上 下
33 / 54
2章:14歳

33話

しおりを挟む
 馬車で森へ向かい、目的地の近くで降りる。セレストはナタンにエスコートされて降りた。その姿がとっても貴族! エスコートし慣れている男性と、エスコート慣れしている女性。この部分だけ抜き取ると、お忍び貴族の道中って感じ。私もルイにエスコートしてもらったけど、あんな感じには出来なかった。ただ単に手を繋いで降りただけって感じ。うーん、やっぱり貴族ってひとつひとつの動きが洗礼されているのよね……。……セレスト以外の貴族って見たことないけど。

「森のどこら辺に巣窟があるかってわかるの?」

 ルイに尋ねると、ルイは「もちろん」と首を縦に振った。ナタンとセレストは武器を持つ。私も鞄から弓と弓矢を取り出した。

「それじゃあ、少し待って」

 ルイはそう言うと、タン、と靴を鳴らすように地面を叩きつけるように踏んだ。なにをしているのかな? とルイをじっと見つめると、その視線に気付いたのかこちらに顔を向けたルイが、「こっちだよ」と森の奥のほうへ指差した。

「ルイは魔物の位置がわかるのか?」
「うん。なんか、気付いたらそういうことが出来るようになっていた」
「まぁ、それはとても便利な能力ですね」
「うん。そのおかげでメイたちを助けることが出来たからね」

 ……そっか、私たちが魔物に襲われた時に、この能力を使って助けに来てくれたのか。ルイの能力便利だなぁ。

「その節はお世話になりました」
「こちらこそ」

 レオパート・クイーンを倒した時のことを思い出して、小さく口角を上げた。そして、ルイの案内でゴブリンの巣窟まであっという間に辿り着いた。

「メイ、これをあの洞穴前に落せるか?」

 煙玉を取り出したルイは私に差し出しながらそう聞いて来た。私は、煙玉を受け取って、「やってみる」と力強くうなずく。

「ええと、この煙玉をこうやって括りつけて……」

 紐を取り出してなんとか弓矢に括りつける。しっかりと紐を結んで、落ちないように工夫した。

「……これ、どうやって火をつけるの?」

 火をつけるところがあるから、火をつけてから?

「じゃあ、オレがつけよう」
「えっ?」

 ナタンって魔法が使えるの? と目を瞬かせると、セレストがにこにこと笑いながらナタンが得意とする魔法を教えてくれた。彼は火と水の魔法が得意らしく、さらに言えばその属性を剣に纏わせて戦う魔法剣士。なるほど、魔法剣士ってそういうことなのか! 人が魔法を使うところを見るのって、実は珍しいからわくわくして来た! そりゃあお父さんが魔法を使ったところを見たことはあるけれど、身内以外の人は初めてかも。

「では、お願いします」

 私は茂みの中にしゃがみ込んだまま、弓を構える。狙いを定めて――射る! 狙い通りに洞穴近くへ落とすことが出来た。そして、それと同時にナタンが人差し指に魔力を集めてすっと狙いを定めて煙玉に火を点けた。……もしかしてこれ、ナタンのほうが難易度高いんじゃ? ただ、洞穴のほうに煙が行くかわからなかったから、私はこっそり風の精霊に洞穴の中に煙を流し込むように頼んだ。風の精霊は「いいよー」とあっさり了承してくれた……。

「あら、すごいですわ……。煙が洞穴に吸い込まれているみたい……」

 セレストの言葉にちょっとだけ肩をびくっと跳ね上げた。ルイが意味深に微笑んでいるのが見えたけれど、私はそっと顔を逸らした。

「さて、それじゃあ今のうちに、セレスト、お願いします」
「もちろんですわ」

 セレストが心得たとばかりに綺麗に微笑んで、杖を握って目を閉じる。セレストがなにかを呟いているけれど、何語なのかさっぱりわからない。……でも、なんだか身体が軽くなったような気がした。なんだろう、これ?

「身体強化の神聖術です。回復と支援はわたくしにお任せあれ」
「俺が先陣を切るから、ナタン、メイ、セレストも続いてくれ。あ、セレストはフォローでね」
「ええ、残念ながらわたくしに攻撃力はありませんから……」

 武器も杖だしね。しかもなんだか神聖な気がするから、攻撃するには向かないだろう。

「メイ、……クイーンのような戦い方はしなくて良い。出来れば、俺が捌けなかった敵を集中して倒して。ナタン、出来るだけセレストのフォローを頼む。神聖術持ちってことは、一番的になりやすいからな」
「……ルイはこういう連係プレーに慣れているのね?」
「うん、まぁね」

 きっとルイはこうやって生きてきたんだろうなぁ……。そして、匂いにおびき寄せられたゴブリンたちがわらわらと出てきた。私は深呼吸を繰り返して、一度ぐっと拳を強く握ってからすぐに離す。大丈夫、ルイの強さを知っている。それに、ナタンとセレストがどんな戦いをするのかをこの眼に焼き付けないと!
 前衛であるルイとナタン、後衛である私とセレスト。
 ――さぁ、ゴブリン五十匹討伐、開始!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

処理中です...