7 / 54
1章:5歳
7話
しおりを挟む
そう決意した翌日、朝早くにロベールがうちに来ていた。あまりにも早い時間に来ていたからびっくりした。
「どうしたの、ロベール。こんなに早い時間に」
「あ、えっと……。昨日は、ありがとう。あの後、みんなで話して……ちゃんと家族だって言ってもらえた」
とても嬉しかったのだろう、頬を染めてそう報告するロベールに、私は「そっかぁ」と安堵の息を吐いた。
「……本当に、ありがとう、メイベル」
「どういたしまして。入って、朝は寒いでしょ?」
「お邪魔します」
村長の家で育てられているからか、ロベールは礼儀正しい。子どものようなやんちゃさもあるけれど、『良い子』と言って間違いないくらいには礼儀正しい。普通の子どもでもあるんだけど、村長たちはロベールが勇者だって知っているようだった。……どうして知っていたんだろう?
考えてみれば不思議よね。こんな小さな村で勇者を育てているなんて……。
「ロベールじゃないか、随分早起きだね?」
「おはようございます、ザールさん」
ぺこりと頭を下げて挨拶をするロベールに、お父さんはしゃがんでくしゃりとロベールの頭を撫でる。
「おはよう。家の人には言ってあるんだな?」
小さくうなずくのを見て、「それじゃあ一緒にご飯を食べようか」と朝食に誘う。
ロベールは「わーい」と素直に喜んだ。一緒に食べて、その後、私は錬金術の勉強をすると言ったら、自分もやってみたいと言い出した。私とお父さんは顔を見合わせる。
……小説でロベールが錬金術を使っていた時あったっけ……? と首を傾げつつ、やる気に満ちた顔をしているロベールを見ると、折れるしかなさそうだ。
「それじゃあ、今日は昨日採取した薬草をどう処理するか、から始めようか」
「はーい!」
「薬草? 採って来たの?」
「うん、昨日ね」
すごーい、とロベールは目をキラキラと輝かせた。……ごめん、鑑定があったからとても楽に採取出来た……。
勇者にもこういう鑑定能力あるのかな……。小説ではどうだったかな……。
「どうしたの、メイベル。変な顔して」
「あ、ううん。なんでもない!」
両手をひらひら振ってなんでもないことをアピールしつつ、お父さんについて行く。なんだか本当に読んでいた小説とは別の方向へ向かっている気がするけれど……、いいよね、きっと。うん。
無理矢理自分を納得させて、お父さんから薬草のことを習う――って言っても、錬金釜に入れて混ぜ混ぜして終わり。……どういうことなの……っ。もっとこう、複雑な工程があるものじゃないのか……!
「この薬をひと口飲んでみて」
そう言って渡された。……なんで薬草を入れて瓶に入った薬が出て来るんだ。ツッコんだら負けってやつなのか。私とロベールは顔を見合わせて、それぞれ人差し指にちょん、と薬を一滴。ぺろりと舐めて悶絶した。にっがーいっ!
「お、お父さんっ、これ本当に薬草!?」
「にが、にが……い、です……」
ロベールがものすっごい表情になっているんだけど! お父さんは小さく笑って、今度は違う植物を持って来て、「食べて」と渡して来た。葉っぱを食べると今度は甘い! あ、これ甘味草? はちみつ以上の甘さを感じる……。甘いもので口直し。はぁ、苦かったぁ……。
「大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない……、すっごく苦かった。この薬、飲めないよ……」
「はは。では、なにを一緒に入れたらよいと思う?」
私たちは目を瞬かせて、さっき食べたものを見つめる。
「そう、正解。ふたりとも賢いね」
いい子いい子、とばかりにお父さんに頭を撫でてもらう、私とロベール。えへへ、と子どもらしい笑みを浮かべるロベールに、お父さんの目元が優しく細くなる。
「……さて、それではこの薬草一枚に、甘味草は何枚必要かな?」
「え、えーっと……。じゃあ、一枚!」
「……えっと、……半分?」
意見が割れた。お父さんは少し驚いたようにロベールを見た。
「どうして半分だと思ったんだ?」
「ほんのちょっと食べただけでも、すごく甘かったから……」
「あ、そっか……」
確かに甘かった。なるほど、確かにそれなら半分でもいいかもしれない。
「ふたりとも正解だよ」
「ええっ?」
ロベールと声が重なった。お父さんは「ちょっと待っててね」とごそごそなにかを取り出した。青い瓶に入った薬と、赤い瓶に入った薬。
「青いほうが大人用、赤いほうが子ども用」
「……もしかして、味が違うの?」
「子ども用は一枚、大人用が半分……?」
「そういうこと!」
そう言うとお父さんはぽいぽいと薬草と甘味草を錬金釜に入れて、ぐるぐるとかき混ぜた。甘味草は一枚丸ごと入れていたから、出来上がるのはきっと子ども用。……ねぇ、だからなんで錬金釜に入れて赤い瓶に入った薬が出来上がるの……?
……いちいちツッコミ入れていたらキリがない気がしてきた。
「なにが出来上がると思う?」
私とロベールは声を揃えてこう言った。
「子ども用の甘い薬!」
「正解!」
予想が当たった私たちは「やっぱり」と肩をすくめた。
「薬草をこんな風な薬にするのには、結構あっという間に出来るんだけど、他のだとちょっと時間が掛かるのもあるよ」
……ちょっとってどのくらいの時間を指しているんだろう……?
「どうしたの、ロベール。こんなに早い時間に」
「あ、えっと……。昨日は、ありがとう。あの後、みんなで話して……ちゃんと家族だって言ってもらえた」
とても嬉しかったのだろう、頬を染めてそう報告するロベールに、私は「そっかぁ」と安堵の息を吐いた。
「……本当に、ありがとう、メイベル」
「どういたしまして。入って、朝は寒いでしょ?」
「お邪魔します」
村長の家で育てられているからか、ロベールは礼儀正しい。子どものようなやんちゃさもあるけれど、『良い子』と言って間違いないくらいには礼儀正しい。普通の子どもでもあるんだけど、村長たちはロベールが勇者だって知っているようだった。……どうして知っていたんだろう?
考えてみれば不思議よね。こんな小さな村で勇者を育てているなんて……。
「ロベールじゃないか、随分早起きだね?」
「おはようございます、ザールさん」
ぺこりと頭を下げて挨拶をするロベールに、お父さんはしゃがんでくしゃりとロベールの頭を撫でる。
「おはよう。家の人には言ってあるんだな?」
小さくうなずくのを見て、「それじゃあ一緒にご飯を食べようか」と朝食に誘う。
ロベールは「わーい」と素直に喜んだ。一緒に食べて、その後、私は錬金術の勉強をすると言ったら、自分もやってみたいと言い出した。私とお父さんは顔を見合わせる。
……小説でロベールが錬金術を使っていた時あったっけ……? と首を傾げつつ、やる気に満ちた顔をしているロベールを見ると、折れるしかなさそうだ。
「それじゃあ、今日は昨日採取した薬草をどう処理するか、から始めようか」
「はーい!」
「薬草? 採って来たの?」
「うん、昨日ね」
すごーい、とロベールは目をキラキラと輝かせた。……ごめん、鑑定があったからとても楽に採取出来た……。
勇者にもこういう鑑定能力あるのかな……。小説ではどうだったかな……。
「どうしたの、メイベル。変な顔して」
「あ、ううん。なんでもない!」
両手をひらひら振ってなんでもないことをアピールしつつ、お父さんについて行く。なんだか本当に読んでいた小説とは別の方向へ向かっている気がするけれど……、いいよね、きっと。うん。
無理矢理自分を納得させて、お父さんから薬草のことを習う――って言っても、錬金釜に入れて混ぜ混ぜして終わり。……どういうことなの……っ。もっとこう、複雑な工程があるものじゃないのか……!
「この薬をひと口飲んでみて」
そう言って渡された。……なんで薬草を入れて瓶に入った薬が出て来るんだ。ツッコんだら負けってやつなのか。私とロベールは顔を見合わせて、それぞれ人差し指にちょん、と薬を一滴。ぺろりと舐めて悶絶した。にっがーいっ!
「お、お父さんっ、これ本当に薬草!?」
「にが、にが……い、です……」
ロベールがものすっごい表情になっているんだけど! お父さんは小さく笑って、今度は違う植物を持って来て、「食べて」と渡して来た。葉っぱを食べると今度は甘い! あ、これ甘味草? はちみつ以上の甘さを感じる……。甘いもので口直し。はぁ、苦かったぁ……。
「大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない……、すっごく苦かった。この薬、飲めないよ……」
「はは。では、なにを一緒に入れたらよいと思う?」
私たちは目を瞬かせて、さっき食べたものを見つめる。
「そう、正解。ふたりとも賢いね」
いい子いい子、とばかりにお父さんに頭を撫でてもらう、私とロベール。えへへ、と子どもらしい笑みを浮かべるロベールに、お父さんの目元が優しく細くなる。
「……さて、それではこの薬草一枚に、甘味草は何枚必要かな?」
「え、えーっと……。じゃあ、一枚!」
「……えっと、……半分?」
意見が割れた。お父さんは少し驚いたようにロベールを見た。
「どうして半分だと思ったんだ?」
「ほんのちょっと食べただけでも、すごく甘かったから……」
「あ、そっか……」
確かに甘かった。なるほど、確かにそれなら半分でもいいかもしれない。
「ふたりとも正解だよ」
「ええっ?」
ロベールと声が重なった。お父さんは「ちょっと待っててね」とごそごそなにかを取り出した。青い瓶に入った薬と、赤い瓶に入った薬。
「青いほうが大人用、赤いほうが子ども用」
「……もしかして、味が違うの?」
「子ども用は一枚、大人用が半分……?」
「そういうこと!」
そう言うとお父さんはぽいぽいと薬草と甘味草を錬金釜に入れて、ぐるぐるとかき混ぜた。甘味草は一枚丸ごと入れていたから、出来上がるのはきっと子ども用。……ねぇ、だからなんで錬金釜に入れて赤い瓶に入った薬が出来上がるの……?
……いちいちツッコミ入れていたらキリがない気がしてきた。
「なにが出来上がると思う?」
私とロベールは声を揃えてこう言った。
「子ども用の甘い薬!」
「正解!」
予想が当たった私たちは「やっぱり」と肩をすくめた。
「薬草をこんな風な薬にするのには、結構あっという間に出来るんだけど、他のだとちょっと時間が掛かるのもあるよ」
……ちょっとってどのくらいの時間を指しているんだろう……?
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】
倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。
時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから!
再投稿です。ご迷惑おかけします。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる