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雑貨店。 2話
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「か……マーセルさま?」
「お二人は、ずっと前からのお知り合いなのですか?」
「幼馴染」
ちなみに、ブレンさまのほうが年上らしい。男性の年齢ってよくわからないわ。
「えっと、ではもしかしてブレンさまも貴族……?」
「あ、はい一応。伯爵家の出身です。とはいっても、僕は家を出ている身なので、あんまり関係ないんですけどねー」
さらっとすごいことを言っていない? わたくしとクロエがぽかんとしていると、レグルスさまが肩を震わせて笑う。
……というか、待って。陛下はなにを考えているの? 他国からの留学生であるレグルスさまと、護衛であるブレンさま。彼らを別々の学科に入れて……これは、リンブルクから苦情が来てもおかしくないことよ?
当の本人たちがなぜかあまり気にしていないのが……本当に謎なのだけど。
「……あの、良かったら、リンブルグのことを教えていただけませんか?」
「それじゃあ、カフェでも行きましょうか! 小腹も空きましたし!」
ちょっと待って、ブレンさま。まだ入るの!? わたくしたちがぎょっとしていると、レグルスさまが「ブレンの胃は底を知らないんだ」とおかしそうに教えてくれた。
クロエのブレンさまを見つめる瞳の輝きが増した。……興味深いのね。
「その前に、もう少しだけ雑貨を見てもいいかしら?」
「もちろんですよ、レディ」
他国の人にそう呼ばれるのは、なんだか気恥ずかしいわね。
とりあえず、雑貨店を見回っていると、一冊のノートが視界に入る。一冊手に取ってぱらりと捲ってみる。とてもシンプルなノート。シンプルだからこそ、飽きのこない作りなのかもしれない。
「それがお気に入り?」
「あっ……」
ひょいとわたくしが持っているノートを取って、レグルスさまはスタスタと歩いていってしまった。会計に向かっていることに気付き、彼を追いかけようとしたら、クロエとブレンさまに止められた。
「な、なんで止めるの?」
「言ったでしょう? 今日は『デート』なんですから」
「とことん甘えましょう。か……マーセルさまのことを心配していたんですよ、レグルスさま」
心配していたから奢られましょうって、どういうことなの? わたくしの瞳が揺れたのがわかったのか、クロエは眉を下げて微笑む。
会計を済ませて、きれいにラッピングされたノートをレグルスさまに差し出された。彼を見上げると、「せっかくだから使ってくれよ?」と柔らかくわたくしを見る。視線をクロエに移すと、彼女は小さくうなずいた。
「あ、ありがとうございます。大事に、使いますね」
両手でノートを受け取ると、レグルスさまは嬉しそうに首を縦に振る。
大切に使おう。群青色にキラキラと星のようなきらめきを散りばめた表紙のノート。
ぎゅっとノートを抱きしめるように胸元に寄せると、それを見ていた三人が微笑ましそうにわたくしを見ていた。
不思議ね、家族には感じなかったことを、この人たちから感じるなんて……
こんなに温かい気持ちになれるなんて、わたくしは幸せものだわ。
「お二人は、ずっと前からのお知り合いなのですか?」
「幼馴染」
ちなみに、ブレンさまのほうが年上らしい。男性の年齢ってよくわからないわ。
「えっと、ではもしかしてブレンさまも貴族……?」
「あ、はい一応。伯爵家の出身です。とはいっても、僕は家を出ている身なので、あんまり関係ないんですけどねー」
さらっとすごいことを言っていない? わたくしとクロエがぽかんとしていると、レグルスさまが肩を震わせて笑う。
……というか、待って。陛下はなにを考えているの? 他国からの留学生であるレグルスさまと、護衛であるブレンさま。彼らを別々の学科に入れて……これは、リンブルクから苦情が来てもおかしくないことよ?
当の本人たちがなぜかあまり気にしていないのが……本当に謎なのだけど。
「……あの、良かったら、リンブルグのことを教えていただけませんか?」
「それじゃあ、カフェでも行きましょうか! 小腹も空きましたし!」
ちょっと待って、ブレンさま。まだ入るの!? わたくしたちがぎょっとしていると、レグルスさまが「ブレンの胃は底を知らないんだ」とおかしそうに教えてくれた。
クロエのブレンさまを見つめる瞳の輝きが増した。……興味深いのね。
「その前に、もう少しだけ雑貨を見てもいいかしら?」
「もちろんですよ、レディ」
他国の人にそう呼ばれるのは、なんだか気恥ずかしいわね。
とりあえず、雑貨店を見回っていると、一冊のノートが視界に入る。一冊手に取ってぱらりと捲ってみる。とてもシンプルなノート。シンプルだからこそ、飽きのこない作りなのかもしれない。
「それがお気に入り?」
「あっ……」
ひょいとわたくしが持っているノートを取って、レグルスさまはスタスタと歩いていってしまった。会計に向かっていることに気付き、彼を追いかけようとしたら、クロエとブレンさまに止められた。
「な、なんで止めるの?」
「言ったでしょう? 今日は『デート』なんですから」
「とことん甘えましょう。か……マーセルさまのことを心配していたんですよ、レグルスさま」
心配していたから奢られましょうって、どういうことなの? わたくしの瞳が揺れたのがわかったのか、クロエは眉を下げて微笑む。
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「あ、ありがとうございます。大事に、使いますね」
両手でノートを受け取ると、レグルスさまは嬉しそうに首を縦に振る。
大切に使おう。群青色にキラキラと星のようなきらめきを散りばめた表紙のノート。
ぎゅっとノートを抱きしめるように胸元に寄せると、それを見ていた三人が微笑ましそうにわたくしを見ていた。
不思議ね、家族には感じなかったことを、この人たちから感じるなんて……
こんなに温かい気持ちになれるなんて、わたくしは幸せものだわ。
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