【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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屋上で。 1話

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「……では、きみは誰なんだい? いや、待てよ……まさか、カミラ嬢?」
「正解。良くわかりましたね」
「魔術師学科の天才のことはよく聞こえてくるからね。その天才が調子を崩したと聞いて、おかしいとは思っていたんだ」

 魔術師学科の天才……天才、ねぇ。わたくしが実技も教科も一位を誰にもゆずらなかったから、そんなふうに言われるようになったのよね、きっと。

 ……わたくしがずっと一位を譲らなかったのは、家族に褒めてもらうためだった。

 褒めてもらったことなんて、一度もないけれど……

「魂がトレードされたってことかい?」
「恐らくは」
「……戻りたくないの?」
「戻る前に、やることがありますの」

 やることって? と聞かれたので、わたくしはマティス殿下との婚約を白紙にすること、マーセルがマティス殿下の婚約者になること、そのために彼女の評判を上げること。指折り数えて伝えるとレグルスさまは「ん……?」と複雑そうな顔をした。

「それって、きみの評判は落ちるだけなんじゃ?」
「構いませんわ。公爵家に戻ることも、考えていませんから」

 平民として生きていくのも、きっと公爵家の令嬢と生きていくよりは楽しいでしょう。わたくしがそう口にすると、彼は少し悩むように顎に手をかけて、それから真剣な表情でこちらを見つめる。

「では、南の国に興味はないかい?」
「え?」

 悪戯いたずらっぽく微笑むレグルスさま。その瞳はとても優しくて、首をかしげる。クロエは息をんで、「ま、まさか……」とつぶやいた。

「ぜひ、俺の妃になってほしい」

 ――わたくしは、思わずレグルスさまを凝視してしまった。彼はこちらをじっと見ている。

 ……どういうことなのかしら? と困惑した表情を浮かべると、レグルスさまは頬をかいた。

「カミラ嬢のことは、前から知っていた。きみが努力家なことも知っている。だが、きみはマティス殿下の婚約者だ。俺が声をかけても、困らせるだけだと思っていた。……しかし、もう状況が違う。俺はきみが元の身体に戻れるように協力する。マティス殿下と婚約を白紙にしたあとなら、我が国に連れ帰っても問題あるまい?」

 わたくしが、レグルスさまと……?

 それはつまり、わたくしがリンブルグ王国の国母になるということ? いえ、待って。ちょっと待ってちょうだい。彼がわたくしのことを、前から知っていた?

 確かに数年前、一度お会いしたことがある。だけど、それはほんの一瞬だったはずよ。

「ダメだろうか?」

 顔を覗き込まないでほしい。マーセルの顔だけど、絶対に赤くなっている。

 ――だって、彼はわたくしが努力していたことを認めてくれたのだ。思わず、扇子を取り出して広げ、顔を隠す。

 レグルスさまは目をまたたかせてから、ふっと微笑んだ。
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