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2章:14歳
49話
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その他にも初めて自分で討伐依頼を受けてゴブリンと戦い、怪我したことやダンジョンに潜って宝箱を見つけた時の感動を話してくれた。
他にもいろいろ聞いてみたかったけれど、明日出掛けるんでしょ、とルイに言われたから、「また今度教えてね!」と約束をして、お茶を全て飲んでからダーシーと一緒に自室まで歩く。
「ダーシーはずっとこのお屋敷で働いていたの?」
「いえ、ルイさまがこの屋敷を贈呈されてからです」
レッドドラゴンを倒した後に屋敷を贈呈されたんだっけ。なんか私、改めて考えるとすごい人と一緒にパーティ組んでいるような……。平々凡々なのって私だけなのでは?
「ルイさまが住まうと耳にして、ジェフリーと共に志願したのです。この屋敷で働きたい、と」
「……ルイと一緒に暮らしたかったってこと?」
それはもしや、ダーシーはルイのことを……? ドキドキしながら尋ねると、ダーシーは足を止めて、それから考えるように視線を巡らせてから私を見て、小さく笑う。
「恩を返したかったのです。私とジェフリーは、ルイさまに助けられましたから。……ただ、本人はそのことを覚えていないようですが……」
あまり残念そうではない、明るい口調だった。
「私には想い人がおりますので、ご安心ください」
自分の胸元に手を当ててそう言い切ったダーシーがあまりにも綺麗で驚いた。『恋をしている顔』と言うべきか……そう言えば私、前世でも恋なんてしたことなかったな。……この世界では恋、出来るのかな……。
「……『ご安心ください』?」
そして、ダーシーの言葉に、ん? と首を傾げた。それではまるで、私がルイのことを好きだから気にしているって感じじゃない? そりゃルイのことは良い人だと思うけれど、それが恋に繋がるかどうかわからない。……混乱していると、ダーシーがクスクスと笑っているのが聞こえた。……もしかして、からかわれた?
「申し訳ございません。あまりにも表情がコロコロ変わっていたので……。私に想い人が居るのは本当です。と言うか、付き合っています。ですので、ルイさまに対する私の思いは、恋慕ではなく謝意なのです」
「……そうなんだ~……」
ルイに助けられてとても感謝していることはひしひし伝わったけれど、肝心のルイがどうやってダーシーたちを助けたのかがわからなくて、少しモヤモヤする。……けど、それを聞く勇気もないから相槌を打った。だってあまり詮索するのもアレじゃない?
「気になりますか?」
「正直に言えば気になるけれど、ダーシーが話したくない内容なら聞かない」
きっぱりとそう言うと、ダーシーは少し驚いたように目を丸くした。どうしてそんな反応になるのかがわからなくて、「ダーシー?」と声を掛けると彼女はふっと笑みを浮かべてそれからそっと私の肩に手を置いた。
「あなたのような人と会話するのは、とても楽しいです」
「あ、ありがとう?」
褒められた?
「ルイさまのことを怖がらない人も珍しいですし……」
「人を見た目で判断しちゃダメって教わっていたの」
「そうですか、それはとても良いことですが、危険でもありますね……」
「危険?」
「見るからに怪しい人には近付いてはいけませんよ」
「例えば、どんな?」
「スラムに住んでいるガラの悪い連中や、初対面でいきなりボディタッチをする人たち……。冒険者たちの中でも、良い人とそうでもない人が居ますから、自衛は大事です」
……ダーシーも冒険者だったりしたのかな? と言うか初対面でいきなりボディタッチってどこを触られるのだろうか。……いや、ちょっと考えただけでもぞわっとした。
「……待って、スラムってあるの?」
「ありますよ。近付かないほうが身のためです」
そう言ってまた歩き出すダーシーに付いていくように私も足を進めた。
「ルイさまがそんなところに案内するとは思いませんが……。メイさんも近付かないように気をつけてくださいね。世の中、悪い人も多いのです」
……小説の中にはそんな描写はなかったような気がするけれど……。小説は小説、こっちはこっちって感じなのかな? だとしたら、小説との違いを確かめる旅っていうのも楽しそう。
「……スラムに住んでいる人たちって、どんな人たちなの?」
「お金のない人たちが主ですね。家もない子たちも多いです。家があっても、取られたり、騙されたり……。スラムから程遠い商店では毎日万引きされているとか……」
「……それだけ、生きるのに必死ってことよね……」
「……ええ、ですが、同情心で近付いてはなりません。……私たちに、出来ることはないのですから……」
ダーシーは悲しそうに目を伏せてそう言った。……出来ることはない、か。……どのくらいの人数が居るのかもわからない。……この世界には、一体どれだけの『闇』があるのだろう? そんなことを考えながら歩き、自室までついた。
「それでは、おやすみなさいませ」
「うん、おやすみ」
ぺこりと頭を下げて、ダーシーは別のほうへ歩いて行った。私は自室へ入り、ぱたんと扉を閉める。
「……ねえ、スラムの人たちがどんな生活をしているのか、知っている?」
精霊たちに声を掛けると、精霊たちは私の周りをうろうろと飛んで悩んでいるように見えた。
他にもいろいろ聞いてみたかったけれど、明日出掛けるんでしょ、とルイに言われたから、「また今度教えてね!」と約束をして、お茶を全て飲んでからダーシーと一緒に自室まで歩く。
「ダーシーはずっとこのお屋敷で働いていたの?」
「いえ、ルイさまがこの屋敷を贈呈されてからです」
レッドドラゴンを倒した後に屋敷を贈呈されたんだっけ。なんか私、改めて考えるとすごい人と一緒にパーティ組んでいるような……。平々凡々なのって私だけなのでは?
「ルイさまが住まうと耳にして、ジェフリーと共に志願したのです。この屋敷で働きたい、と」
「……ルイと一緒に暮らしたかったってこと?」
それはもしや、ダーシーはルイのことを……? ドキドキしながら尋ねると、ダーシーは足を止めて、それから考えるように視線を巡らせてから私を見て、小さく笑う。
「恩を返したかったのです。私とジェフリーは、ルイさまに助けられましたから。……ただ、本人はそのことを覚えていないようですが……」
あまり残念そうではない、明るい口調だった。
「私には想い人がおりますので、ご安心ください」
自分の胸元に手を当ててそう言い切ったダーシーがあまりにも綺麗で驚いた。『恋をしている顔』と言うべきか……そう言えば私、前世でも恋なんてしたことなかったな。……この世界では恋、出来るのかな……。
「……『ご安心ください』?」
そして、ダーシーの言葉に、ん? と首を傾げた。それではまるで、私がルイのことを好きだから気にしているって感じじゃない? そりゃルイのことは良い人だと思うけれど、それが恋に繋がるかどうかわからない。……混乱していると、ダーシーがクスクスと笑っているのが聞こえた。……もしかして、からかわれた?
「申し訳ございません。あまりにも表情がコロコロ変わっていたので……。私に想い人が居るのは本当です。と言うか、付き合っています。ですので、ルイさまに対する私の思いは、恋慕ではなく謝意なのです」
「……そうなんだ~……」
ルイに助けられてとても感謝していることはひしひし伝わったけれど、肝心のルイがどうやってダーシーたちを助けたのかがわからなくて、少しモヤモヤする。……けど、それを聞く勇気もないから相槌を打った。だってあまり詮索するのもアレじゃない?
「気になりますか?」
「正直に言えば気になるけれど、ダーシーが話したくない内容なら聞かない」
きっぱりとそう言うと、ダーシーは少し驚いたように目を丸くした。どうしてそんな反応になるのかがわからなくて、「ダーシー?」と声を掛けると彼女はふっと笑みを浮かべてそれからそっと私の肩に手を置いた。
「あなたのような人と会話するのは、とても楽しいです」
「あ、ありがとう?」
褒められた?
「ルイさまのことを怖がらない人も珍しいですし……」
「人を見た目で判断しちゃダメって教わっていたの」
「そうですか、それはとても良いことですが、危険でもありますね……」
「危険?」
「見るからに怪しい人には近付いてはいけませんよ」
「例えば、どんな?」
「スラムに住んでいるガラの悪い連中や、初対面でいきなりボディタッチをする人たち……。冒険者たちの中でも、良い人とそうでもない人が居ますから、自衛は大事です」
……ダーシーも冒険者だったりしたのかな? と言うか初対面でいきなりボディタッチってどこを触られるのだろうか。……いや、ちょっと考えただけでもぞわっとした。
「……待って、スラムってあるの?」
「ありますよ。近付かないほうが身のためです」
そう言ってまた歩き出すダーシーに付いていくように私も足を進めた。
「ルイさまがそんなところに案内するとは思いませんが……。メイさんも近付かないように気をつけてくださいね。世の中、悪い人も多いのです」
……小説の中にはそんな描写はなかったような気がするけれど……。小説は小説、こっちはこっちって感じなのかな? だとしたら、小説との違いを確かめる旅っていうのも楽しそう。
「……スラムに住んでいる人たちって、どんな人たちなの?」
「お金のない人たちが主ですね。家もない子たちも多いです。家があっても、取られたり、騙されたり……。スラムから程遠い商店では毎日万引きされているとか……」
「……それだけ、生きるのに必死ってことよね……」
「……ええ、ですが、同情心で近付いてはなりません。……私たちに、出来ることはないのですから……」
ダーシーは悲しそうに目を伏せてそう言った。……出来ることはない、か。……どのくらいの人数が居るのかもわからない。……この世界には、一体どれだけの『闇』があるのだろう? そんなことを考えながら歩き、自室までついた。
「それでは、おやすみなさいませ」
「うん、おやすみ」
ぺこりと頭を下げて、ダーシーは別のほうへ歩いて行った。私は自室へ入り、ぱたんと扉を閉める。
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