41 / 116
リンブルグの話。 1話
しおりを挟む
「それは……酷いな」
ぽつりとレグルスさまがつぶやいた。それに同意するように、ブレンさまもうなずく。
わたくしもうなずいてしまった。クロエの才能は一番抜きん出ていると思っていたのだけど……だから、目を付けられてマティス殿下の主治医に?
「それに私、貴族ではありませんから」
「え? そうだったのかい?」
レグルスさまが驚いたように目を丸くした。
彼女の出身について、わたくしは詳しくない。ただ、とても優秀で真面目な人。そして――正義感が強いということだけは知っている。
「私は――孤児院出身なんです」
「孤児院から、医者へ?」
「はい。孤児院で毎月行われるテストで一位をキープしていたら、声がかかりまして。医者なら稼げると思い……まぁ、こんな性格ですので、煙たがれているんですけどね」
肩をすくめてから、お代わりのコーヒーを飲むクロエに、わたくしたちは顔を見合わせた。
カフェオレを飲み終えてしまったから、わたくしもお代わりを注文する。レグルスさまもコーヒーを飲み終えたからお代わりをした。
ブレンさまは相変わらずパフェを美味しそうに食べている。
「ですので、このままここに居るのもどうかなぁと考えていまして! 転職しようかと!」
「転職?」
「はい。医者をやめて侍女に!」
わたくしを見てにっこりと微笑むクロエに、心がざわついた。
だって、だってそれは……わたくしとともに、リンブルグへ行ってくれるということよね……?
口を開く前に、お代わりが届いた。それを受け取って、胸元に手を置き、何度か深呼吸を繰り返す。
「……クロエは、わたくしの傍にいてくれるの……?」
「はい、カミラさま。そのつもりです。私をカミラさまの侍女にしてください。といっても、侍女らしいことなんて、一度もしたことがないんですけれどね」
医者という職業を捨てて、わたくしの手を取ってくれるの……?
視界がぼやけてきた。クロエはハンカチを取り出して、わたくしの目元を優しく拭う。ダメね、今日も泣いてしまうなんて……
だけど、これは昨日のような涙じゃない。
彼女がわたくしのことを思ってくれるのが嬉しくて出る涙だから……許してちょうだいね。
「それで、どうでしょうか。移住してきた者にも、リンブルグは優しいですか?」
「ああ。知っているかい? リンブルグはこの大陸の中で一番、移住者が多いんだよ」
「よく、暴動が起きませんね?」
「ならないように手は打ってあるからね」
ということは、移住者にも国民にも優しい制度があるということ、よね。
実際はどうなのかしら、リンブルグ……本当に興味深いわ。涙を拭いて、わたくしたちはレグルスさまとブレンさまへ視線を向けた。
ぽつりとレグルスさまがつぶやいた。それに同意するように、ブレンさまもうなずく。
わたくしもうなずいてしまった。クロエの才能は一番抜きん出ていると思っていたのだけど……だから、目を付けられてマティス殿下の主治医に?
「それに私、貴族ではありませんから」
「え? そうだったのかい?」
レグルスさまが驚いたように目を丸くした。
彼女の出身について、わたくしは詳しくない。ただ、とても優秀で真面目な人。そして――正義感が強いということだけは知っている。
「私は――孤児院出身なんです」
「孤児院から、医者へ?」
「はい。孤児院で毎月行われるテストで一位をキープしていたら、声がかかりまして。医者なら稼げると思い……まぁ、こんな性格ですので、煙たがれているんですけどね」
肩をすくめてから、お代わりのコーヒーを飲むクロエに、わたくしたちは顔を見合わせた。
カフェオレを飲み終えてしまったから、わたくしもお代わりを注文する。レグルスさまもコーヒーを飲み終えたからお代わりをした。
ブレンさまは相変わらずパフェを美味しそうに食べている。
「ですので、このままここに居るのもどうかなぁと考えていまして! 転職しようかと!」
「転職?」
「はい。医者をやめて侍女に!」
わたくしを見てにっこりと微笑むクロエに、心がざわついた。
だって、だってそれは……わたくしとともに、リンブルグへ行ってくれるということよね……?
口を開く前に、お代わりが届いた。それを受け取って、胸元に手を置き、何度か深呼吸を繰り返す。
「……クロエは、わたくしの傍にいてくれるの……?」
「はい、カミラさま。そのつもりです。私をカミラさまの侍女にしてください。といっても、侍女らしいことなんて、一度もしたことがないんですけれどね」
医者という職業を捨てて、わたくしの手を取ってくれるの……?
視界がぼやけてきた。クロエはハンカチを取り出して、わたくしの目元を優しく拭う。ダメね、今日も泣いてしまうなんて……
だけど、これは昨日のような涙じゃない。
彼女がわたくしのことを思ってくれるのが嬉しくて出る涙だから……許してちょうだいね。
「それで、どうでしょうか。移住してきた者にも、リンブルグは優しいですか?」
「ああ。知っているかい? リンブルグはこの大陸の中で一番、移住者が多いんだよ」
「よく、暴動が起きませんね?」
「ならないように手は打ってあるからね」
ということは、移住者にも国民にも優しい制度があるということ、よね。
実際はどうなのかしら、リンブルグ……本当に興味深いわ。涙を拭いて、わたくしたちはレグルスさまとブレンさまへ視線を向けた。
120
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

政略結婚の指南書
編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】
貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。
母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。
愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。
屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。
惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。
戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい……
※R15は保険です
※別サイトにも掲載しています

【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる