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どうか、お願い。 2話
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グラエル陛下とレグルスさまでは、レグルスさまのほうが押し負けそうになっていた。マティス殿下と一騎打ちをしたあとだもの、きっとレグルスさまは疲れているわ。
ぎゅっと、ブレンさまから渡されたお札を握りしめて、心の底から祈る。
――どうか、お願い。レグルスさまに、力を――……!
わたくしの祈りが届いたのか、弾かれたようにこちらを見るレグルスさま。その瞳には驚愕が浮かび、それからすぐに白い歯を見せた。
「よそ見とは、余裕だな!」
「勝利の女神のおかげでね!」
押し負けそうになっていたレグルスさまが、押し返してきたことにグラエル陛下は忌々しそうに眉間に皺を刻む。
ぐぐぐ、とグラエル陛下が押し負けはじめ、騎士たちはそれを見て一気に勢いよく突撃していった。
「レグルスさま!」
あのまま、そこにいたら巻き込まれてしまうんじゃないかと声を上げると、彼はタイミングを見計らったようにグラエル陛下から離れた。その反動でぐらりと陛下の身体がよろめく。
「――っ!」
グラエル陛下の魔力が膨らんでいるような気がして、彼の魔力を覆うようにバリアの魔法を使う。わたくしとグラエル陛下では、おそらくわたくしのほうが負けてしまう。
――それでも、この騒動を終わらせなければいけない。そう、強く思った。
「手伝うよ」
いつの間にかわたくしの隣にきていたレグルスさまが、そっと肩に手を置いた。じんわりと彼の体温と――魔力を感じる。
こくりとうなずいて、騎士の方々に声をかけた。
「わたくしたちが陛下の魔力を抑えます! そのあいだに……!」
「協力、感謝する!」
騎士の一人が言葉を返してくれた。レグルスさまと一緒に、グラエル陛下の魔力を抑え込むバリアを張り続ける。
レグルスさまの魔力と、わたくしの魔力が溶け合い、とても強いバリアになったようだ。チッと舌打ちするグラエル陛下。バリアが破れなくて、イライラしているように見えた。
「その調子。……もう少しで、終わるよ」
「……え?」
弾かれたようにレグルスさまを見上げると、彼はにこりと微笑みを浮かべて、パチンと指を鳴らした。すると――まるでリボンのようなもので、グラエル陛下が拘束された。一瞬の出来事に目を見開くと、動けなくなったグラエル陛下を騎士たちが抑え込み、「申し訳ありません」とつぶやいてから彼の意識を奪う。
「……終わった、の?」
「陛下にとっては多勢に無勢って感じだったなぁ」
グラエル陛下の魔力が消え、騎士がひょいとグラエル陛下を持ち上げると、パンパン、と手を叩く耳に届いた。
音のほうへ振り返ると、エセル王妃が厳しい表情から笑顔を浮かべ、パーティー会場にいる全員に聞こえるように凛とした声で告げる。
「楽しいパーティーを壊して、申し訳ありません。ですが――この学園の学生たちの勇姿、この目でしっかりと見届けました。あなた方が学園を卒業し、世に羽ばたく日を楽しみにしていますわ」
エセル王妃の言葉に、先生たちがパチパチと拍手を送った。わたくしはレグルスさまと顔を見合わせて、それから先生たちと同じように拍手を送る。気付けば、パーティー会場にいる人たちは拍手をしていた。
「――カースティン男爵、ベネット公爵。あとでわたくしの宮にきなさい。あなた方の事情は、わたくしがしっかりと聞き遂げましょう」
「……かしこまりました」
……これで、ようやく……終わった、のね……?
安心したら、なんだか、身体が……重いわ……
「カミラ嬢!」
薄れていく意識の中、レグルスさまの心配そうな顔が印象に残った。
ぎゅっと、ブレンさまから渡されたお札を握りしめて、心の底から祈る。
――どうか、お願い。レグルスさまに、力を――……!
わたくしの祈りが届いたのか、弾かれたようにこちらを見るレグルスさま。その瞳には驚愕が浮かび、それからすぐに白い歯を見せた。
「よそ見とは、余裕だな!」
「勝利の女神のおかげでね!」
押し負けそうになっていたレグルスさまが、押し返してきたことにグラエル陛下は忌々しそうに眉間に皺を刻む。
ぐぐぐ、とグラエル陛下が押し負けはじめ、騎士たちはそれを見て一気に勢いよく突撃していった。
「レグルスさま!」
あのまま、そこにいたら巻き込まれてしまうんじゃないかと声を上げると、彼はタイミングを見計らったようにグラエル陛下から離れた。その反動でぐらりと陛下の身体がよろめく。
「――っ!」
グラエル陛下の魔力が膨らんでいるような気がして、彼の魔力を覆うようにバリアの魔法を使う。わたくしとグラエル陛下では、おそらくわたくしのほうが負けてしまう。
――それでも、この騒動を終わらせなければいけない。そう、強く思った。
「手伝うよ」
いつの間にかわたくしの隣にきていたレグルスさまが、そっと肩に手を置いた。じんわりと彼の体温と――魔力を感じる。
こくりとうなずいて、騎士の方々に声をかけた。
「わたくしたちが陛下の魔力を抑えます! そのあいだに……!」
「協力、感謝する!」
騎士の一人が言葉を返してくれた。レグルスさまと一緒に、グラエル陛下の魔力を抑え込むバリアを張り続ける。
レグルスさまの魔力と、わたくしの魔力が溶け合い、とても強いバリアになったようだ。チッと舌打ちするグラエル陛下。バリアが破れなくて、イライラしているように見えた。
「その調子。……もう少しで、終わるよ」
「……え?」
弾かれたようにレグルスさまを見上げると、彼はにこりと微笑みを浮かべて、パチンと指を鳴らした。すると――まるでリボンのようなもので、グラエル陛下が拘束された。一瞬の出来事に目を見開くと、動けなくなったグラエル陛下を騎士たちが抑え込み、「申し訳ありません」とつぶやいてから彼の意識を奪う。
「……終わった、の?」
「陛下にとっては多勢に無勢って感じだったなぁ」
グラエル陛下の魔力が消え、騎士がひょいとグラエル陛下を持ち上げると、パンパン、と手を叩く耳に届いた。
音のほうへ振り返ると、エセル王妃が厳しい表情から笑顔を浮かべ、パーティー会場にいる全員に聞こえるように凛とした声で告げる。
「楽しいパーティーを壊して、申し訳ありません。ですが――この学園の学生たちの勇姿、この目でしっかりと見届けました。あなた方が学園を卒業し、世に羽ばたく日を楽しみにしていますわ」
エセル王妃の言葉に、先生たちがパチパチと拍手を送った。わたくしはレグルスさまと顔を見合わせて、それから先生たちと同じように拍手を送る。気付けば、パーティー会場にいる人たちは拍手をしていた。
「――カースティン男爵、ベネット公爵。あとでわたくしの宮にきなさい。あなた方の事情は、わたくしがしっかりと聞き遂げましょう」
「……かしこまりました」
……これで、ようやく……終わった、のね……?
安心したら、なんだか、身体が……重いわ……
「カミラ嬢!」
薄れていく意識の中、レグルスさまの心配そうな顔が印象に残った。
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