【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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リンブルグの話。 1話

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「それは……酷いな」

 ぽつりとレグルスさまがつぶやいた。それに同意するように、ブレンさまもうなずく。

 わたくしもうなずいてしまった。クロエの才能は一番抜きん出ていると思っていたのだけど……だから、目を付けられてマティス殿下の主治医に?

「それに私、貴族ではありませんから」
「え? そうだったのかい?」

 レグルスさまが驚いたように目を丸くした。

 彼女の出身について、わたくしは詳しくない。ただ、とても優秀で真面目な人。そして――正義感が強いということだけは知っている。

「私は――孤児院出身なんです」
「孤児院から、医者へ?」
「はい。孤児院で毎月行われるテストで一位をキープしていたら、声がかかりまして。医者なら稼げると思い……まぁ、こんな性格ですので、煙たがれているんですけどね」

 肩をすくめてから、お代わりのコーヒーを飲むクロエに、わたくしたちは顔を見合わせた。

 カフェオレを飲み終えてしまったから、わたくしもお代わりを注文する。レグルスさまもコーヒーを飲み終えたからお代わりをした。

 ブレンさまは相変わらずパフェを美味しそうに食べている。

「ですので、このままここに居るのもどうかなぁと考えていまして! 転職しようかと!」
「転職?」
「はい。医者をやめて侍女に!」

 わたくしを見てにっこりと微笑むクロエに、心がざわついた。

 だって、だってそれは……わたくしとともに、リンブルグへ行ってくれるということよね……?

 口を開く前に、お代わりが届いた。それを受け取って、胸元に手を置き、何度か深呼吸を繰り返す。

「……クロエは、わたくしのそばにいてくれるの……?」
「はい、カミラさま。そのつもりです。私をカミラさまの侍女にしてください。といっても、侍女らしいことなんて、一度もしたことがないんですけれどね」

 医者という職業を捨てて、わたくしの手を取ってくれるの……?

 視界がぼやけてきた。クロエはハンカチを取り出して、わたくしの目元を優しくぬぐう。ダメね、今日も泣いてしまうなんて……

 だけど、これは昨日のような涙じゃない。

 彼女がわたくしのことを思ってくれるのが嬉しくて出る涙だから……許してちょうだいね。

「それで、どうでしょうか。移住してきた者にも、リンブルグは優しいですか?」
「ああ。知っているかい? リンブルグはこの大陸の中で一番、移住者が多いんだよ」
「よく、暴動が起きませんね?」
「ならないように手は打ってあるからね」

 ということは、移住者にも国民にも優しい制度があるということ、よね。

 実際はどうなのかしら、リンブルグ……本当に興味深いわ。涙を拭いて、わたくしたちはレグルスさまとブレンさまへ視線を向けた。
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