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10話
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「フェリシアン、殺さない程度に」
「かしこまりました」
エヴァン司祭の言葉を受けて、フェリシアンさんが小さくうなずく。私たちはただ、それを見ていることしか出来なくて――……。フェリシアンさんがタン、と床を蹴ってマハロに近付いて行く。マハロも剣を抜いて応戦してみせた。
「この解毒剤を飲んでください。あなたはずっと、あの毒を飲んでいたのでしょう?」
ポーラ……いいえ、マーシーに解毒剤を渡すエヴァン司祭。おろおろとした様子のマーシーに、ナタリーが声を掛けた。
「無事な姿を、ご家族に見せてください」
「……っ、はい……っ!」
エヴァン司祭から解毒剤を受け取り、マーシーはこくりと飲み込んだ。病弱を装わせるために、微量な毒を飲ませていた……? そこまでして、なぜマハロはポーラを作り上げようとしているのだろうか。
「――ローラ様、お許しを頂けますか?」
「――ええ、ナタリー。私も彼はこのままではいけないと思うわ」
ナタリーはこくりとうなずく。そして――メイド服に隠していた、武器を取り出した。太ももにセットしていた二本の短剣を手にして、フェリシアンさんに向かい「私も参加致します!」と声を荒げてマハロへと短剣の一本を投げた。その短剣がマハロの頬を掠める。
マハロはただただ、微笑みを浮かべていた。目は笑っていない。
「だ、大丈夫なのですか、女性が……!」
「ナタリーは強いわ。私の護衛でもあるのだから……。それよりも、ここから逃げましょう。あなたを家に返さなきゃ」
「そうはさせない!」
フェリシアンさんとナタリーの攻撃を受けながらも、私たちに近付いて来るマハロ。マハロの形相は凄まじく、私は今まで彼のなにを見ていたのだろうと思った。もっと早く、あなたと向き合えていたのなら……違う結末もあったのかもしれない。
「マハロ、あなたは守るべき領民を自らの欲望によって穢した! それは領主としてあるまじき行為よ!」
「領民は領主のものだろう? それをどう扱おうが、俺の勝手だ!」
あんまりな言葉を聞いて、私はマハロを睨みつけた。
「――領地の運営を私に丸投げして来たあなたが、領民を勝手に扱って良いですって……? ふざけるのも大概になさいっ!」
私の怒鳴り声に、マハロがなぜか怯んだ。その隙を見て、フェリシアンさんとナタリーがマハロの動きを封じ込める。フェリシアンさんが持っていたロープでマハロを縛り上げた。
「どうしたんだい、ローラ……。君はそんなに声を荒げる人ではなかっただろう……?」
「……あなた、自分の罪を認められない人なのね……。残念だわ、非常に残念だわ」
――動きを封じられたマハロに向かって、私はその頬を拳で殴った。出来うる限り冷たい瞳と声を、マハロに向ける。
「痛いじゃないか、なぜそんなに怒っているんだ、ローラ……」
「言葉が通じない人、嫌いなの。――あなたの領地、私がもらいます。慰謝料の代わりとしてね。エヴァン司祭! 私――ローラ・カハレが宣言します。マハロをカハレ伯爵家から追放し、私がカハレ伯爵になることを! 元々領地の運営は私が主にしておりました。証人はカハレ伯爵邸で働いている使用人たちです」
私の宣言に、ナタリーが目を大きく見開いた。こんな人に、領民を任せられない。私の強い意志を感じ取ったのか、ナタリーはすっと私に対して跪いた。
「ナタリーはいつまでも、ローラ様について行きます」
「……ありがとう。マハロ、あなたは犯罪者なの。……罪を、認めなければならないの」
マハロを見てカタカタと震えるマーシー。彼女の心の傷は、どれだけのものだろう。考えるだけで胸が痛む。――守れなくて、ごめんなさい。
マハロは最後まで、罪を認めなかった。
「かしこまりました」
エヴァン司祭の言葉を受けて、フェリシアンさんが小さくうなずく。私たちはただ、それを見ていることしか出来なくて――……。フェリシアンさんがタン、と床を蹴ってマハロに近付いて行く。マハロも剣を抜いて応戦してみせた。
「この解毒剤を飲んでください。あなたはずっと、あの毒を飲んでいたのでしょう?」
ポーラ……いいえ、マーシーに解毒剤を渡すエヴァン司祭。おろおろとした様子のマーシーに、ナタリーが声を掛けた。
「無事な姿を、ご家族に見せてください」
「……っ、はい……っ!」
エヴァン司祭から解毒剤を受け取り、マーシーはこくりと飲み込んだ。病弱を装わせるために、微量な毒を飲ませていた……? そこまでして、なぜマハロはポーラを作り上げようとしているのだろうか。
「――ローラ様、お許しを頂けますか?」
「――ええ、ナタリー。私も彼はこのままではいけないと思うわ」
ナタリーはこくりとうなずく。そして――メイド服に隠していた、武器を取り出した。太ももにセットしていた二本の短剣を手にして、フェリシアンさんに向かい「私も参加致します!」と声を荒げてマハロへと短剣の一本を投げた。その短剣がマハロの頬を掠める。
マハロはただただ、微笑みを浮かべていた。目は笑っていない。
「だ、大丈夫なのですか、女性が……!」
「ナタリーは強いわ。私の護衛でもあるのだから……。それよりも、ここから逃げましょう。あなたを家に返さなきゃ」
「そうはさせない!」
フェリシアンさんとナタリーの攻撃を受けながらも、私たちに近付いて来るマハロ。マハロの形相は凄まじく、私は今まで彼のなにを見ていたのだろうと思った。もっと早く、あなたと向き合えていたのなら……違う結末もあったのかもしれない。
「マハロ、あなたは守るべき領民を自らの欲望によって穢した! それは領主としてあるまじき行為よ!」
「領民は領主のものだろう? それをどう扱おうが、俺の勝手だ!」
あんまりな言葉を聞いて、私はマハロを睨みつけた。
「――領地の運営を私に丸投げして来たあなたが、領民を勝手に扱って良いですって……? ふざけるのも大概になさいっ!」
私の怒鳴り声に、マハロがなぜか怯んだ。その隙を見て、フェリシアンさんとナタリーがマハロの動きを封じ込める。フェリシアンさんが持っていたロープでマハロを縛り上げた。
「どうしたんだい、ローラ……。君はそんなに声を荒げる人ではなかっただろう……?」
「……あなた、自分の罪を認められない人なのね……。残念だわ、非常に残念だわ」
――動きを封じられたマハロに向かって、私はその頬を拳で殴った。出来うる限り冷たい瞳と声を、マハロに向ける。
「痛いじゃないか、なぜそんなに怒っているんだ、ローラ……」
「言葉が通じない人、嫌いなの。――あなたの領地、私がもらいます。慰謝料の代わりとしてね。エヴァン司祭! 私――ローラ・カハレが宣言します。マハロをカハレ伯爵家から追放し、私がカハレ伯爵になることを! 元々領地の運営は私が主にしておりました。証人はカハレ伯爵邸で働いている使用人たちです」
私の宣言に、ナタリーが目を大きく見開いた。こんな人に、領民を任せられない。私の強い意志を感じ取ったのか、ナタリーはすっと私に対して跪いた。
「ナタリーはいつまでも、ローラ様について行きます」
「……ありがとう。マハロ、あなたは犯罪者なの。……罪を、認めなければならないの」
マハロを見てカタカタと震えるマーシー。彼女の心の傷は、どれだけのものだろう。考えるだけで胸が痛む。――守れなくて、ごめんなさい。
マハロは最後まで、罪を認めなかった。
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