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1章:5歳
13話
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私がぽつりと呟いた言葉に、彼女は目元を細めてうなずいた。……まさかの神さま。……こんな展開、この原作小説にあったっけ……?
いや、そもそもイレギュラーなことをやっている自覚はあるのだ。神さまにお会いすることくらいあるだろう、多分。
「そうね、少し……違うけれど」
「違う?」
「ええ、この世界の神は私でなく、別の神を《創造》したの」
ええと、神さまが神さまを創造した? ど、どういうことなの……?
「私は……そう、『原作者』といえばわかるかしら?」
「……え、あの崖から滑り落ちたという……?」
「ええ、あの世界ではそういう終わり方を選んだわ。実際には滑り落ちたという情報をばらまいた、というのが正しいかしら。あまり人間界に長居しすぎないようにしないといけなかったから」
「そ、う、なんですか……」
混乱してきた。原作者が本当に神さまだったとは誰も思うまい。彼女はそんな私に気付いて、「うふふ」と笑顔を向ける。眩しい。
「私は地球で数年、『人間』として生きた。その間に作ったのがこの『ロベール・サーガ』。……あなたは、この世界を愛してくれたでしょう? あなたの命が終わる直前まで、読んでいてくれた。それが私、思っていた以上に嬉しかったみたい。あなたを、この世界に生まれ変わらせるくらいには」
……どうして私がこの世界に転生したのか、その理由を知って目を瞠る。目を瞬かせて、それからハッとした。この世界の原作者に、尋ねてみたいことがあった。
「……私、あなたが作った物語が大好きです。……でも、この世界に生まれ変わって、この村で大切な人たちが出来ました。村の人たちはいつも優しいし、お父さんと一緒にいるのは安心できるし、ロベールと遊ぶのだって楽しい。……だから、私、滅んで欲しくないんです。パント村に!」
必死に言葉を紡いで、返事を待つ。神さまは、ただただ微笑んでいた。
「……ありがとう、私が作った世界を愛してくれて」
神さまはそう言って微笑んだ。さっきから彼女の微笑みは眩しい。後光がパワーアップしている気がする。
「……物語通りに動かくなくても良いの。だって、この世界は『生きて』いるのだから。あなたの好きに、過ごして良いのよ」
優しくそう言うと、彼女は私に近付いてきた。……まさか、そんな風に言ってくれるとは思わなくてびっくりした。原作の強制力って、よく小説で見ていたけど……この世界にはないらしい。それを知っただけでもなんだかホッとした。
「安心した?」
「とっても!」
……原作の強制力がないのなら、村が滅びることもないのかな……? と一瞬考えたけれど、備えあれば患いなしとも言うし、出来るだけ準備はしたほうが良いよね。
「ところで、どうやって村を救おうと考えているの?」
そう尋ねられて、私は考えていることを話した。すると神さまは少し考えるように目を伏せて頬に片手を添えた。
「……うーん、メイベルが冒険者に……。それなら、そうね。私の世界を愛してくれたあなたに、私から祝福を授けましょう」
「え?」
神さまは私に近付いて、そっと両手を握りこつんと額を当てた。冷たさも熱さも感じないけれど、なぜかドキドキする。……こんな美人が目の前にいれば、女性でもドキドキすると思う。
「――あなたに祝福を」
ぽつり、と言葉を口にする神さま。ぽわぽわと温かい光が私の中に入っていく感覚。……これが、祝福?
「メイベル、あなたに『精霊使い』の能力を授けたわ」
「精霊、使い?」
……待って、この世界にそんな職業あった?
確か、ロベールの仲間は騎士、賢者、聖女、だった。……他の冒険者の職業なら、剣士や僧侶、魔法使い……うん、そんな感じのイメージ。
「恐らく、この世界でたったひとりの、『精霊使い』になるわね。この世界の精霊たちと、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「……あの、ちなみにこの世界の神さまって、あなたが創造したって言っていましたけど……会うことってありますか?」
「そうねぇ、ないと思うわ。あの子が会うとしたらこの世界の聖職者だろうしねぇ……」
じゃあ、聖女は神からの神託を受けて勇者の仲間になったって感じなのかな。そこら辺の描写はなかった気がする。この世界の神さま――の、神さま。中々ややこしい感じだけど、不思議よね。こんな体験をするなんて思わなかった。
「……精霊使いって、どんなことが出来るのか教えてもらえますか?」
「そうね、例えば風の精霊を呼び出して弓を必中させるとか、火の精霊を呼び出して魔物を燃やすとか……四属性にプラスして、光と闇の精霊も呼び出せるから、状況に合わせて精霊を呼び出すと良いわ。専属というよりは、その時々に合わせて力を貸してくれる……そんな感じね」
「……なるほど。それは……冒険者にとってありがたいですね」
「でしょう? 是非、この世界を堪能して――楽しんで、生きてね。――その命が落ちる、瞬間まで――……」
神さまはそう言うと「さぁ、もう起きる時間よ」と私の手を離した。私は小さくうなずいて「ありがとうございました」と頭を下げる。
「私、この世界を堪能します! そして絶対に村を救って、世界を巡ります!」
ロベールが旅立った後、村を救ってからそうするつもりだった。行きたいところがたくさんあるし――なにより、冒険者として生きていけるのかどうかを試したい。
「――あなたに光の加護がありますように……」
神さまはそう言って目を閉じた。
いや、そもそもイレギュラーなことをやっている自覚はあるのだ。神さまにお会いすることくらいあるだろう、多分。
「そうね、少し……違うけれど」
「違う?」
「ええ、この世界の神は私でなく、別の神を《創造》したの」
ええと、神さまが神さまを創造した? ど、どういうことなの……?
「私は……そう、『原作者』といえばわかるかしら?」
「……え、あの崖から滑り落ちたという……?」
「ええ、あの世界ではそういう終わり方を選んだわ。実際には滑り落ちたという情報をばらまいた、というのが正しいかしら。あまり人間界に長居しすぎないようにしないといけなかったから」
「そ、う、なんですか……」
混乱してきた。原作者が本当に神さまだったとは誰も思うまい。彼女はそんな私に気付いて、「うふふ」と笑顔を向ける。眩しい。
「私は地球で数年、『人間』として生きた。その間に作ったのがこの『ロベール・サーガ』。……あなたは、この世界を愛してくれたでしょう? あなたの命が終わる直前まで、読んでいてくれた。それが私、思っていた以上に嬉しかったみたい。あなたを、この世界に生まれ変わらせるくらいには」
……どうして私がこの世界に転生したのか、その理由を知って目を瞠る。目を瞬かせて、それからハッとした。この世界の原作者に、尋ねてみたいことがあった。
「……私、あなたが作った物語が大好きです。……でも、この世界に生まれ変わって、この村で大切な人たちが出来ました。村の人たちはいつも優しいし、お父さんと一緒にいるのは安心できるし、ロベールと遊ぶのだって楽しい。……だから、私、滅んで欲しくないんです。パント村に!」
必死に言葉を紡いで、返事を待つ。神さまは、ただただ微笑んでいた。
「……ありがとう、私が作った世界を愛してくれて」
神さまはそう言って微笑んだ。さっきから彼女の微笑みは眩しい。後光がパワーアップしている気がする。
「……物語通りに動かくなくても良いの。だって、この世界は『生きて』いるのだから。あなたの好きに、過ごして良いのよ」
優しくそう言うと、彼女は私に近付いてきた。……まさか、そんな風に言ってくれるとは思わなくてびっくりした。原作の強制力って、よく小説で見ていたけど……この世界にはないらしい。それを知っただけでもなんだかホッとした。
「安心した?」
「とっても!」
……原作の強制力がないのなら、村が滅びることもないのかな……? と一瞬考えたけれど、備えあれば患いなしとも言うし、出来るだけ準備はしたほうが良いよね。
「ところで、どうやって村を救おうと考えているの?」
そう尋ねられて、私は考えていることを話した。すると神さまは少し考えるように目を伏せて頬に片手を添えた。
「……うーん、メイベルが冒険者に……。それなら、そうね。私の世界を愛してくれたあなたに、私から祝福を授けましょう」
「え?」
神さまは私に近付いて、そっと両手を握りこつんと額を当てた。冷たさも熱さも感じないけれど、なぜかドキドキする。……こんな美人が目の前にいれば、女性でもドキドキすると思う。
「――あなたに祝福を」
ぽつり、と言葉を口にする神さま。ぽわぽわと温かい光が私の中に入っていく感覚。……これが、祝福?
「メイベル、あなたに『精霊使い』の能力を授けたわ」
「精霊、使い?」
……待って、この世界にそんな職業あった?
確か、ロベールの仲間は騎士、賢者、聖女、だった。……他の冒険者の職業なら、剣士や僧侶、魔法使い……うん、そんな感じのイメージ。
「恐らく、この世界でたったひとりの、『精霊使い』になるわね。この世界の精霊たちと、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「……あの、ちなみにこの世界の神さまって、あなたが創造したって言っていましたけど……会うことってありますか?」
「そうねぇ、ないと思うわ。あの子が会うとしたらこの世界の聖職者だろうしねぇ……」
じゃあ、聖女は神からの神託を受けて勇者の仲間になったって感じなのかな。そこら辺の描写はなかった気がする。この世界の神さま――の、神さま。中々ややこしい感じだけど、不思議よね。こんな体験をするなんて思わなかった。
「……精霊使いって、どんなことが出来るのか教えてもらえますか?」
「そうね、例えば風の精霊を呼び出して弓を必中させるとか、火の精霊を呼び出して魔物を燃やすとか……四属性にプラスして、光と闇の精霊も呼び出せるから、状況に合わせて精霊を呼び出すと良いわ。専属というよりは、その時々に合わせて力を貸してくれる……そんな感じね」
「……なるほど。それは……冒険者にとってありがたいですね」
「でしょう? 是非、この世界を堪能して――楽しんで、生きてね。――その命が落ちる、瞬間まで――……」
神さまはそう言うと「さぁ、もう起きる時間よ」と私の手を離した。私は小さくうなずいて「ありがとうございました」と頭を下げる。
「私、この世界を堪能します! そして絶対に村を救って、世界を巡ります!」
ロベールが旅立った後、村を救ってからそうするつもりだった。行きたいところがたくさんあるし――なにより、冒険者として生きていけるのかどうかを試したい。
「――あなたに光の加護がありますように……」
神さまはそう言って目を閉じた。
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