【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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雑貨店。 1話

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 気を取り直して、雑貨店に向かう。

 場所はブレンさまが案内してくれた。迷うことなく歩く姿を見て、彼は王都のお店に詳しいのね、と感心した。

 ブレンさまの言っていた『女性が好きそう』な通りの見た目だったから、これは……レグルスさまとブレンさまは居づらいのでは……? と心配して彼らを見る。

 彼らは「どうした?」や「入りましょー」とお店の入り口で微笑んでいた。……平気、なのね。

 わたくしたちが店内に入ると、店員の「いらっしゃいませー」という明るい声が聞こえてきた。

 中を見回ると、確かに女性が好みそうなガラス細工やビーズ、アクセサリーまで様々なものが置いてある。可愛いものからきれいなものまで、本当に様々。

 いつも公爵家に宝石が運ばれていたから、こうやってお店で見るのは初めてで、新鮮だわ。

「あら、きれいな花瓶」
「本当に。ふふ、レグルスさまの瞳と同じ色ですね」

 無意識に見ていた花瓶。こそっとクロエが耳元でささやく。思わず「えっ」と肩を跳ねさせると、彼女はくすくすと笑い声を上げた。

「俺がどうかした?」

「あ、い、いえっ、なんでもありません……!」

 ぷるぷると首を横に振ってなんとかそれだけ口にすると、微笑ましそうな視線を感じた。クロエとブレンさまだ。ブレンさまも気付いていたの……!?

 れ、レグルスさまは気付いていないわよね? 気付いていませんように。

「きみはどんなものが好きかい?」
「え?」
「好みのものを、知っておきたくて」

 好みのもの……?

 わたくしはその場で身体を硬直させてしまった。……自分の好みのものが、あったかしら?

 幼い頃から、着るものも部屋に置くのもすべてお母さまが決めていた。

 少しでも違う意見を伝えれば、何倍にもなった否定の言葉を浴びせられ、そのうちに自分の好みを考えることをやめてしまった。

 あまりにも否定されることに、疲れてしまったのよね。

「……申し訳ありません。わたくし……わかりません……」

 うつむいてそう言葉を紡げば、クロエがわたくしの肩を抱いた。

 レグルスさまは「それじゃあ」と声を出して、わざわざ屈んで視線を合わせて優しく微笑み、口を開く。

「ゆっくりと、好きなものを探していけばいい」

 耳心地の良い言葉が、鼓膜を揺らす。目をまたたかせると、レグルスさまは目元を細めてわたくしを見つめた。

 ……そう、そういう考え方も、できるのね。

 きゅっと自分の手を絡めて握り、こくりとうなずいた。

 自分の好みを探すことができるのが、うれしい。諦めていたことだから。

「ありがとうございます。好みのものを、探してみます」
「うん。好みのものが見つかったら教えてくれ。アクセサリーとか身につけるものだとなお嬉しい」

 アクセサリー? と首をかしげると、ブレンさまが補足をしてくれた。

「リンブルグでは求婚のときにアクセサリーをプレゼントするんです。好みに合わなかったら、残念な感じでしょう?」
「こら、ブレン。ネタバラシが早すぎる」

 ブレンさまに注意するレグルスさま。でも、ブレンさまはレグルスさまをからかうように笑っている。……このふたりの関係も謎よね。主君と護衛というよりは、気の置ける友人のように見えるから。

 その関係性に羨ましさを感じて、わたくしは小さく息を吐いた。
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