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2章:14歳
54話
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ローランドさんとディアナさん、それからグレアムさんは顔を見合わせていた。ルイひとりだけ、肩をすくめているのが見えた。……どういうことなの?
「錬金術って、こんなに若い女の子が出来るんだ……」
「そんなに珍しいんですか、錬金術師」
「王都ではね。昔は凄腕の錬金術師が居たんだけど、預言者によって国王から王都を追い出されたって聞いたことがある」
王都でそんなことがあったんだ。知らなかった。預言者……一体どんな予言をしたのかしら。気になるような、気にしなくても良いような……。
「その錬金術師は弟子もいなかったらしく、徐々に錬金術師は王都から離れて行ったらしい。どこを探してもその錬金術師に出会えなかった、と」
「へぇ……、すごい錬金術師だったんですね~……。一体どんな人だったんでしょうか?」
「優しい人だったらしいよ。……とはいえ、もう何年も前のことだから、美化されているのかもしれないけど……」
人の噂って酷くなるか美化されるかの二択って感じがするよね。
「まぁ、そんなわけで王都に錬金術師がいるって、稀なことなんだ」
「そうだったんですね……」
確かに錬金術師って自分でなるって感じじゃないもんね。代々伝わっていることを継承させるような……。この世界には錬金術師の学校はないのかな? 原作を思い出そうとしたけど、さすがにそこまでは覚えていなかった。
錬金術のレシピはあるから、自分の錬金術のレシピを継承させるために弟子を取る人も居るみたい。お父さんは、『メイベルが継いでくれるだろう?』と言っていた。あと、ロベールにも基本的なことは教えるから、そこから自分の好きなように錬金術を楽しむと良い、って言っていたっけ。
お父さんのことを思い出して、懐かしむように目を伏せて空間収納鞄を撫でる。お父さんが作ったこの鞄と錬金釜、ずっと大事に使おう。
「ちなみにメイさんは誰に錬金術を教わったのですか?」
「父です」
「ポーションの作り方や、ハンドクリームの作り方などを?」
「はい。父に基本を教わって、後は自分の好きなようにアレンジしました」
「……それを、許されていたのですか?」
「はい。父は自分のレシピに拘らず、自由にして良いと教わりました」
昔のレシピよりもより良いレシピが出来るほうが良いから、って。それを伝えると、ローランドさんとディアナさんは表情を和らげて「良いお父さまですね」と声を重ねた。
「……では、このポーションとハンドクリームを登録させていただきます。販売元は決まっているのですか?」
「グレアムさんのお父さまのお店に卸そうと思っています」
「ああ、だからグレアムが一緒だったのか」
すい、とローランドさんがグレアムさんに視線を向けた。グレアムさんは一瞬たじろぐように一歩足を引いたけど、ルイがバシンッとグレアムさんの背中を叩いた。グレアムさんは痛そうに表情を歪めたけど、すぐに真剣な表情を浮かべて、頭を下げた。
「父の店の評判が落ちていることは知っています。ですが、メイちゃんのおかげでなんとかなりそうなんです! どうか、販売元の許可をください!」
……許可制だったの!?
私はてっきり、自分が渡したいところに渡せるのだと思っていた。グレアムさんとローランドさんを交互に見ると、ローランドさんが困ったように眉を下げた。そして膝の上に手を置いて、そっと手を組む。
「登録された商品は、我々商業ギルドが認めた店しか卸せないんだ。契約で結ばれるからね。……それにしても、グレアムのところに卸す予定だったのか……」
「……ダメ、ですか?」
「彼の店は現在揉めているだろう? そこに卸しても、売れるかどうか……」
「……その問題って、冒険者ギルドに依頼してどうにかすることが出来ませんか?」
この世界には探偵のようなものはないみたいだし、問題ごとは大体冒険者ギルドに依頼して解決することになっている。――だから、グレアムさんが冒険者ギルドに依頼してくれないかなぁと思ってそう口にしたんだけど……。グレアムさんはあまり依頼したくないのか、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「……それは、その……」
「冒険者ギルドに依頼するってことは、その揉め事が表舞台に出るってことだ。それを厭う者は結構いる」
「揉め事が長く続くほうがつらいんじゃ……?」
「……その、父がなんていうか……」
「んーと……、じゃあ、私がグレアムさんのお父さんを説得します!」
立ち上がってグレアムさんに顔を向ける。私の言葉に、ぎょっとしたように目を見開いて、それから困惑しているように、ルイを見た。ルイは「メイの好きにさせたら?」と言っていた。
「ええと、メイちゃん。本当に良いの?」
ディアナさんの問いに、私はうなずいた。ローランドさんとディアナさんは顔を見合わせて、それからディアナさんが片手を頬に添えてほう、と息を吐いた。
「――まぁ、本人が関わることを望んでいるのなら……」
「ちなみに、商業ギルドはどうしてグレアムさんのお父さまの店が狙われたのか、知っていますか?」
「錬金術って、こんなに若い女の子が出来るんだ……」
「そんなに珍しいんですか、錬金術師」
「王都ではね。昔は凄腕の錬金術師が居たんだけど、預言者によって国王から王都を追い出されたって聞いたことがある」
王都でそんなことがあったんだ。知らなかった。預言者……一体どんな予言をしたのかしら。気になるような、気にしなくても良いような……。
「その錬金術師は弟子もいなかったらしく、徐々に錬金術師は王都から離れて行ったらしい。どこを探してもその錬金術師に出会えなかった、と」
「へぇ……、すごい錬金術師だったんですね~……。一体どんな人だったんでしょうか?」
「優しい人だったらしいよ。……とはいえ、もう何年も前のことだから、美化されているのかもしれないけど……」
人の噂って酷くなるか美化されるかの二択って感じがするよね。
「まぁ、そんなわけで王都に錬金術師がいるって、稀なことなんだ」
「そうだったんですね……」
確かに錬金術師って自分でなるって感じじゃないもんね。代々伝わっていることを継承させるような……。この世界には錬金術師の学校はないのかな? 原作を思い出そうとしたけど、さすがにそこまでは覚えていなかった。
錬金術のレシピはあるから、自分の錬金術のレシピを継承させるために弟子を取る人も居るみたい。お父さんは、『メイベルが継いでくれるだろう?』と言っていた。あと、ロベールにも基本的なことは教えるから、そこから自分の好きなように錬金術を楽しむと良い、って言っていたっけ。
お父さんのことを思い出して、懐かしむように目を伏せて空間収納鞄を撫でる。お父さんが作ったこの鞄と錬金釜、ずっと大事に使おう。
「ちなみにメイさんは誰に錬金術を教わったのですか?」
「父です」
「ポーションの作り方や、ハンドクリームの作り方などを?」
「はい。父に基本を教わって、後は自分の好きなようにアレンジしました」
「……それを、許されていたのですか?」
「はい。父は自分のレシピに拘らず、自由にして良いと教わりました」
昔のレシピよりもより良いレシピが出来るほうが良いから、って。それを伝えると、ローランドさんとディアナさんは表情を和らげて「良いお父さまですね」と声を重ねた。
「……では、このポーションとハンドクリームを登録させていただきます。販売元は決まっているのですか?」
「グレアムさんのお父さまのお店に卸そうと思っています」
「ああ、だからグレアムが一緒だったのか」
すい、とローランドさんがグレアムさんに視線を向けた。グレアムさんは一瞬たじろぐように一歩足を引いたけど、ルイがバシンッとグレアムさんの背中を叩いた。グレアムさんは痛そうに表情を歪めたけど、すぐに真剣な表情を浮かべて、頭を下げた。
「父の店の評判が落ちていることは知っています。ですが、メイちゃんのおかげでなんとかなりそうなんです! どうか、販売元の許可をください!」
……許可制だったの!?
私はてっきり、自分が渡したいところに渡せるのだと思っていた。グレアムさんとローランドさんを交互に見ると、ローランドさんが困ったように眉を下げた。そして膝の上に手を置いて、そっと手を組む。
「登録された商品は、我々商業ギルドが認めた店しか卸せないんだ。契約で結ばれるからね。……それにしても、グレアムのところに卸す予定だったのか……」
「……ダメ、ですか?」
「彼の店は現在揉めているだろう? そこに卸しても、売れるかどうか……」
「……その問題って、冒険者ギルドに依頼してどうにかすることが出来ませんか?」
この世界には探偵のようなものはないみたいだし、問題ごとは大体冒険者ギルドに依頼して解決することになっている。――だから、グレアムさんが冒険者ギルドに依頼してくれないかなぁと思ってそう口にしたんだけど……。グレアムさんはあまり依頼したくないのか、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「……それは、その……」
「冒険者ギルドに依頼するってことは、その揉め事が表舞台に出るってことだ。それを厭う者は結構いる」
「揉め事が長く続くほうがつらいんじゃ……?」
「……その、父がなんていうか……」
「んーと……、じゃあ、私がグレアムさんのお父さんを説得します!」
立ち上がってグレアムさんに顔を向ける。私の言葉に、ぎょっとしたように目を見開いて、それから困惑しているように、ルイを見た。ルイは「メイの好きにさせたら?」と言っていた。
「ええと、メイちゃん。本当に良いの?」
ディアナさんの問いに、私はうなずいた。ローランドさんとディアナさんは顔を見合わせて、それからディアナさんが片手を頬に添えてほう、と息を吐いた。
「――まぁ、本人が関わることを望んでいるのなら……」
「ちなみに、商業ギルドはどうしてグレアムさんのお父さまの店が狙われたのか、知っていますか?」
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