【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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もう、我慢はしない。 2話

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「カミラ嬢、泊る場所はあるのかい?」
「マーセルの部屋に泊まらせてもらいますわ。あそこには、わたくしだけのものがありますもの」

 マーセルはきっとカースティン男爵邸に泊まるだろうから。

「……そうだね、俺が贈ったのはきみのものだ」
「ふふ」

 ベネット家のものはベネット家のもので、わたくしのものなんて一つもない。

 お母さまの趣味で揃えたものだから……

 学園生活でもいろいろ制限されていたけれど、わたくし、もう我慢をしないわ。

「でも、その前にカースティン男爵にお話がありますの」
「彼に?」

 こくりとうなずいて、レグルスさまを見上げる。

 きっと、少しはオリヴィエさまも落ち着きを取り戻したでしょうし……お父さまたちとは、これ以上話したくない。

「じゃあカースティン男爵邸に戻りましょうかー」
「わ、私も行きます」
「ええ、みんなで行きましょう」

 スタスタと早足でベネット公爵邸をあとにする。屋敷から出たところで、一度振り返った。

「――さようなら」

 小さくつぶやいて、前を向く。

 馬車に乗り込んで再びカースティン男爵邸へ。

 数回、深呼吸を繰り返してから真っ直ぐにブレンさまを見つめた。

「ブレンさま、お聞きしたいことがございます」
「なんでしょうー?」
「わたくしたちの鎖は、どうしてかれたのですか?」

 クロエの部屋では無理だった。あの一回で、コツを掴んだということかしら? 小首をかしげて尋ねると、ブレンさまはきょとんとした表情を浮かべてから、ぽんと手を叩く。

「動揺したからですよー」
「動揺?」

 確かにマーセルもわたくしも、動揺したとは思うけれど……それだけで?

雁字搦がんじがらめの鎖が緩んだ瞬間を狙ったんです。これもありましたし」

 すっと取り出したのはお札……のように見える一枚の紙。

「それは?」

 クロエが興味津々にその紙を見つめてから、ブレンさまに視線を移して問いかける。

 彼はにこっと笑って、ひらひらと紙を揺らした。

「これは、ちょっとしたブースターです」
「ブースター?」
「うわ、まだ持ってたのか、それ」

 ぎょっとしたようなレグルスさまの声に、彼らを交互に見て首をかしげる。

「レグルスさまのおかげでもありますねー」
「レグルスさまの……?」

 眉を下げてレグルスさまを見つめると、彼は後頭部に手を置いて「うーん」となにかを悩んでいるようだった。

 わたくしたちには教えづらいことなのかもしれない、と口を開こうとすると、レグルスさまは言葉を紡ぐのが先だったので、口を閉じる。

「趣味でそういうの作っているんだ」
「……趣味、ですか?」

 それはあまりにも意外な言葉で、目を丸くしてしまった。
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