上 下
15 / 54
2章:14歳

15話

しおりを挟む
 小鳥のさえずりに目が覚めた。起き上がって、ベッドの上でちょこっと柔軟体操。
 ――今日は特別な日だ。
 窓まで向かい、外の天気を確認する。――快晴だ。まるで、私の旅立ちを祝福してくれているみたいに。身支度を整えて、お父さんの元に向かう。

「お父さん、おはよう!」
「おはよう、メイベル。……似合っているよ、その髪も、服も」
「お父さんのおかげだよ。髪、切ってくれてありがとう。服も……用意してくれてありがとう」

 ふるふると首を横に振ったお父さんに、私は笑みを浮かべた。
 今日の私の格好は、お父さんが用意してくれた、冒険用の服だ。軽くて丈夫なもの。……これも錬金釜で作ったのだから、本当にどういう構造になっているのかがとても気になる。髪も、昨日お父さんが切ってくれた。長かった髪はショートカットになり、なんだか首元が涼しい気がする。

「……本当に、行くのかい?」
「うん。そのために、お金も貯めたし……弓も大分うまくなったんだよ」

 的にも当たるようになり、動く的や小動物も弓で狙えるようになった。……魔物だって、弓で倒したことがある。九年の間に、私はいろいろと成長したのだ。

「そっか、そうだね。それじゃあ、ご飯にしようか。お弁当も作ったから、持って行ってくれ」
「ありがとう。……ねぇ、お父さん」

 椅子に座り、目の前に広がる食事の前に、お父さんに言いたいことがあった。

「――必ず、帰って来るから。その時まで、元気でいてね」
「……ああ、もちろん。ここはメイベルの家なのだから、いつでも帰ってきなさい」

 お父さんは驚いたように目を大きく見開き、それからふっと表情を緩めた。私も微笑んで、それからお父さんと一緒に食事を楽しんだ。だって、帰って来るとはいえ、今日からしばらくの間は会えなくなる。……だから、時間が許す限り、ゆっくりとご飯を食べた。

「……あ、そうだ。メイベル。渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?」
「うん。この空間収納バッグと、携帯型の錬金釜を……」
「……はい?」

 今、とんでもないこと言わなかった? 私が目を瞬かせている間に、お父さんはごそごそとどこからか取り出して、空間収納バッグとお父さんがいつも使っている錬金釜よりも小さい錬金釜を見せた。……私は思わずお父さんをじっと見る。

「……その、メイベルの旅に役立つんじゃないかと……」

 確かに私は九年の間に錬金術の腕も磨いた。鑑定のおかげでかなり助かっているのよね、錬金……。どれをどう足せばいいのかがわかるから。それってかなり助かるのよね……。
 そして、精霊たちも手伝ってくれることがあって、その時の品質がとっても良いものになってしまったので、慌てて隠した記憶……。どうやら精霊たちの手を借りると、良い品質のものが生み出されるようだ。

「……えっと、ありがとう。大切に使うね」

 私が受け取ると、お父さんはぱぁっと表情を明るくさせた。そして、馬車の時間がやってきた。王都まで向かう馬車が来るのだ。まさか私の誕生日と重なるとはね……。私はまとめておいた荷物を空間収納バッグに入れ、家の外に向かう。馬車に乗り込む時、村のみんなも見送りに来てくれた。お父さんはそっと小袋を取り出して、私に渡した。

「……お父さん?」
「誕生日おめでとう、メイベル。少しでも足しにしてくれ」

 え、という間にお父さんが一歩下がって、御者に「そろそろ行きますよ」と声を掛けられた。私はみんなに向かって頭を下げてから、馬車に乗り込んだ。

「行ってきます!」

 元気よくそう言って、みんなに向けて手を振った。見送りに来てくれたみんな――ロベールが、大きく手を振り返して「行ってらっしゃい!」と叫んだ。他の人たちも、手を振り返してくれた。
 ――ここから、私の冒険が始まるのね。みんなが見えなくなるまで、私はずっと、手を振り続けていた。

「寂しい?」
「悲しい?」
「……寂しくはあるけれど、悲しくはないかな。大丈夫よ、君たちだっていてくれるのだから」

 あの日現れた火の精霊と水の精霊は、よく私の元に現れてはいろんな話をしてくれた。そのおかげで、王都のことについてもちょっとわかった。精霊はどの国にもいるみたいで、精霊同士で情報の交換をしているみたい。小人のような精霊たちが集まって情報交換している姿を想像して和んだ。

「ここから王都までどのくらい?」
「んー、パント村からだと、四日くらいかなぁ?」

 馬車には私ひとりしか乗っていないので、気兼ねなく精霊たちと話せた。とはいえ、御者に聞かれる可能性があるから、出来るだけ小声で話していたけれど。……それにしても、パント村から王都に向かうのってほぼ森の中を走る感じなんだなぁ。流れる景色は見渡す限り森、森、森……。
 途中で他の村から王都に向かう人を乗せたり、降ろしたり、馬車の中が賑やかになったり、ならなかったり。みんないろんな理由で旅をしているんだなぁと、話しを聞いていて思った。
 ――そして、三日目の朝、事件が起こった。
 魔物が馬車を襲ったのだ! あと一日で王都につくというタイミングで!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話

湯島二雨
恋愛
彼女いない歴イコール年齢、アラサー平社員の『俺』はとあるラブコメ漫画のお色気担当ヒロインにガチ恋していた。とても可愛くて優しくて巨乳の年上お姉さんだ。 しかしそのヒロインはあくまでただの『お色気要員』。扱いも悪い上にあっさりと負けヒロインになってしまい、俺は大ダメージを受ける。 その後俺はしょうもない理由で死んでしまい、そのラブコメの主人公に転生していた。 俺はこの漫画の主人公になって報われない運命のお色気担当負けヒロインを絶対に幸せにしてみせると誓った。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しております。

【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね

白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。 そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。 それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。 ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。

幸せの鐘が鳴る

mahiro
恋愛
「お願いします。貴方にしか頼めないのです」 アレット・ベイヤーは私ーーーロラン・バニーの手を強く握り締め、そう言った。 「君は………」 残酷だ、という言葉は飲み込んだ。 私が貴女に恋をしていると知りながら、私に剣を握らせ、その剣先をアレットの喉元に突き立たせ、全てを終わらせろと言っているのを残酷と言わず何と言うのか教えて欲しいものだ。 私でなくともアレットが恋しているソロモン・サンに頼めば良いのに、と思うが、アレットは愛おしい彼の手を汚したくないからだろう。 「………来世こそ、ソロモンと結ばれる未来を描けるといいな」 そう口にしながら、己の心を置き去りにしたままアレットの願いを叶えた。 それから数百年という月日が経過し、私、ロラン・バニーはローズ・ヴィーという女性に生まれ変わった。 アレットはアンドレ・ベレッタという男性へ転生したらしく、ソロモン・サンの生まれ変わりであるセレクト・サンと共に世界を救った英雄として活躍していた。 それを陰ながら見守っていた所、とある青年と出会い………?

処理中です...