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2章:14歳
16話
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魔物は大きなトラのような生き物だった。本物のトラなんて見たことないけど、きっとそれよりも何倍も大きい魔物だ。大きな魔物を見てみんなパニック状態になり、御者は一目散に逃げようとしたけれども、逃げたものを追うように魔物は御者と馬を狙い――鋭い爪を突き立てようとした瞬間、よくわからない悲鳴を上げた。――誰かが、魔物を攻撃したみたいだ。命が助かった御者と馬は、私たちを置いて逃げ去ってしまった。残された数人の同乗者と、魔物、そして魔物を攻撃した人。魔物の命はまだ尽きてなく、自分を攻撃した相手に向けて、威嚇をすると襲い掛かった。
「危ない!」
私がそう叫ぶのと同時に、魔物の首が跳ねられた。……びっくりして目を丸くした。他の人たちもそうだ。
「――……これが食えたらなぁ……」
ぽつり、と呟いて、私たちを助けてくれた人は倒れた。え? と思わず他の人たちと顔を見合わせる。……どうやらお腹が空いているようだけど……。私は慌てて助けてくれた人に駆け寄って、「大丈夫ですか?」と声を掛けた。――わぁ、格好いい。整った顔をしている人だ。艶のある黒髪をひとつに結んでいるようだ。気絶しているから、目の色はわからない。……ただ、このままだと血の匂いを追って他の魔物が来てしまう。
「――あの、誰か手伝ってくれませんか?」
「あ、ああ、そうだな……」
とにかく、ここから遠ざからないといけない。この黒髪の人、背が高いから私ひとりじゃ移動できない。なので、手伝ってもらってなんとかあの魔物から遠ざかることが出来た。ここまで来れば丈夫だろう、と思える場所まで移動し、黒髪の人を横たわらせる。その間に、これからどうしようかと話し合った。とにかく、ここから王都に向かうには歩くしかない。……黒髪の人に視線を向ける。この人とても強いみたいだけど、どうして倒れたのかな……。と、思ったら、彼のお腹がぐぅぅと鳴った。もしかして、お腹空いている?
「……」
じっとみんなが彼を見た。あの魔物を倒した彼は、空腹で倒れている……?
「……魔物ってまだいますかね……」
同じ馬車に乗っていた女性が、不安そうに呟いた。……弱い魔物ならともかく、強い魔物は……私、倒せないと思う。
「……この人を雇いませんか?」
「雇う?」
「王都までの間、護衛してもらうんです。彼の強さがあれば、無事にたどり着けると思うので……」
……序盤の村付近で、あんな魔物がいるとは思えなかった。だって、序盤だよ? あんな大きな魔物がいたら、まだまだ弱い勇者が倒されちゃう。きっと、なにか原因があるはずだ。
「そうだな……確かに、アレを見た後だと……不安だよな」
馬車に乗っていた男性が身体を震わせていた。あんなに大きな魔物、見たことないもの。ここら辺ではいない魔物だと思うんだけど……。
「……ん……?」
黒髪の人が起きたみたいだ。少し身体を動かして、私たちを見た。すると――あの馬車に乗っていた人たちが「ひっ!」と短い悲鳴を上げて後退る。なんでそんなに……? と思うと、黒髪の人はさっと彼女たちから顔を逸らす。その時に見えたのは、紅い瞳。まるでルビーのように真っ赤な瞳。
「綺麗ね!」
「……は?」
「あなたの目、ルビーみたい。さっきは助けてくれてありがとう!」
私が笑顔でそう言うと、彼はびっくりしたように目を大きく見開いて、それから唖然とした表情を浮かべた。……命の恩人にお礼を言うのは、そんなに変なことなのかな? 馬車に乗っていた人たちに視線を向けると、青ざめているんだけど……なんで?
「……あんた、気は確かか?」
「え?」
「この男の目は悪魔の目だろう! 災害を招く色だ!」
「……どういうことです?」
いきなりファンジーなことを言い出したぞ! ぎょっとして目を瞬かせると、黒髪の人は辛そうに俯いてしまった。
「こいつがいたから、魔物が現れたんだ!」
「目の色が紅いのは、不吉の象徴なのよ……」
「なんで?」
「な、なんでって……」
困惑している彼らに、私はじっと黒髪の人を見る。
「だって、この人私たちを助けてくれたんですよ? 命の恩人にそんな態度を取るほうがよっぽど……」
「だからっ、あの魔物はこいつが呼び寄せて……!」
「呼び寄せて? 私たちを殺すつもりだったのなら、魔物を倒さなくてもあの腕ならあっという間だったでしょう」
魔物をあんなに簡単に倒せたのだ。私たちをひとり残らず、あっという間に倒せるだろう。
「悪いことがあった時に、誰かのせいにするのは簡単です。でも、人のせいにしたところで、現状は変わりませんよ」
私がそう言うと、みんな黙ってしまった。それから、みんなちらちらと互いの顔を見合わせて、バツの悪そうな表情を浮かべた。
「……っ、それでもっ、不吉の象徴と共に行動するなんてできな――」
「……この辺り、現在警戒レベルが上がっている」
「警戒レベル?」
黒髪の人はすっとなにかを取り出した。診察券くらいの大きさだ。
「……冒険者、なのか」
「そうだ。あの魔物はあれでまだ子どもだから、親が近くにいるはずだ。どこにいるのかわからないから、腕に覚えがなければ危険だぞ」
「危ない!」
私がそう叫ぶのと同時に、魔物の首が跳ねられた。……びっくりして目を丸くした。他の人たちもそうだ。
「――……これが食えたらなぁ……」
ぽつり、と呟いて、私たちを助けてくれた人は倒れた。え? と思わず他の人たちと顔を見合わせる。……どうやらお腹が空いているようだけど……。私は慌てて助けてくれた人に駆け寄って、「大丈夫ですか?」と声を掛けた。――わぁ、格好いい。整った顔をしている人だ。艶のある黒髪をひとつに結んでいるようだ。気絶しているから、目の色はわからない。……ただ、このままだと血の匂いを追って他の魔物が来てしまう。
「――あの、誰か手伝ってくれませんか?」
「あ、ああ、そうだな……」
とにかく、ここから遠ざからないといけない。この黒髪の人、背が高いから私ひとりじゃ移動できない。なので、手伝ってもらってなんとかあの魔物から遠ざかることが出来た。ここまで来れば丈夫だろう、と思える場所まで移動し、黒髪の人を横たわらせる。その間に、これからどうしようかと話し合った。とにかく、ここから王都に向かうには歩くしかない。……黒髪の人に視線を向ける。この人とても強いみたいだけど、どうして倒れたのかな……。と、思ったら、彼のお腹がぐぅぅと鳴った。もしかして、お腹空いている?
「……」
じっとみんなが彼を見た。あの魔物を倒した彼は、空腹で倒れている……?
「……魔物ってまだいますかね……」
同じ馬車に乗っていた女性が、不安そうに呟いた。……弱い魔物ならともかく、強い魔物は……私、倒せないと思う。
「……この人を雇いませんか?」
「雇う?」
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「そうだな……確かに、アレを見た後だと……不安だよな」
馬車に乗っていた男性が身体を震わせていた。あんなに大きな魔物、見たことないもの。ここら辺ではいない魔物だと思うんだけど……。
「……ん……?」
黒髪の人が起きたみたいだ。少し身体を動かして、私たちを見た。すると――あの馬車に乗っていた人たちが「ひっ!」と短い悲鳴を上げて後退る。なんでそんなに……? と思うと、黒髪の人はさっと彼女たちから顔を逸らす。その時に見えたのは、紅い瞳。まるでルビーのように真っ赤な瞳。
「綺麗ね!」
「……は?」
「あなたの目、ルビーみたい。さっきは助けてくれてありがとう!」
私が笑顔でそう言うと、彼はびっくりしたように目を大きく見開いて、それから唖然とした表情を浮かべた。……命の恩人にお礼を言うのは、そんなに変なことなのかな? 馬車に乗っていた人たちに視線を向けると、青ざめているんだけど……なんで?
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「目の色が紅いのは、不吉の象徴なのよ……」
「なんで?」
「な、なんでって……」
困惑している彼らに、私はじっと黒髪の人を見る。
「だって、この人私たちを助けてくれたんですよ? 命の恩人にそんな態度を取るほうがよっぽど……」
「だからっ、あの魔物はこいつが呼び寄せて……!」
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「……っ、それでもっ、不吉の象徴と共に行動するなんてできな――」
「……この辺り、現在警戒レベルが上がっている」
「警戒レベル?」
黒髪の人はすっとなにかを取り出した。診察券くらいの大きさだ。
「……冒険者、なのか」
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