【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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マーセルの家へ。 2話

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 ……大量の荷物を抱えて。

「……あの、いったいなにをそんなに……?」

 ぽかんと口を開けてその大量の荷物を眺めて、マーセルが首をかしげた。

 そうね、マーセルは知らないものね。

「美味しそうなものを集めてきましたー」

 その大量の荷物のほとんどが、おそらくブレンさまの胃に入ることになることを。

「それじゃあ、マーセル嬢のおうちまでお願いしますー」

 ブレンさまが御者に声をかけると、馬車が再び走り出す。

 マーセルの家には、それから三十分もしないうちについた。

 ……とても広い屋敷で驚いたわ。

 明るいクリーム色の外壁に、夕日色の屋根。

 ここで、マーセルは育ったのね。ちらりと彼女を見ると、切なそうに目元を細めて見つめていた。

 玄関前まで馬車で送ってもらい、馬車を降りると勢いよく扉が開く。

「マーセル!」

 出てきたのは、ストロベリーブロンドの女性。マーセルの名を呼び、抱きついてきた。

「寮に入ってからめっきり会えなくなって、寂しかったのよ。元気に暮らしているのよね? あら、ちょっとやつれたんじゃない? 大丈夫?」

 心配そうに眉を下げて、ぺたぺたと頬を触る。――この人がマーセルの母……いえ、『わたくし』の母なのね。

「こらこら、オリヴィエ。お客さまたちが驚いているよ」
「……あらっ、ごめんなさい。久しぶりに娘に会えたから、嬉しくて。初めまして、マーセルの母のオリヴィエ・カースティンと申します」

 わたくしから離れ、すっとカーテシーをしてから顔を上げ、柔らかく微笑んだ。

「初めまして、マーセルの父のノラン・カースティンです。マーセル、いつの間にこんなに友達を作ったんだい?」

 同じように柔らかく微笑む男性。プラチナブロンドの持ち主。……この人たちに愛されて、マーセルは育ったのね。

「あなた、とりあえず中に入ってもらいましょう」
「あ、これお土産ですー」
「まぁ、こんなにたくさん! お気遣いいただいてありがとうございます」

 ブレンさまとオリヴィエさまが、にこにこと笑いながら会話をしている。

 その様子を、マーセルがじっと眺めていた。

「マーセルがうちに帰ってくるって手紙が届いたから、私たちも張り切ったのよ。さぁ、今日はたくさんお話ししましょうね」

 オリヴィエさまは声を弾ませて、わたくしたちを中に招き入れる。

「……冷静?」
「……はい。大丈夫です」

 こそりとマーセルに問いかけると、彼女は思ったよりもしっかりと返事をした。

 カースティン邸に足を踏み入れて、オリヴィエさまとノランさまのあとをついていく。

「それじゃあ、学園のことをお話ししてくれる?」

 ついたのは、食堂のようだった。

 それぞれ椅子に座り、オリヴィエさまがにこにことしながら両手を合わせ、わたくしたちの顔を見渡す。

 ――さて、なにから話すべきかしらね?
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