【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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やっと休める…… 1話

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 お父さまはパチンと指を鳴らして魔法をいた。

 そして、「それでは、これで」と三人は去っていく。

 残されたわたくしたちは、彼らがラウンジを出ていくのを見送ってから、一斉に息を吐いた。

「ごめん」
「……なにについての、謝罪でしょうか」

 レグルスさまが肩をすくめて、ちょっとだけバツが悪そうに頬を人差し指でかく。

 わたくしがじっと彼を見つめると、彼は深々とこちらに向かって頭を下げた。

「きみの意向を無視して、一騎打ちを申し込んだ」
「……それは、勝算があることなのでしょうか?」

 そう問いかけると、レグルスさまは頭を上げてニヤリと口角を上げる。

 正直、わたくしには彼の強さがわからない。

 魔術師学科では騎士学科と合同訓練をしたことがないから……

 ブレンさまは強いと話していたけれど、マティス殿下の実力だってかなりのもの……だと思う。

「大丈夫、必ず勝つから」
「……レグルスさまを信じますわ。自由にしてくださいね」
「もちろんさ。その前に……戻れるといいね」

 本当にね。

 曖昧に微笑みを浮かべると、「疲れただろう?」と気遣ってくれた。

 みんなでラウンジをあとにして、レグルスさまが予約してくれた部屋に足を進める。

 移動中、クロエが心配そうにわたくしを見ていることに気付いた。

 そっと彼女に手を伸ばすと、がしっと手を掴んでくれた。伝わってくる彼女の体温に、なぜか心が満たされる。

 レグルスさまとブレンさまが部屋まで案内してくれて、「ゆっくり休んで」と微笑む。こくりとうなずいて部屋に入った。

「わぁ……」
「素敵な部屋ですね」

 白を基調にした部屋は清潔感があってとても心地良い。ところどころに飾られている色とりどりの花たちもとてもきれい。

「……お風呂に入りたいわ」
「準備しますね」
「待って、クロエ。……一緒に入らない?」

 クロエは「え?」と目をまたたかせた。それから「えええっ!?」と声を上げた。

 その声を聞いて、くすくすと笑う。

 わたくしは浴室に向かって歩く。扉を開けて中を確認した。うん、とても広いので、充分二人で入れるわ。

 バスタブにお湯を溜め始めると、クロエが慌てたように浴室まで追ってきた。

「カミラさま、冗談ですよね!?」
「本気よ? 貴女あなた、わたくしの侍女になるのでしょう? お風呂のときにどうすれば良いのかを教えてあげる」

 にこりと微笑むと、一瞬身体を硬直させ、それから「なるほど……?」と首をかしげる。

 まぁ、この身体はマーセルのものだけど。

 お湯が溜まるまで、一休みしましょう。

「ねえ、クロエ。貴女、侍女の経験はないのよね?」
「え、ええ」
「じゃあ、お茶のれ方を教えてあげるわ。わたくし好みの味を覚えてもらいたいの」
「は、はい。わかりました!」

 さすが王室御用達ホテル。良い設備が整っている。

 おそらく、お茶を頼めばすぐに用意してくれるだろう。

 自分たちでも淹れられるように、数多くの茶葉もあるし……ゆっくり休めるようにカモミールティーでも淹れようかしら?

 クロエにお茶の淹れ方を教えると、彼女は素直に聞いてくれて、わたくしが説明したことを一度で覚えてお茶を淹れてくれた。

 こくりと一口飲んで、優しい味に思わず笑みが浮かぶ。

「美味しいわ」
「それは良かったです」

 安堵したように息を吐くクロエを見て、彼女をじっと見つめた。
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