負けヒロインは自由を求める!

秋月一花

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2章:14歳

32話

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 セレストのお願いは聞いてみると簡単なことだった。香り付きのハンドクリームを作り、それを実家の母や姉に贈りたいとのことだ。貴族に使ってもらえるのはありがたいけれど……。

「お母さまにはバラ、お姉さまたちにはラベンダーとジャスミン。……本当は屋敷で働いている使用人たちにも渡したいけれど……、現在どのくらいの人数が働いているのか、わたくしは把握しておりませんから……」

 頬に手を添えて眉を下げるセレストに、私は「そうなんだ……」としか言えなかった。セレストって貴族で言うとどのくらいの階級なんだろう? 屋敷で働いている人数がわからないってことは、かなり高い身分の人なのかな……? でも、そんなに高い身分の人が冒険者になれるもの……?
 私がそんなことを考えていると、ナタンが「結構入れ替わり激しいからな」とフォローなのか、ただ単に真実を伝えようとしたのか、よくわからないが追加の情報をくれた。

「うん……?」
「使用人たちはより良い環境を求めているからな……」
「ああ、それで入れ替わりが激しい……」
「そういうこと。どうせ働くのなら、より良いところへ行きたいだろう?」

 ……貴族の使用人も結構シビアな世界で生きているのかしら? 代々その家に仕えているとか、どうしてもこの家で働きたい! って人が押し寄せて来るのかと思ったけれど、私の想像とは全く違うらしい。

「……ええと、とりあえず、今日この後のことを話さないか?」

 ルイがおずおずと手を上げて私たちに話しかけてきた。今日はまだ始まったばかり。そうだよね、先にこれからのことを考えないと!

「はい! 冒険者ギルドで依頼を受けたいです」
「うん、どんな依頼を受けたい? 正直、メイの錬金術の腕なら、ポーションの補充や素材の調達なんかも出来ると思う」
「魔物退治が良いです。私、まだ魔物との戦闘に慣れていないから……」

 やっぱり冒険者と言えば魔物退治ってイメージがあるから、魔物と戦うことを優先したい。今の私の腕で、ルイたちと並べるとは思っていないけれど……。

「なら、今度は……そうだな、オレらの連携も試してみたいし、少し多めの討伐依頼を受けてみるか?」

 ナタンが考えるように顎に手を掛けて、それから提案して来た。昨日戦ったのは私だけだから、他の人たちの戦い方は知らない。私がこくりとうなずくと、セレストとルイもうなずいた。
 冒険者ギルドに向かう前に、ジェフリーとダーシーが食器を洗うのを手伝ってから、後のことを任せて冒険者ギルドに足を進めた。もちろん、食器を洗ってからハンドクリームを塗って。一応食器洗い洗剤も肌に優しいものだけど、そのままにしていたら荒れてしまう。

「ああ、やっぱり良いわねぇ、この感じ……」

 手がしっとりすべすべなのが嬉しいのか、セレストがうっとりと呟いた。自分の作ったものを褒められるのは照れくさいけれど、嬉しくもあった。

「ええっと、昨日はジャイアント・クロウだったから……メジャーな辺りでゴブリン討伐にでもしようか、五十匹」
「ご、五十!?」

 ルイが依頼ボードを眺めながらそう言った。五十匹ってかなりの数なんじゃ……? 私が目をぱちぱちと瞬かせていると、ナタンとセレストが「大丈夫だよ」と言ってくれた。……えええ、ゴブリン五十匹って結構大変だと思うんだけど……? 混乱している私をよそに、ルイはひょいとその依頼書を引っ張って受付へ持っていった。私たちも向かう。

「はい、ゴブリン五十匹討伐の依頼ですね、お気を付けください。代表者の方はここにサインをお願いします」
「はい」

 ナタンがさらさらとサインをして、私たちはゴブリン討伐の依頼を受けた。

「それじゃあ、森に向かおうか」
「森?」
「ゴブリンの巣窟があるから。おびき出して倒そう」

 ……巣窟を一網打尽にするわけじゃないんだ……。私が首を傾げると、ルイが小さく笑う。

「おびき出す?」
「うん。このゴブリンが好きな匂いを放つ煙玉を使うんだ」

 ゴソゴソと煙玉を取り出すルイに、私はマジマジとそれを眺めた。鑑定してみると、『煙玉(ゴブリン用)。ゴブリンが好きな匂い。匂いでゴブリンたちをおびき出せる』、とのこと。
 ……こういう便利グッズもあるのか……。いや、錬金術がある時点でもう便利な世の中なのは確定している。

「便利ですね」
「うん、便利。とりあえず、馬車まで向かおうか」

 みんなで一緒に馬車の待合所まで向かう。どうやら森へは馬車で向かえるらしい。

「そういえば、通行規制はもう良いの?」
「うん、クイーン倒したから。それよりも、強者がいなくなったから、こういう小回りの利く魔物が馬車や人を襲ったりするから、今のうちに倒しておこう」

 ……なるほど。強者が居る時は身を潜めて、強者が居なくなったらここぞとばかりに暴れまわるのね……。

「それじゃあ、がんばって退治ないとね!」
「うん、その意気!」

 ぐっと拳を握り込んで意気込むと、ルイがふわっと微笑んだ。
 パーティメンバー全員で馬車に乗り込み、ゴブリンの巣窟がある森へと向かった。
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