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証言。 1話
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「――大きくなられましたね、マティスさま」
遠くからでも、マティス殿下のことが見えたようだ。涙を浮かべながら、ぽつりとつぶやくジェマに、彼はグラエル陛下に声を張り上げる。
「父上! ばあやを……彼女を追い出したのは本当のことですか!?」
「それも証拠がないことだな」
「証拠なら、ありましてよ」
パーティー会場内に、凛とした声が響いた。
コツコツと足音を響かせながら現れたのは、エセル王妃だった。……パーティー会場にエセル王妃がいらっしゃったことに、思わず目を見開く。彼女はわたくしたちに視線を向けると、スタスタとこちらに足を進める。
「マティス、歯を食いしばりなさい」
「――え?」
パシィン! とエセル王妃がマティス殿下の頬を平手打ちした音が響く。
わたくしは目を瞬かせてしまった。
「は、母上……?」
叩かれた右頬に手を添えて、信じられないとばかりに目を瞠るマティス殿下。
「――カミラ、マーセル、あなたたちの入れ替わりが陛下の指示であったことを、わたくしが証言します」
まさか、エセル王妃がこの場にきて証言してくれるとは思わず、じっと見つめた。すると、彼女はわたくしたちからグラエル陛下に視線を移し、「これが証拠です」と魔法石を取り出した。
「これは……?」
『確か、カースティン男爵夫妻と、ベネット公爵夫妻の子の誕生は同じくらいになりそうだったな? そして、カースティン男爵には借金がある。オリヴィエの血筋を王族に入れることができるチャンスだ』
『お、お待ちください、陛下。金貨と引き換えに子どもを入れ替えようとおっしゃるのですか?』
グラエル陛下と……これは、お父さまの声?
『そうだ。お前のところにはすでに血の繋がった子どもがいるだろう。オリヴィエの子を公爵令嬢に仕上げてくれ。マティスの婚約者にする』
『そんな……』
……お父さまは、最初から知っていたの? 知っていて、ホテルのラウンジであんなふうに言っていたということ?
血の気が引いた。……グラエル陛下、カースティン男爵、そしてお父さまが結託してわたくしたちを取り替えたの!?
『あとでカースティン男爵も連れてくる。万が一子どもたちにバレた場合のことも話し合わないとな』
『……陛下はどうして、そこまでオリヴィエ嬢の子を……?』
『愛しているからさ。愛しているから……彼女の血筋を王族に入れたい。王族としての子を産んでほしい。それだけの話だ』
『オリヴィエ嬢の子どもの性別は、生まれてみないとわかりませんよ』
『男だとしたら、娘の婚約者にするさ』
「うわー……。すごいね、この国の陛下」
ぞわりと鳥肌が立った。そんなわたくしに、レグルスさまがぽつりと言葉をこぼす。彼の言葉は、静まり返ったパーティー会場内に、よく響いた。
遠くからでも、マティス殿下のことが見えたようだ。涙を浮かべながら、ぽつりとつぶやくジェマに、彼はグラエル陛下に声を張り上げる。
「父上! ばあやを……彼女を追い出したのは本当のことですか!?」
「それも証拠がないことだな」
「証拠なら、ありましてよ」
パーティー会場内に、凛とした声が響いた。
コツコツと足音を響かせながら現れたのは、エセル王妃だった。……パーティー会場にエセル王妃がいらっしゃったことに、思わず目を見開く。彼女はわたくしたちに視線を向けると、スタスタとこちらに足を進める。
「マティス、歯を食いしばりなさい」
「――え?」
パシィン! とエセル王妃がマティス殿下の頬を平手打ちした音が響く。
わたくしは目を瞬かせてしまった。
「は、母上……?」
叩かれた右頬に手を添えて、信じられないとばかりに目を瞠るマティス殿下。
「――カミラ、マーセル、あなたたちの入れ替わりが陛下の指示であったことを、わたくしが証言します」
まさか、エセル王妃がこの場にきて証言してくれるとは思わず、じっと見つめた。すると、彼女はわたくしたちからグラエル陛下に視線を移し、「これが証拠です」と魔法石を取り出した。
「これは……?」
『確か、カースティン男爵夫妻と、ベネット公爵夫妻の子の誕生は同じくらいになりそうだったな? そして、カースティン男爵には借金がある。オリヴィエの血筋を王族に入れることができるチャンスだ』
『お、お待ちください、陛下。金貨と引き換えに子どもを入れ替えようとおっしゃるのですか?』
グラエル陛下と……これは、お父さまの声?
『そうだ。お前のところにはすでに血の繋がった子どもがいるだろう。オリヴィエの子を公爵令嬢に仕上げてくれ。マティスの婚約者にする』
『そんな……』
……お父さまは、最初から知っていたの? 知っていて、ホテルのラウンジであんなふうに言っていたということ?
血の気が引いた。……グラエル陛下、カースティン男爵、そしてお父さまが結託してわたくしたちを取り替えたの!?
『あとでカースティン男爵も連れてくる。万が一子どもたちにバレた場合のことも話し合わないとな』
『……陛下はどうして、そこまでオリヴィエ嬢の子を……?』
『愛しているからさ。愛しているから……彼女の血筋を王族に入れたい。王族としての子を産んでほしい。それだけの話だ』
『オリヴィエ嬢の子どもの性別は、生まれてみないとわかりませんよ』
『男だとしたら、娘の婚約者にするさ』
「うわー……。すごいね、この国の陛下」
ぞわりと鳥肌が立った。そんなわたくしに、レグルスさまがぽつりと言葉をこぼす。彼の言葉は、静まり返ったパーティー会場内に、よく響いた。
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