【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

文字の大きさ
上 下
60 / 116

デート、再び。 2話

しおりを挟む
「馬車は二台用意しますので、一台にはあなたたちが乗ってくださいね」
「わかりました」

 クロエがうなずいて、ブレンはすぐに馬車を用意してくれた。早い。

 馬車に乗りこんで水族館へ向かう。どんな場所なのかしら……ちょっと楽しみ。

「クロエは、水族館に行ったことがある?」

 ゆるりと首を左右に振るクロエの瞳が、濁っていた。

「勉強や研究で、行く余裕がありませんでした……」
「そう……わたくしと同じね」

 公爵邸で勉強や礼儀作法ばかりを習っていた日々を思い出して、わたくしは両肩を上げる。

 ゆっくりと息を吐いて、馬車の窓から外の景色を眺めた。

「なら、今日はとことん、楽しみましょうね」
「はい!」

 クロエがぱっと、花が咲くような笑みを見せてくれた。……うん、可愛いわね。

 馬車で小一時間ほど揺られて、ようやく目的地についた。

 ここに来るのも二回目ね。館内を見るのは初めてだけど。

 そのことに眉を下げて微笑み、わたくしたちは馬車を降りた。

「思っていた以上にすごい人ですね……」
「家族連れが多いわね。人気なのかしら」
「そりゃあもう大人気ですよ。僕の調べによると!」

 ひょこっとブレンさまが現れて、パンフレットをくれた。……それを受け取り、ぱらりとめくる。

 いつの間に用意していたのかしら、ブレンさま。

「ブレン、俺にはないのか?」
「え、殿下もほしいんですか?」

 きょとんとレグルスさまを見るブレンさまに、わたくしたちはくすくすと笑ってしまった。

 きちんとレグルスさまの分も用意していたみたいで、すっと差し出す。

 レグルスさまはパンフレットを受け取って、パラパラと中身に目を通した。

「適当に見て回りますか?」
「そうね……ゆっくり歩きたいわ。見るの、初めてだから」
「じゃあお土産屋はあとにするとして……ゆっくり歩こうか」

 レグルスさまの言葉に、こくりとうなずく。あ、入場料はどうすれば……?

「良かったですね、レグルスさま。無駄にならなくて」
「今日までだからラッキーだったな」

 彼らがそう話しているのが聞こえた。

 どういう意味かしら? と二人に視線を向ける。レグルスさまは悪戯っぽく笑みを浮かべ、ひらひらと長方形の紙を見せる。

 ……これは、もしかして……チケット?

「入学したときに陛下からもらったんだ。観光にでもってさ」
「まぁ、そうでしたの……」
「よく見たらこのチケット、一枚で四人までって書いてあったんだよね。ブレント二人で見るのも虚しいし……」
「虚しい?」
「家族連れや恋人が多い場所で男同士って、かなり目立つと思わない?」

 なるほど、確かにそれは目立ちそうね。

 レグルスさまもブレンさまも、背が高くて格好良いし、女性に声をかけられそう。

 ……リンブルグには水族館、ないのかしら?

「きみたちがいてくれて良かったよ。さ、水族館を堪能しよう!」
「魚ー」

 ブレンさまが嬉しそうに笑っている。

 魚が好きなのかも……と、思ったら、続いた言葉に目を丸くした。

「今夜は魚料理がいいですねぇ」
「今から生きている魚を見るのに!?」

 クロエが思わずというようにツッコミを入れる。

 ……中々良いコンビになりそうな予感がするわ、クロエとブレンさま。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

政略結婚の指南書

編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】 貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。 母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。 愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。 屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。 惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。 戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい…… ※R15は保険です ※別サイトにも掲載しています

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

処理中です...