上 下
46 / 116

話を聞くのが楽しい。 2話

しおりを挟む
 ……そうよね。この身体はマーセルのものだから……二人きりでデートするには、リスクが高すぎる。

 ドキドキと早鐘を打つ鼓動を落ち着かせようと、何度か深呼吸を繰り返す。少し落ち着いてから、わたくしたちはカフェをあとにした。

「暗くなってきましたね。時間が過ぎるのはあっという間です」

 ブレンさまが空を見上げながら言葉を紡ぎ、わたくしたちも空を見上げた。オレンジ色に染まる王都を眺めて、今日が終わることを残念に思い、そっと胸元に手を置く。

 ――……楽しかったのね、わたくし。

 今日、外の世界をこの目で見られて。

 平民たちが一生懸命に働いている姿や、遊んでいる姿を見た。

 みんな、楽しそうで……キラキラしていて……これが一部のことだって、ちゃんとわかっている。

 わかってはいるけれど……実際に見てみて、国民たちはみんな生きているのだと改めて実感した。

 わたくしは本当に、勉強をして知っているだけで、実際の国民のことは知らなかったから。

 そして――この国がリンブルグの留学生たちを冷遇していたことを知って、情けなくもなった。

 交換留学でリンブルグに向かったのは第三王子だ。彼はまだ幼いから、同じくらいの年齢のマティス殿下が向かうべきだったのではないか、と今でも思っている。

 でも、彼はかたくなに留学を嫌がった。

 もしかしたら、彼の提案なのかもしれない。そうだとしたら――……

「あ、馬車来ましたよ。行きましょう、寮へ」
「え?」

 ホテルを予約していると言っていたと思うのだけど……? と目をまたたかせていると、馬車に乗せられた。そしてそのまま寮に戻る。

 ぎゅっとノートを抱きしめて、キラキラとしている世界を馬車の窓からじっと見つめた。

 帰り道は誰も喋らず、静かだったけれど……なぜかしら、あまり重々しい雰囲気ではなかったのよね。

 公爵邸では、沈黙はかなり重い雰囲気になるのに。

 そんなことを考えていると、寮についた。門限ギリギリみたいね。

 馬車から降りて、わたくしはレグルスさまとブレンさまに向かい、カーテシーをした。

 すると、彼らは驚いたように目を丸くしたけれど、すぐに胸元に手を当てて頭を下げた。二人とも、その動きがとても洗練されていて格好いい。

「今日は楽しい時間をありがとうございました。リンブルグのことを教えていただけて、とても勉強になりましたわ」
「楽しんでもらえたなら、良かった」
「僕たちも楽しかったですよねー」

 にこやかに微笑むレグルスさまに、ほのぼのと答えるブレンさま。

 騎士学科と傭兵学科、別々の科に入れられたというのに、彼らはあまり……気にしてないように見える。想定済みだったのかしら?

「あの、ブレンさま。クロエのこと、よろしくお願いしますね。わたくしが口を出すことではないと思いますが……彼女は、わたくしの友人ですので」
「か……マーセルさま……」

 感極まったようにクロエがわたくしを見た。

 そんなクロエに向けて微笑みを浮かべると、そっと彼女の肩に手を置く。

 ブレンさまはそれを見て、パチパチと目をまたたかせたあとに、「もちろんです。大切にしますよ」とものすっごく甘い声で言った。

 クロエを見ると、顔を真っ赤に染めて、ハッとしたように顔を上げる。

「いや、そもそも、私たち付き合っていませんからッ!」
「時間の問題ではなくて?」
「からかって楽しんでますよね!?」

 だって、馬車の中でちらりと様子を見たときに、クロエはちらちらとブレンさまを見ていたから、気になっていないわけではないでしょうし。……なんて、ね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」 「私が愛しているのは君だけだ……」 「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」 背後には幼馴染……どうして???

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

【完結】都合のいい妻ですから

キムラましゅろう
恋愛
私の夫は魔術師だ。 夫はものぐさで魔術と魔術機械人形(オートマタ)以外はどうでもいいと、できることなら自分の代わりに呼吸をして自分の代わりに二本の足を交互に動かして歩いてほしいとまで思っている。 そんな夫が唯一足繁く通うもう一つの家。 夫名義のその家には美しい庭があり、美しい女性が住んでいた。 そして平凡な庭の一応は本宅であるらしいこの家には、都合のいい妻である私が住んでいる。 本宅と別宅を行き来する夫を世話するだけの毎日を送る私、マユラの物語。 ⚠️\_(・ω・`)ココ重要! イライラ必至のストーリーですが、作者は元サヤ主義です。 この旦那との元サヤハピエンなんてないわ〜( ・᷄ὢ・᷅)となる可能性が大ですので、無理だと思われた方は速やかにご退場を願います。 でも、世界はヒロシ。 元サヤハピエンを願う読者様も存在する事をご承知おきください。 その上でどうか言葉を選んで感想をお書きくださいませ。 (*・ω・)*_ _))ペコリン 小説家になろうにも時差投稿します。 基本、アルファポリスが先行投稿です。

(完結)記憶喪失令嬢は幸せを掴む

あかる
恋愛
ここはどこ?そして私は… 川に流されていた所を助けられ、何もかもを忘れていた私は、幸運にも助けて頂けました。新たな名前、そして仕事。私はここにいてもいいのでしょうか? ご都合主義で、ゆるゆる設定です。完結してます。忘れなかったら、毎日投稿します。 ご指摘があり、罪と罰の一部を改正しました。

処理中です...