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1章:5歳
5話
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こういう時になんて声を掛けたらいいの!? 半ばパニックになってしまった。だってこんな展開になるなんて知らなかったもの!
五歳の子にいきなり現実を突き立てるなんて思いもよらなかったから……。
「……ロベールは、家族が好き?」
「……うん」
ぐす、と涙を拭って、顔を上げてこくりとうなずく。私は彼の頭に手を置いて、ぽんぽんと頭を撫でた。
「なら、大丈夫よ」
「……どうして?」
「家族の在り方はひとつじゃないから」
ロベールは首を傾げた。なんて説明すればいいのかちょっと悩んだけれど、ロベールと視線を合わせる。涙でくしゃくしゃになった顔を見て、胸が痛んだ。
「私から見ても、ロベールの家はとても仲の良い『家族』よ。村長がロベールのことを預かったってこと、ロベールのお父さんもお母さんも知っていたってことだと思うの。それでもロベールのことを愛して育ててくれた」
ロベールがぱちぱちと目を瞬かせる。それから私の言葉を考えているのだろう。目を閉じて、それからもう一度うなずいた。
「ロベールがみんなのことを大好きなら、大丈夫よ」
出来るだけ柔らかい口調、柔らかい表情でロベールの顔を覗き込む。閉じていた目を開けて、ロベールは私を見て、「……そっかぁ……」と呟いた。どうやら、彼の中で考えが纏まったみたい。そのことにほっとしつつ、立ち上がる。
ロベールに手を差し出すと、彼は眩しそうに目元を細めて私の手を掴んだ。
その後ロベールは川で顔を洗って、スッキリした表情を浮かべていたのを見て、大丈夫そうだと安心した。
「遊ぼう、メイベル!」
「うん、遊ぼう、ロベール!」
ぎゅっと手を握って、私たちは駆け出した。
☆☆☆
川辺で存分に遊んでから家に帰った。お父さんに暗くなる前に帰ってくるようにって言われていたし、遊びまくって疲れたしね。ロベールと別れて、家に帰るとお父さんが店じまいをしていた。
「お帰り、メイベル」
「ただいま、パパ!」
お父さんの元に駆け寄っていくと、頭を撫でてくれた。
「たくさん遊べた?」
「うん、ロベールと一緒にたくさん遊んだよ!」
にこにこと今日のことを話すと、お父さんは楽しそうに聞いてくれた。川辺で遊んでいたから、服が濡れていることに気付いたお父さんが、お風呂の準備をしてくれた。
「……パパ、お風呂の準備どうやるのか見ていてもいい?」
「うん? いいよ。それにしても、珍しいね、そんなことを言うなんて」
「お手伝いできるようになればいいなって……」
そう言うと、お父さんはぎゅっと私を抱きしめた。服、濡れちゃうよ? と声を掛けようとしたけれど、なにも言わなかった。
「おいで」
「うん!」
お風呂場に向かい、どうやってお風呂を沸かすのかを見学した。やはりというかなんというか、日本とは全く違うやり方だった。
魔法を使って水を出して、沸かす。シャワーには冷水に青い魔石、温水に赤い魔石を使い、押すと出て来る仕組みのようだ。さっぱり仕組みがわからない。
「……私にも出来るようになる?」
「なるよ、大丈夫」
ぽんぽんと頭を撫でて、お父さんは笑う。
「魔力は誰にも備わっているから、大丈夫」
安心させるような微笑みを浮かべて、優しい口調でそう言った。
……この世界、勇者たちの他にも『冒険者』がいるのよね。……なるほど、誰でも魔法が使えるから、誰でも冒険に行けるというわけか……。
「……だから魔力を回復するポーションがあるんだね」
「そういうこと。メイベルは賢いなぁ」
わしわしと頭を撫でられた。お風呂に入ろうとすると、お父さんが「一緒に入ろうか?」と聞いて来た。……前世の記憶を取り戻す前なら一緒に入っていただろうけど……。私は緩やかに首を左右に振った。
「ひとりで入る」
「そっか。しっかり温まって来るんだよ」
「はーい」
お父さんはバスタオルを用意してくれたから、私は自分の着替えを用意した。
そして脱衣所で服を脱いで、まずはシャワーから浴びる。赤い魔石を押すとお湯が出て来た。それも丁度良い温度の! シャンプーやトリートメント、身体を洗う石鹸などを使い全身くまなく洗ってから湯船に浸かる。
「ほぁぁああ……」
思っていた以上に身体は冷えていたらしい。温かいお湯の中に入ってそんな声が出るくらいには。子どもの身体って免疫力が出来上がっていないから病気になりやすいって聞いたことあるし、気をつけないと。ザールパパを悲しませたくないもん。
……それにしても、病気じゃなければこんなに元気に走り回れるのか……。
長湯にならない程度に、思い出してみよう。
「ええと、私とロベールが五歳ってことは、十一年後にロベールは王都に向かうのよね……。ってことは、それよりも前に力をつけなきゃいけない。……ええと、思い出せ、思い出せ……」
何度も読んだこの物語を。
確か旅立ったロベールが一番に向かったのは王城だった。だけど、その前に冒険者ギルドの人に会っていたはず。その人から道案内をされて無事に王城に辿り着いた……って感じだったと思う。
……よし、冒険者ギルドがあるのなら、私も冒険者になれるかもしれない!
五歳の子にいきなり現実を突き立てるなんて思いもよらなかったから……。
「……ロベールは、家族が好き?」
「……うん」
ぐす、と涙を拭って、顔を上げてこくりとうなずく。私は彼の頭に手を置いて、ぽんぽんと頭を撫でた。
「なら、大丈夫よ」
「……どうして?」
「家族の在り方はひとつじゃないから」
ロベールは首を傾げた。なんて説明すればいいのかちょっと悩んだけれど、ロベールと視線を合わせる。涙でくしゃくしゃになった顔を見て、胸が痛んだ。
「私から見ても、ロベールの家はとても仲の良い『家族』よ。村長がロベールのことを預かったってこと、ロベールのお父さんもお母さんも知っていたってことだと思うの。それでもロベールのことを愛して育ててくれた」
ロベールがぱちぱちと目を瞬かせる。それから私の言葉を考えているのだろう。目を閉じて、それからもう一度うなずいた。
「ロベールがみんなのことを大好きなら、大丈夫よ」
出来るだけ柔らかい口調、柔らかい表情でロベールの顔を覗き込む。閉じていた目を開けて、ロベールは私を見て、「……そっかぁ……」と呟いた。どうやら、彼の中で考えが纏まったみたい。そのことにほっとしつつ、立ち上がる。
ロベールに手を差し出すと、彼は眩しそうに目元を細めて私の手を掴んだ。
その後ロベールは川で顔を洗って、スッキリした表情を浮かべていたのを見て、大丈夫そうだと安心した。
「遊ぼう、メイベル!」
「うん、遊ぼう、ロベール!」
ぎゅっと手を握って、私たちは駆け出した。
☆☆☆
川辺で存分に遊んでから家に帰った。お父さんに暗くなる前に帰ってくるようにって言われていたし、遊びまくって疲れたしね。ロベールと別れて、家に帰るとお父さんが店じまいをしていた。
「お帰り、メイベル」
「ただいま、パパ!」
お父さんの元に駆け寄っていくと、頭を撫でてくれた。
「たくさん遊べた?」
「うん、ロベールと一緒にたくさん遊んだよ!」
にこにこと今日のことを話すと、お父さんは楽しそうに聞いてくれた。川辺で遊んでいたから、服が濡れていることに気付いたお父さんが、お風呂の準備をしてくれた。
「……パパ、お風呂の準備どうやるのか見ていてもいい?」
「うん? いいよ。それにしても、珍しいね、そんなことを言うなんて」
「お手伝いできるようになればいいなって……」
そう言うと、お父さんはぎゅっと私を抱きしめた。服、濡れちゃうよ? と声を掛けようとしたけれど、なにも言わなかった。
「おいで」
「うん!」
お風呂場に向かい、どうやってお風呂を沸かすのかを見学した。やはりというかなんというか、日本とは全く違うやり方だった。
魔法を使って水を出して、沸かす。シャワーには冷水に青い魔石、温水に赤い魔石を使い、押すと出て来る仕組みのようだ。さっぱり仕組みがわからない。
「……私にも出来るようになる?」
「なるよ、大丈夫」
ぽんぽんと頭を撫でて、お父さんは笑う。
「魔力は誰にも備わっているから、大丈夫」
安心させるような微笑みを浮かべて、優しい口調でそう言った。
……この世界、勇者たちの他にも『冒険者』がいるのよね。……なるほど、誰でも魔法が使えるから、誰でも冒険に行けるというわけか……。
「……だから魔力を回復するポーションがあるんだね」
「そういうこと。メイベルは賢いなぁ」
わしわしと頭を撫でられた。お風呂に入ろうとすると、お父さんが「一緒に入ろうか?」と聞いて来た。……前世の記憶を取り戻す前なら一緒に入っていただろうけど……。私は緩やかに首を左右に振った。
「ひとりで入る」
「そっか。しっかり温まって来るんだよ」
「はーい」
お父さんはバスタオルを用意してくれたから、私は自分の着替えを用意した。
そして脱衣所で服を脱いで、まずはシャワーから浴びる。赤い魔石を押すとお湯が出て来た。それも丁度良い温度の! シャンプーやトリートメント、身体を洗う石鹸などを使い全身くまなく洗ってから湯船に浸かる。
「ほぁぁああ……」
思っていた以上に身体は冷えていたらしい。温かいお湯の中に入ってそんな声が出るくらいには。子どもの身体って免疫力が出来上がっていないから病気になりやすいって聞いたことあるし、気をつけないと。ザールパパを悲しませたくないもん。
……それにしても、病気じゃなければこんなに元気に走り回れるのか……。
長湯にならない程度に、思い出してみよう。
「ええと、私とロベールが五歳ってことは、十一年後にロベールは王都に向かうのよね……。ってことは、それよりも前に力をつけなきゃいけない。……ええと、思い出せ、思い出せ……」
何度も読んだこの物語を。
確か旅立ったロベールが一番に向かったのは王城だった。だけど、その前に冒険者ギルドの人に会っていたはず。その人から道案内をされて無事に王城に辿り着いた……って感じだったと思う。
……よし、冒険者ギルドがあるのなら、私も冒険者になれるかもしれない!
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