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ラウンジにて。 2話
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「わたくしが礼儀作法を教えているのですから、当たり前ですわ。あの子はマティス殿下の婚約者ですから」
考えていた通り、わたくしがマティス殿下の婚約者だから、あんなに厳しかったのね。いえ、もしかしたら……ううん、これはただの憶測でしかないわ。
「マティス殿下とカミラ嬢は、想い合っているように見えますか?」
「いや、全然。だが、王族の婚約とはそんなものだろう?」
両肩を上げるお兄さまに、レグルスさま「この国はそうなんですね」と『この国』は、を強調する。ブレンさまはそんな会話に参加することなく、食べ物を注文して、クロエと食べていた。
幸せそうに食べているブレンさまと、心配そうにこちらを窺うクロエ。
「ああ、そういえば……おかしなことがあったな。カミラがマティス殿下との婚約を白紙にしたいと言ってきた」
「……まぁ、そうなんですか?」
「なにを言っているんだ、と一蹴したがね。反抗期というやつだろうか」
反抗なんて許さないくせに、なにを言っているのかしら。お父さまはマジマジとわたくしを見て、「もしかしたら」と微笑む。
「きみがマティス殿下と仲が良いから、カミラは嫉妬したのかもしれないね?」
ぞわっと鳥肌が立った。
勘違いもここまで来ると恐怖を感じる。
マティス殿下とマーセルの関係に気付いたのは、この身体になってからだ。
わたくしが眉を下げるのを見ると、お兄さまがもう一度わたくしの頭を撫でた。……なんだか複雑な気分だわ。
「小公爵さま?」
「ああ、すまない、つい……」
お兄さまは、マーセルのことをこんなふうに可愛がりたかったのかしら。だとしたら、中身が『カミラ』で残念ね。
「あの、どうしても、マティス殿下とカミラさまの婚約は白紙にできないのでしょうか?」
「どうしたんだい、マーセル。なにか気になることでも?」
「マティス殿下とカミラさまでは、その……あまり相性が良くないような気がしまして……」
自分でこう口にするのは、少し抵抗があるけれど……婚約を白紙にしてほしいから、言葉にした。
お父さまたちは驚いたように目を丸くし、わたくし――『マーセル』がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
「きみはマティス殿下と親しいとは聞いていたが、そんな話もする仲なのか?」
すっと目元を細めて見極めるように低い声で問いかけるお父さま。
じっとその瞳を見つめながら、こくりとうなずいた。
すでに、マーセルとマティス殿下には身体の関係がある。
そして、マティス殿下はマーセルが本来の公爵令嬢であることも知っていた。
「……そうか。殿下はどこまで……ご存知なのだろうな」
「公爵さま?」
ぱちん、とお父さまが指を鳴らす。
こうして魔法を使うところを見るのは、初めてだ。これは……防音の魔法?
こちらからは外の声が聞こえるけれど、この魔法の範囲内にいる人たちの声は決して外に漏れないという、防音の魔法だろう。
よく使われるのは会議のときだ。
「きみたちは、どこまで知っている?」
「……なにを、でしょうか?」
「とぼけなくてもいい。どうせ知っているのだろう。マーセル、お前が本来ならば――公爵家の令嬢として育つべきだったことを」
考えていた通り、わたくしがマティス殿下の婚約者だから、あんなに厳しかったのね。いえ、もしかしたら……ううん、これはただの憶測でしかないわ。
「マティス殿下とカミラ嬢は、想い合っているように見えますか?」
「いや、全然。だが、王族の婚約とはそんなものだろう?」
両肩を上げるお兄さまに、レグルスさま「この国はそうなんですね」と『この国』は、を強調する。ブレンさまはそんな会話に参加することなく、食べ物を注文して、クロエと食べていた。
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「きみがマティス殿下と仲が良いから、カミラは嫉妬したのかもしれないね?」
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わたくしが眉を下げるのを見ると、お兄さまがもう一度わたくしの頭を撫でた。……なんだか複雑な気分だわ。
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お兄さまは、マーセルのことをこんなふうに可愛がりたかったのかしら。だとしたら、中身が『カミラ』で残念ね。
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「きみはマティス殿下と親しいとは聞いていたが、そんな話もする仲なのか?」
すっと目元を細めて見極めるように低い声で問いかけるお父さま。
じっとその瞳を見つめながら、こくりとうなずいた。
すでに、マーセルとマティス殿下には身体の関係がある。
そして、マティス殿下はマーセルが本来の公爵令嬢であることも知っていた。
「……そうか。殿下はどこまで……ご存知なのだろうな」
「公爵さま?」
ぱちん、とお父さまが指を鳴らす。
こうして魔法を使うところを見るのは、初めてだ。これは……防音の魔法?
こちらからは外の声が聞こえるけれど、この魔法の範囲内にいる人たちの声は決して外に漏れないという、防音の魔法だろう。
よく使われるのは会議のときだ。
「きみたちは、どこまで知っている?」
「……なにを、でしょうか?」
「とぼけなくてもいい。どうせ知っているのだろう。マーセル、お前が本来ならば――公爵家の令嬢として育つべきだったことを」
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