32 / 54
2章:14歳
32話
しおりを挟む
セレストのお願いは聞いてみると簡単なことだった。香り付きのハンドクリームを作り、それを実家の母や姉に贈りたいとのことだ。貴族に使ってもらえるのはありがたいけれど……。
「お母さまにはバラ、お姉さまたちにはラベンダーとジャスミン。……本当は屋敷で働いている使用人たちにも渡したいけれど……、現在どのくらいの人数が働いているのか、わたくしは把握しておりませんから……」
頬に手を添えて眉を下げるセレストに、私は「そうなんだ……」としか言えなかった。セレストって貴族で言うとどのくらいの階級なんだろう? 屋敷で働いている人数がわからないってことは、かなり高い身分の人なのかな……? でも、そんなに高い身分の人が冒険者になれるもの……?
私がそんなことを考えていると、ナタンが「結構入れ替わり激しいからな」とフォローなのか、ただ単に真実を伝えようとしたのか、よくわからないが追加の情報をくれた。
「うん……?」
「使用人たちはより良い環境を求めているからな……」
「ああ、それで入れ替わりが激しい……」
「そういうこと。どうせ働くのなら、より良いところへ行きたいだろう?」
……貴族の使用人も結構シビアな世界で生きているのかしら? 代々その家に仕えているとか、どうしてもこの家で働きたい! って人が押し寄せて来るのかと思ったけれど、私の想像とは全く違うらしい。
「……ええと、とりあえず、今日この後のことを話さないか?」
ルイがおずおずと手を上げて私たちに話しかけてきた。今日はまだ始まったばかり。そうだよね、先にこれからのことを考えないと!
「はい! 冒険者ギルドで依頼を受けたいです」
「うん、どんな依頼を受けたい? 正直、メイの錬金術の腕なら、ポーションの補充や素材の調達なんかも出来ると思う」
「魔物退治が良いです。私、まだ魔物との戦闘に慣れていないから……」
やっぱり冒険者と言えば魔物退治ってイメージがあるから、魔物と戦うことを優先したい。今の私の腕で、ルイたちと並べるとは思っていないけれど……。
「なら、今度は……そうだな、オレらの連携も試してみたいし、少し多めの討伐依頼を受けてみるか?」
ナタンが考えるように顎に手を掛けて、それから提案して来た。昨日戦ったのは私だけだから、他の人たちの戦い方は知らない。私がこくりとうなずくと、セレストとルイもうなずいた。
冒険者ギルドに向かう前に、ジェフリーとダーシーが食器を洗うのを手伝ってから、後のことを任せて冒険者ギルドに足を進めた。もちろん、食器を洗ってからハンドクリームを塗って。一応食器洗い洗剤も肌に優しいものだけど、そのままにしていたら荒れてしまう。
「ああ、やっぱり良いわねぇ、この感じ……」
手がしっとりすべすべなのが嬉しいのか、セレストがうっとりと呟いた。自分の作ったものを褒められるのは照れくさいけれど、嬉しくもあった。
「ええっと、昨日はジャイアント・クロウだったから……メジャーな辺りでゴブリン討伐にでもしようか、五十匹」
「ご、五十!?」
ルイが依頼ボードを眺めながらそう言った。五十匹ってかなりの数なんじゃ……? 私が目をぱちぱちと瞬かせていると、ナタンとセレストが「大丈夫だよ」と言ってくれた。……えええ、ゴブリン五十匹って結構大変だと思うんだけど……? 混乱している私をよそに、ルイはひょいとその依頼書を引っ張って受付へ持っていった。私たちも向かう。
「はい、ゴブリン五十匹討伐の依頼ですね、お気を付けください。代表者の方はここにサインをお願いします」
「はい」
ナタンがさらさらとサインをして、私たちはゴブリン討伐の依頼を受けた。
「それじゃあ、森に向かおうか」
「森?」
「ゴブリンの巣窟があるから。おびき出して倒そう」
……巣窟を一網打尽にするわけじゃないんだ……。私が首を傾げると、ルイが小さく笑う。
「おびき出す?」
「うん。このゴブリンが好きな匂いを放つ煙玉を使うんだ」
ゴソゴソと煙玉を取り出すルイに、私はマジマジとそれを眺めた。鑑定してみると、『煙玉(ゴブリン用)。ゴブリンが好きな匂い。匂いでゴブリンたちをおびき出せる』、とのこと。
……こういう便利グッズもあるのか……。いや、錬金術がある時点でもう便利な世の中なのは確定している。
「便利ですね」
「うん、便利。とりあえず、馬車まで向かおうか」
みんなで一緒に馬車の待合所まで向かう。どうやら森へは馬車で向かえるらしい。
「そういえば、通行規制はもう良いの?」
「うん、クイーン倒したから。それよりも、強者がいなくなったから、こういう小回りの利く魔物が馬車や人を襲ったりするから、今のうちに倒しておこう」
……なるほど。強者が居る時は身を潜めて、強者が居なくなったらここぞとばかりに暴れまわるのね……。
「それじゃあ、がんばって退治ないとね!」
「うん、その意気!」
ぐっと拳を握り込んで意気込むと、ルイがふわっと微笑んだ。
パーティメンバー全員で馬車に乗り込み、ゴブリンの巣窟がある森へと向かった。
「お母さまにはバラ、お姉さまたちにはラベンダーとジャスミン。……本当は屋敷で働いている使用人たちにも渡したいけれど……、現在どのくらいの人数が働いているのか、わたくしは把握しておりませんから……」
頬に手を添えて眉を下げるセレストに、私は「そうなんだ……」としか言えなかった。セレストって貴族で言うとどのくらいの階級なんだろう? 屋敷で働いている人数がわからないってことは、かなり高い身分の人なのかな……? でも、そんなに高い身分の人が冒険者になれるもの……?
私がそんなことを考えていると、ナタンが「結構入れ替わり激しいからな」とフォローなのか、ただ単に真実を伝えようとしたのか、よくわからないが追加の情報をくれた。
「うん……?」
「使用人たちはより良い環境を求めているからな……」
「ああ、それで入れ替わりが激しい……」
「そういうこと。どうせ働くのなら、より良いところへ行きたいだろう?」
……貴族の使用人も結構シビアな世界で生きているのかしら? 代々その家に仕えているとか、どうしてもこの家で働きたい! って人が押し寄せて来るのかと思ったけれど、私の想像とは全く違うらしい。
「……ええと、とりあえず、今日この後のことを話さないか?」
ルイがおずおずと手を上げて私たちに話しかけてきた。今日はまだ始まったばかり。そうだよね、先にこれからのことを考えないと!
「はい! 冒険者ギルドで依頼を受けたいです」
「うん、どんな依頼を受けたい? 正直、メイの錬金術の腕なら、ポーションの補充や素材の調達なんかも出来ると思う」
「魔物退治が良いです。私、まだ魔物との戦闘に慣れていないから……」
やっぱり冒険者と言えば魔物退治ってイメージがあるから、魔物と戦うことを優先したい。今の私の腕で、ルイたちと並べるとは思っていないけれど……。
「なら、今度は……そうだな、オレらの連携も試してみたいし、少し多めの討伐依頼を受けてみるか?」
ナタンが考えるように顎に手を掛けて、それから提案して来た。昨日戦ったのは私だけだから、他の人たちの戦い方は知らない。私がこくりとうなずくと、セレストとルイもうなずいた。
冒険者ギルドに向かう前に、ジェフリーとダーシーが食器を洗うのを手伝ってから、後のことを任せて冒険者ギルドに足を進めた。もちろん、食器を洗ってからハンドクリームを塗って。一応食器洗い洗剤も肌に優しいものだけど、そのままにしていたら荒れてしまう。
「ああ、やっぱり良いわねぇ、この感じ……」
手がしっとりすべすべなのが嬉しいのか、セレストがうっとりと呟いた。自分の作ったものを褒められるのは照れくさいけれど、嬉しくもあった。
「ええっと、昨日はジャイアント・クロウだったから……メジャーな辺りでゴブリン討伐にでもしようか、五十匹」
「ご、五十!?」
ルイが依頼ボードを眺めながらそう言った。五十匹ってかなりの数なんじゃ……? 私が目をぱちぱちと瞬かせていると、ナタンとセレストが「大丈夫だよ」と言ってくれた。……えええ、ゴブリン五十匹って結構大変だと思うんだけど……? 混乱している私をよそに、ルイはひょいとその依頼書を引っ張って受付へ持っていった。私たちも向かう。
「はい、ゴブリン五十匹討伐の依頼ですね、お気を付けください。代表者の方はここにサインをお願いします」
「はい」
ナタンがさらさらとサインをして、私たちはゴブリン討伐の依頼を受けた。
「それじゃあ、森に向かおうか」
「森?」
「ゴブリンの巣窟があるから。おびき出して倒そう」
……巣窟を一網打尽にするわけじゃないんだ……。私が首を傾げると、ルイが小さく笑う。
「おびき出す?」
「うん。このゴブリンが好きな匂いを放つ煙玉を使うんだ」
ゴソゴソと煙玉を取り出すルイに、私はマジマジとそれを眺めた。鑑定してみると、『煙玉(ゴブリン用)。ゴブリンが好きな匂い。匂いでゴブリンたちをおびき出せる』、とのこと。
……こういう便利グッズもあるのか……。いや、錬金術がある時点でもう便利な世の中なのは確定している。
「便利ですね」
「うん、便利。とりあえず、馬車まで向かおうか」
みんなで一緒に馬車の待合所まで向かう。どうやら森へは馬車で向かえるらしい。
「そういえば、通行規制はもう良いの?」
「うん、クイーン倒したから。それよりも、強者がいなくなったから、こういう小回りの利く魔物が馬車や人を襲ったりするから、今のうちに倒しておこう」
……なるほど。強者が居る時は身を潜めて、強者が居なくなったらここぞとばかりに暴れまわるのね……。
「それじゃあ、がんばって退治ないとね!」
「うん、その意気!」
ぐっと拳を握り込んで意気込むと、ルイがふわっと微笑んだ。
パーティメンバー全員で馬車に乗り込み、ゴブリンの巣窟がある森へと向かった。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

美人な姉と『じゃない方』の私
LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。
そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。
みんな姉を好きになる…
どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…?
私なんか、姉には遠く及ばない…

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる