【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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ホテルのディナー。 2話

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「食いしん坊め」
「否定はしません!」

 きっぱりと断言するものだから、わたくしとクロエは声を出して笑わないようにするのが大変だった。

 そして、そんな和やかな雰囲気を楽しんで、デザートまでいただいたあと――ガシャン、となにかが割れる音が耳に届く。

「な、なにかしら……?」
「別の個室から、みたいですね。なんだか騒がしくなりそうですし、部屋に向かいましょうか」

 ブレンさまの提案に、わたくしたちはうなずいた。

 個室を出ると、近くの個室にホテルの従業員が集まっているのが視界に入る。

 必死に謝っている姿を見て、なにがあったのかしら? と首をかしげると、怒り心頭という雰囲気をまとった一人の女性が現れた。

 思わず、息をんでしまった。だって、出てきたのはベネット公爵夫人だったから。

「……」
「……」

 レグルスさまがわたくしとお母さまを交互に見て、それからお母さまに向かってにっこりと微笑みを浮かべた。

 お母さまはレグルスさまのことを怪訝そうに見ていたけれど、お母さまを追いかけるように出てきたお父さまとお兄さまもわたくしたちに気付いて、お父さまが「ああ」と一言口にし、レグルスさまに愛想よく笑みを見せる。

「これはこれは、リンブルグの王太子殿。奇遇ですな」

 ……名前を呼ばないのは、わざとかしら?

「デート中でしたかな?」

 目元を細めてたずねるお父さまに、わたくしはぎゅっと拳を握る。レグルスさまは緩やかに首を振って否定した。

「友人たちとディナーを楽しんでいただけですよ。なぁ、みんな?」

 わたくしたちはそれぞれうなずいた。お父さまたちにバレないように深呼吸をしてから、ベネット公爵家の人たちの前に立ち、カーテシーをする。

「お初にお目にかかります。ベネット公爵さま、公爵夫人さま、小公爵さま。マーセルと申します。以後、お見知りおきを」

 顔を上げて、真っ直ぐに彼らを見ると、息を呑むのがわかった。お母さまはわたくし――いえ、マーセルをマジマジと凝視すると、扇を取り出して口元を隠す。

「きみがマーセルか。マティス殿下から、いろいろ聞いているよ」

 マティス殿下がなにをどう説明したかはわからないけれど……お父さまの、『マーセル』を見る瞳はとても優しかった。

 わたくしを見るとき、そんなに優しいまなざしを向けられたことはない。

 お兄さまも、感極まったような……そんな表情を浮かべていた。

 彼の……マティス殿下の言っていたことは、本当だったのね……

 お母さまだけ、鋭い視線を向けていた。

「……マティス殿下は、わたくしのことをなんと話していましたか?」

 少しだけ気になって、たずねた。すると、お父さまは「立ち話もなんだから、ラウンジに行こう」と歩き出す。

 わたくしたちは顔を見合わせてから、お父さまたちについていくことにした。
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