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カースティン家の食堂で。 2話
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一通り食べ終えてから、ノランさまがオリヴィエさまに声をかける。
「オリヴィエ、この前の刺繍を見せてあげたらどうだ?」
「刺繍?」
レグルスさまが首をかしげて問うと、ノランさまはこくりとうなずいた。そして、どこか自慢げに口を開く。
「オリヴィエの刺繍は一級品なんだ。この前大作が出来上がったばかりでね、みんなに見てもらおうと思って」
「やだ、あなたったら。でも、そうね。見てもらおうかしら」
かたんとオリヴィエさまが立ち上がり、刺繍を取りに食堂から出ていった。
それを見送ってから、ノランさまがすっと目を細めてわたくしたちを見渡す。
「――なぜ、うちに来たんだ?」
硬い声に『カミラ』がびくりと肩を震わせた。
「とある事実を、確認したくて参りました」
「こんなに大勢で?」
「関わっちゃいましたからねー」
ブレンさまがのんびりとした口調とは裏腹に、鋭い視線をノランさまに向けた。その視線に、彼の眉がピクリと跳ねあがる。
「――どうして、知っていながら、公爵の要望を却下したのですか?」
「まぁ、このおうちを見ればわかりますけどねー」
レグルスさまとブレンさまの言葉に、ノランさまはわかりやすく表情を引きつらせた。
わたくしとマーセルも彼を見つめる。
クロエはそんな様子のわたくしたちを、眉を下げて眺めていた。きっと、心配してくれているのだろう。
「――お父さま」
そう言葉をつぶやいたのは、『カミラ』だった。びくっと肩を震わせて、血の気の引いた顔を彼女に見せた。
「……お母さまは、このことを知っているの? 今までずっと、私たちのことを騙していたの?」
……わたくしの顔でそんなに悲壮な顔をされると、なんだか不思議な感じがするわね。
「そもそも、どうしてわたくしたちはトレードされたのですか?」
マーセルの言葉に続くように、わたくしも言葉を紡ぐ。
わたくしたちの言葉遣いに違和感を覚えたのか、ノランさまの表情が段々と険しくなる。『マーセル』と『カミラ』を交互に見て「まさか……」と目を丸くした。
「いや、そんなことが起こるわけ……」
「その予想通りですわ、ノラン・カースティン男爵」
わたくしの言葉に、信じられないとばかりに勢いよく首を横に振る。
その気持ちはよくわかるわ。
マーセルとわたくしの中身が入れ替わる、なんて普通に考えれば信じられないことでしょう。
「……どこまで、知っていらっしゃるのですか?」
ぎゅっと拳を握り、ゆっくりと開いてから、ノランさまは小さな声をこぼす。その口調は娘に対するものではなく、『公爵令嬢』に対するものだった。
「あなたは、マーセルが学園でどんな扱いをされているか、ご存知ですか?」
「え?」
「……マーセル、話しても良いかしら?」
マーセルに尋ねると、彼女は小さくうなずいた。それを見て、一度深呼吸をしてから、学園でのことを話す。
その内容にノランさまはぐっと唇を噛み締め、うつむいてしまった。
「オリヴィエ、この前の刺繍を見せてあげたらどうだ?」
「刺繍?」
レグルスさまが首をかしげて問うと、ノランさまはこくりとうなずいた。そして、どこか自慢げに口を開く。
「オリヴィエの刺繍は一級品なんだ。この前大作が出来上がったばかりでね、みんなに見てもらおうと思って」
「やだ、あなたったら。でも、そうね。見てもらおうかしら」
かたんとオリヴィエさまが立ち上がり、刺繍を取りに食堂から出ていった。
それを見送ってから、ノランさまがすっと目を細めてわたくしたちを見渡す。
「――なぜ、うちに来たんだ?」
硬い声に『カミラ』がびくりと肩を震わせた。
「とある事実を、確認したくて参りました」
「こんなに大勢で?」
「関わっちゃいましたからねー」
ブレンさまがのんびりとした口調とは裏腹に、鋭い視線をノランさまに向けた。その視線に、彼の眉がピクリと跳ねあがる。
「――どうして、知っていながら、公爵の要望を却下したのですか?」
「まぁ、このおうちを見ればわかりますけどねー」
レグルスさまとブレンさまの言葉に、ノランさまはわかりやすく表情を引きつらせた。
わたくしとマーセルも彼を見つめる。
クロエはそんな様子のわたくしたちを、眉を下げて眺めていた。きっと、心配してくれているのだろう。
「――お父さま」
そう言葉をつぶやいたのは、『カミラ』だった。びくっと肩を震わせて、血の気の引いた顔を彼女に見せた。
「……お母さまは、このことを知っているの? 今までずっと、私たちのことを騙していたの?」
……わたくしの顔でそんなに悲壮な顔をされると、なんだか不思議な感じがするわね。
「そもそも、どうしてわたくしたちはトレードされたのですか?」
マーセルの言葉に続くように、わたくしも言葉を紡ぐ。
わたくしたちの言葉遣いに違和感を覚えたのか、ノランさまの表情が段々と険しくなる。『マーセル』と『カミラ』を交互に見て「まさか……」と目を丸くした。
「いや、そんなことが起こるわけ……」
「その予想通りですわ、ノラン・カースティン男爵」
わたくしの言葉に、信じられないとばかりに勢いよく首を横に振る。
その気持ちはよくわかるわ。
マーセルとわたくしの中身が入れ替わる、なんて普通に考えれば信じられないことでしょう。
「……どこまで、知っていらっしゃるのですか?」
ぎゅっと拳を握り、ゆっくりと開いてから、ノランさまは小さな声をこぼす。その口調は娘に対するものではなく、『公爵令嬢』に対するものだった。
「あなたは、マーセルが学園でどんな扱いをされているか、ご存知ですか?」
「え?」
「……マーセル、話しても良いかしら?」
マーセルに尋ねると、彼女は小さくうなずいた。それを見て、一度深呼吸をしてから、学園でのことを話す。
その内容にノランさまはぐっと唇を噛み締め、うつむいてしまった。
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