でも呼ばれている気がするもん」
『その通り!』
ビュンっと風を切る音とともに、なにかがアシュリンの目の前に飛び出してきた!
28
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!
沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。
「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」
Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。
さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。
毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。
騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。
悪役令嬢は魔神復活を応援しません!
豆狸
ファンタジー
魔神復活!
滅びるのは世界か、悪役令嬢ラヴァンダか……って!
どっちにしろわたし、大公令嬢ラヴァンダは滅びるじゃないですか。
前世から受け継いだ乙女ゲームの知識を利用して、魔神復活を阻止してみせます。
とはいえ、わたしはまだ六歳児。まずは家庭の平和から──
沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜
雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。
剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。
このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。
これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は
「このゲームをやれば沢山寝れる!!」
と言いこのゲームを始める。
ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。
「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」
何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は
「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」
武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!!
..........寝ながら。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~
ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎
2024年8月6日より配信開始
コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。
⭐︎書籍化決定⭐︎
第1巻:2023年12月〜
第2巻:2024年5月〜
番外編を新たに投稿しております。
そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。
書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。
改稿を入れて読みやすくなっております。
可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。
書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。
いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。
山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。
初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15をつけました
※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。
作品としての変更はございませんが、修正がございます。
ご了承ください。
※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。
依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる