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クロエに『マーセル』の様子を聞いたの。 2話

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「お母さまは……」
「……ええ」

 その一言だけですべてを悟ることができる。

 お母さまは『マーセル』を閉じ込めたみたいね。今日はきっと学園に登校できないでしょう。

 あの部屋に入ると、お母さまの機嫌が直るか、言われたことをすべて終わらせないと出られないから。

「『マーセル』が泣いていました。こんなの聞いていないって。あと、婚約を白紙にする話は却下されたそうです」
「でしょうね」

 生まれる前からの婚約だ。そう簡単にくつがえるものではないでしょう。

 でも、がんばりなさい、『マーセル』。貴女あなたの評判はわたくしが上げるから、マティス殿下とベネット公爵家から、わたくしを解放してちょうだい。

「それにしても、良く知っていたわね」
「……昨日、マティス殿下に言われて、ベネット邸まで行きましたから」
「そうだったの。……ねえ、クロエ。このトレードは、いつ終わるかしら?」
「それは、なんとも言えません……」

 そうよね。わたくしにだってわからない。とりあえず、マーセルの評判を上げるために、凛としたたたずまいで過ごしましょう。

「……カミラさま。カミラさまは、なにか……夢があるのでしょうか?」
「あら、いきなりどうしたの?」
「……いえ、考えてみれば、カミラさまのことを『マティス殿下の婚約者』であることしか知らないと気付きまして。こういうのもなんですが、知りたいんです。カミラさま自身のことを」
「ふふ、わたくしに興味を持ってくれたのは、クロエで二人目ね」

 一人目はレグルスさまだ。彼はわたくしに興味を持ったというよりは、この状況に興味を抱いたようだったけれど。

「クロエ、今日の放課後は時間があるかしら?」
「え、ええ。あります」
「なら、少し付き合ってくださらない?」

 クロエに放課後、レグルスさまと話すことを伝えると、彼女は神妙な面持ちでうなずいた。

 騎士学科でありながら、レグルスさまは魔術師として素質を持っているのだと思う。

 わたくしたちの国でいう『魔術師』とは、主に戦闘面でのこと。生活魔法は誰でも使えるしね。おそらく、『マーセル』以外。

 入れ替わっただけで、魔法が使えなくなるのって不思議よね。

「あ、そろそろ授業が始まりますね」
「そうね、ありがとう、クロエ。話し相手になってくれて」
「いいえ、カミラさま。それでは、放課後に」

 すっと頭を下げてから、クロエは歩いていった。

 わたくしも授業が始まる前に教室に向かう。鐘の音が、授業開始五分前を教えてくれた。

 今日の授業……ダンスレッスン。マティス殿下と踊ることになるのかしら。できれば、彼には他の人とも踊ってもらいたい。第一王子なのだし……『マーセル』だけを贔屓ひいきするのは良くないし、ね。

 ぼんやりと考えながらホールに足を踏み入れる。身体を動かすことは嫌いじゃないから、ダンスレッスンはちょっと楽しみでもあるのよ。
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