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2章:14歳
52話
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ナタンが不思議そうな顔をしていたけれど、私は軽く手を振って「出掛けないといけないから、行ってきます!」と言って部屋から出た。
「……行ってらっしゃい」
柔らかな……そんな声が、聞こえた。
荷物はすべてこの空間収納鞄に入っているから、そのまま食堂に向かう。食堂には既にルイの姿があって、私を待ってくれていたみたいだ。
「おはよう、メイ」
「おはよう、ルイ。今日登録するものなんだけど――」
私が登録しようと思っているものを並べると、ルイは真剣にそれらを見てくれた。そして、こう提案してきた。
「小出しにしていこう」
「小出し?」
ルイが首を縦に動かす。そして、ポーションとハンドクリームを手に取って、「今日はこれだけ」と軽く動かす。
「……それだけ?」
「そう。鑑定持ちだからかな? 質の良いものばかりだ。誰かが同じように作ろうとしても、中々出来ないことだろう。だから、ふたつだけ。反応を見ながら増やしていったほうが良いと思う。これだけの品質のものが作れるなら、冒険者じゃなくてこっちを専門にしてくれって言われる可能性もあるしね」
それは困る。私の目的と違う職になるのはちょっと……。
「そのうちメイのお店が出来たりして」
「それはそれで楽しそうだけど、私は冒険者のままでいたいなぁ……」
お父さんと村の人たちのように、信頼関係を築いていくという人生も楽しそうだけど、私はこの世界を巡りたい。
「……とりあえず、ポーションをグレアムたちの店に卸すなら、これだけはきちんと登録しないと」
「うん。……私、ポーションって自分で作ったものか、お父さんが作ったものしか知らないんだけど……、これ、ルイの目から見ても品質良いの?」
「鑑定持っているんだろ?」
「持っているけど……、私、錬金術師としては素人同然だもの。他のポーション見たことないし……。こういうのは、長らく冒険者を続けているルイのほうが詳しいんじゃないかなって」
「うーん、俺の場合、ほぼ勘で選んでいるからなぁ……」
……ポーションを選ぶのに勘って必要なんだろうか……。ルイはゴソゴソと自分が常備しているポーションを取り出して、見せてくれた。
『ポーション。かなり上質なもの。最高級の素材で作られたもの。また、技術者の技術も素晴らしい! しかしもう一割ほどの力があれば、ポーションとして最高級品になるだろう。惜しい』
……この鑑定、結構感情あるよね……。
「すごい、かなり上質のものらしいよ。惜しいらしいけど」
「そんなことまでわかるの? 鑑定ってよくわからないけどすごいな」
「……私もよくわからない……」
見ようと思わないと見えないし。いや、自分でコントロールできずにあちこち見るのも困るけど。
「とりあえず、ご飯食べて待ち合わせ場所に行こう」
「うん、そうしよう」
私たちの会話が終わると同時に、朝食が運ばれてきた。タイミングを計っていたかのように。ジェフリーがホットサンドとコーヒーを用意してくれたみたいだ。
この世界って食が結構……いやかなり豊かだ。コーヒーも紅茶もあるし、ハーブティーだってある。食事だって和食だったり洋食だったり、いろいろ選べるもんね……。うーん、不思議な世界。
「それじゃあいただこうか」
「うん」
私とルイは食事をして、食器を片付けてから待ち合わせの場所へと向かった。
グレアムさんとの待ち合わせ場所は、なんと冒険者ギルドの前だ。
私たちが冒険者ギルドの前につくと見知った人が立っていた。グレアムさんが既に来ていることに驚きつつもルイが声を掛ける。
「おはよう、早いな、グレアム」
「おはよう、ルイ、メイちゃん。いやぁ、なんだかソワソワしちゃって……」
私の作ったポーションが登録されたら、少しは巻き返せるのだろうか……。グレアムさんはひらひらと手を振ってから、「それじゃあ行こうか」と道を指した。私が小さくうなずくと歩き出す。
冒険者ギルド、ルイのお屋敷、グレアムさんのお父さんが開いているお店、くらいしかまだ知らない。今日は一体、どんな場所を覚えられるのだろう。そのことにワクワクしながら、足を進めた。
「それじゃあ、まずはやっぱりメイのポーションを登録しないといけないから、そこかな?」
「うん、そうしよう。うちにメイちゃんのポーション置けるのって本当にありがたいよ……。昨日、あれからうちに連絡がきてさ、誰がどうやってあのポーションを作ったんだって問い詰められたよ」
グレアムさんが肩をすくめながらそう言った。……誰が、どうやって……って?
「……それはどういう意味なんでしょうか……」
「そのままの意味だろうね。あんなボロボロの素材でどうやって作ったんだって」
「デスヨネ~……」
精霊たちの力を借りたからあの素材でも普通の品質のポーションが作れた。そうなると、あの素材を売りつけていた人たちが不審がる。そこまでは私にも理解できる。……ただ、理解できないのは、どうしてあのお店が狙われたのか、よ。いくら奥さまが亡くなったからって、一気に潰そうとする?
そこが解せないのよねぇ……。
「……行ってらっしゃい」
柔らかな……そんな声が、聞こえた。
荷物はすべてこの空間収納鞄に入っているから、そのまま食堂に向かう。食堂には既にルイの姿があって、私を待ってくれていたみたいだ。
「おはよう、メイ」
「おはよう、ルイ。今日登録するものなんだけど――」
私が登録しようと思っているものを並べると、ルイは真剣にそれらを見てくれた。そして、こう提案してきた。
「小出しにしていこう」
「小出し?」
ルイが首を縦に動かす。そして、ポーションとハンドクリームを手に取って、「今日はこれだけ」と軽く動かす。
「……それだけ?」
「そう。鑑定持ちだからかな? 質の良いものばかりだ。誰かが同じように作ろうとしても、中々出来ないことだろう。だから、ふたつだけ。反応を見ながら増やしていったほうが良いと思う。これだけの品質のものが作れるなら、冒険者じゃなくてこっちを専門にしてくれって言われる可能性もあるしね」
それは困る。私の目的と違う職になるのはちょっと……。
「そのうちメイのお店が出来たりして」
「それはそれで楽しそうだけど、私は冒険者のままでいたいなぁ……」
お父さんと村の人たちのように、信頼関係を築いていくという人生も楽しそうだけど、私はこの世界を巡りたい。
「……とりあえず、ポーションをグレアムたちの店に卸すなら、これだけはきちんと登録しないと」
「うん。……私、ポーションって自分で作ったものか、お父さんが作ったものしか知らないんだけど……、これ、ルイの目から見ても品質良いの?」
「鑑定持っているんだろ?」
「持っているけど……、私、錬金術師としては素人同然だもの。他のポーション見たことないし……。こういうのは、長らく冒険者を続けているルイのほうが詳しいんじゃないかなって」
「うーん、俺の場合、ほぼ勘で選んでいるからなぁ……」
……ポーションを選ぶのに勘って必要なんだろうか……。ルイはゴソゴソと自分が常備しているポーションを取り出して、見せてくれた。
『ポーション。かなり上質なもの。最高級の素材で作られたもの。また、技術者の技術も素晴らしい! しかしもう一割ほどの力があれば、ポーションとして最高級品になるだろう。惜しい』
……この鑑定、結構感情あるよね……。
「すごい、かなり上質のものらしいよ。惜しいらしいけど」
「そんなことまでわかるの? 鑑定ってよくわからないけどすごいな」
「……私もよくわからない……」
見ようと思わないと見えないし。いや、自分でコントロールできずにあちこち見るのも困るけど。
「とりあえず、ご飯食べて待ち合わせ場所に行こう」
「うん、そうしよう」
私たちの会話が終わると同時に、朝食が運ばれてきた。タイミングを計っていたかのように。ジェフリーがホットサンドとコーヒーを用意してくれたみたいだ。
この世界って食が結構……いやかなり豊かだ。コーヒーも紅茶もあるし、ハーブティーだってある。食事だって和食だったり洋食だったり、いろいろ選べるもんね……。うーん、不思議な世界。
「それじゃあいただこうか」
「うん」
私とルイは食事をして、食器を片付けてから待ち合わせの場所へと向かった。
グレアムさんとの待ち合わせ場所は、なんと冒険者ギルドの前だ。
私たちが冒険者ギルドの前につくと見知った人が立っていた。グレアムさんが既に来ていることに驚きつつもルイが声を掛ける。
「おはよう、早いな、グレアム」
「おはよう、ルイ、メイちゃん。いやぁ、なんだかソワソワしちゃって……」
私の作ったポーションが登録されたら、少しは巻き返せるのだろうか……。グレアムさんはひらひらと手を振ってから、「それじゃあ行こうか」と道を指した。私が小さくうなずくと歩き出す。
冒険者ギルド、ルイのお屋敷、グレアムさんのお父さんが開いているお店、くらいしかまだ知らない。今日は一体、どんな場所を覚えられるのだろう。そのことにワクワクしながら、足を進めた。
「それじゃあ、まずはやっぱりメイのポーションを登録しないといけないから、そこかな?」
「うん、そうしよう。うちにメイちゃんのポーション置けるのって本当にありがたいよ……。昨日、あれからうちに連絡がきてさ、誰がどうやってあのポーションを作ったんだって問い詰められたよ」
グレアムさんが肩をすくめながらそう言った。……誰が、どうやって……って?
「……それはどういう意味なんでしょうか……」
「そのままの意味だろうね。あんなボロボロの素材でどうやって作ったんだって」
「デスヨネ~……」
精霊たちの力を借りたからあの素材でも普通の品質のポーションが作れた。そうなると、あの素材を売りつけていた人たちが不審がる。そこまでは私にも理解できる。……ただ、理解できないのは、どうしてあのお店が狙われたのか、よ。いくら奥さまが亡くなったからって、一気に潰そうとする?
そこが解せないのよねぇ……。
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