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心配をかけてしまったみたい。 2話
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花壇の前でわたくしたちは別れた。クロエはきっと、マティス殿下にうまいことを言ってくれるでしょう。
――『わたくし』を心配してくれる人がいるって、なんだかすごく嬉しいわ。
心が温かくなるのを感じて、わたくしは小さく笑みを浮かべた。
次の授業は歴史だった。召使学科とはいえ、こういう教科は普通にあるのよね。主人以上に詳しくしないといけないときもある、ということかしら?
「それでは、千十二年、ホーマ地方であった内乱は何年続いたでしょうか?」
あら、今ここをやっているのね。懐かしいわ。
千十二年、ホーマ地方の内乱は五十年も続いた。その間に犠牲になった人は五百人。だけど、その五百人の中に、首謀者と貴族も入っている。
貴族が悪政を行い、耐えきれなくなった領民が起こした内乱だ。結局、その地は誰も住めないくらい枯れた土地になってしまった。
その首謀者の息子が初代陛下と言われているのよね。本当かどうかはわからないけれど……歴史はよく捻じ曲げられるから。
貴族は領地と領民を守る。平民は税金を支払うことで、飢饉とか災害のときに貴族に助けてもらう。もちろん、すべての貴族がそういうわけではないけれど……この国は貴族主義のところがあるから、平民は生きていくのが大変かもしれない。
……というか、どうして誰も答えないの? 知らないわけではないのでしょうけれど、先生が指名しないから?
「ええと、教科書に書いてありますよ? わかりますよね?」
「先生、指名していただかないと答えにくいですわ」
「あ、そうですね。では、マーセルさん、答えをどうぞ」
思わず先生に声をかけてしまった。歴史の先生は今年入ってきたばかりだから、こちらもフォローしないと。
わたくしが答えると、ざわっと一瞬騒がしくなった。それもそうでしょうね。マーセルのテキストは読めないほどに汚されているのだから……家庭教師に教えられていたから、答えることができた。
「はい、正解です。ホーマ地方は人の手が入らなくなり、住んでいた人たちはそれぞれ移住しました。現在ではホーマ地方は呪われているとか、魔物の生息地とか言われています」
人が生きることができない土地に、魔物は生息できるのかと問われると、謎は残るわよね。それにしても、本当にテキストが読めないわ。
これだけの嫌がらせを受けながらも、マーセルは戦う道を選んだ、ということ?
マティス殿下に庇ってもらえば、白い目で見られるでしょう。媚びている、とも言われるでしょう。それでも彼女は、マティス殿下の傍にいることを望んだ。
もしかして、マーセルは本当に……マティス殿下のことを好きになったの?
だからこそ、この嫌がらせを甘んじて受けていたのかしら?
――『わたくし』を心配してくれる人がいるって、なんだかすごく嬉しいわ。
心が温かくなるのを感じて、わたくしは小さく笑みを浮かべた。
次の授業は歴史だった。召使学科とはいえ、こういう教科は普通にあるのよね。主人以上に詳しくしないといけないときもある、ということかしら?
「それでは、千十二年、ホーマ地方であった内乱は何年続いたでしょうか?」
あら、今ここをやっているのね。懐かしいわ。
千十二年、ホーマ地方の内乱は五十年も続いた。その間に犠牲になった人は五百人。だけど、その五百人の中に、首謀者と貴族も入っている。
貴族が悪政を行い、耐えきれなくなった領民が起こした内乱だ。結局、その地は誰も住めないくらい枯れた土地になってしまった。
その首謀者の息子が初代陛下と言われているのよね。本当かどうかはわからないけれど……歴史はよく捻じ曲げられるから。
貴族は領地と領民を守る。平民は税金を支払うことで、飢饉とか災害のときに貴族に助けてもらう。もちろん、すべての貴族がそういうわけではないけれど……この国は貴族主義のところがあるから、平民は生きていくのが大変かもしれない。
……というか、どうして誰も答えないの? 知らないわけではないのでしょうけれど、先生が指名しないから?
「ええと、教科書に書いてありますよ? わかりますよね?」
「先生、指名していただかないと答えにくいですわ」
「あ、そうですね。では、マーセルさん、答えをどうぞ」
思わず先生に声をかけてしまった。歴史の先生は今年入ってきたばかりだから、こちらもフォローしないと。
わたくしが答えると、ざわっと一瞬騒がしくなった。それもそうでしょうね。マーセルのテキストは読めないほどに汚されているのだから……家庭教師に教えられていたから、答えることができた。
「はい、正解です。ホーマ地方は人の手が入らなくなり、住んでいた人たちはそれぞれ移住しました。現在ではホーマ地方は呪われているとか、魔物の生息地とか言われています」
人が生きることができない土地に、魔物は生息できるのかと問われると、謎は残るわよね。それにしても、本当にテキストが読めないわ。
これだけの嫌がらせを受けながらも、マーセルは戦う道を選んだ、ということ?
マティス殿下に庇ってもらえば、白い目で見られるでしょう。媚びている、とも言われるでしょう。それでも彼女は、マティス殿下の傍にいることを望んだ。
もしかして、マーセルは本当に……マティス殿下のことを好きになったの?
だからこそ、この嫌がらせを甘んじて受けていたのかしら?
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