【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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昨日の話をマーセルにしたの。 1話

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 わたくしが話した内容に、マーセルは唖然あぜんとした表情を浮かべた。

 そして、ポロポロと涙を流す。

 公爵家の人たちが自分の本当の両親かもしれないと思えば、納得できる涙だわ。

 ぐすぐすと泣く姿を見て、わたくしは肩をすくめた。

「……そういえば、貴女あなた、魔法が使えなくなった原因を、お調べになりまして?」
「……いいえ。マティスさまが、きっとそのうち戻るだろうからって……」

 原因も調べていなかったのね。

 わたくしは思わず眉間をもみほぐすように親指と人差し指で摘んだ。

「……一ヶ月」
「え?」
「一ヶ月、あの家で耐えてちょうだい。そのあいだにわたくしが『マーセル』の評判を上げて、貴女とマティス殿下の婚約を認められるようにするわ。貴女は魔法が使えなくなった原因を探して。魔術師学科はそれこそ優秀な魔術師の先生がいるもの。貴女が力を貸してほしいと頼めば、先生も力を貸してくれるはずよ」

 完璧な公爵令嬢として過ごしてきたわたくしが、そのような振る舞いをすれば今までのような扱いは受けないはず。

 テキストもノートもきれいになったしね。

 マーセルはわたくしの言葉を聞いて、驚いたように目を大きく見開く。そして、決意を固めように表情を引き締めてうなずいた。

「私、カミラさまのようにきれいで優雅な人に、なりたかったんです」

 突然、そんなことを言われて目を丸くした。マーセルは膝を抱えるように身体を丸めて、「パーティーで数回、そのお姿を見ていました」と昔を懐かしむように言葉をこぼす。

 ……会ったこと、あったかしら?

 パーティーにはほぼ毎回参加していたけれど(マティスの婚約者として)、参加者全員の顔を覚えていたわけではないから……

「マティスさまと踊るカミラさまは、とてもきれいで……。ただ、マティスさまが笑っていないのが気になって……思えば、こんなにきれいな人が婚約者なのに、どうしてマティスさまは寂しそうなのかしらって……そんなことを、マティスさまに話しました」

「親同士が決めた婚約ですもの。……ああ、本来なら貴女がマティス殿下の婚約者なのよね」

 あの話が本当だとしたら、マティス殿下の隣に立つのはわたくしではなくマーセルだ。

 ゆっくりと息を吐いて、天井を見上げた。そんな理由でマティス殿下に近付いたのね。

 そして、彼はマーセルを選んだ。……これが惹かれ合うということなのかしら?

「マティス殿下はマーセルを選ぶでしょう。ただ、わたくしには貴女たちに対して、慰謝料を請求する権利があるわ」
「カミラさま……」
「当然、その覚悟があって、マティス殿下と付き合ったのでしょう?」

 天井を見つめていた瞳を、マーセルへ向ける。彼女は「あ……」とわかりやすく青ざめた。
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