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入れ替わり!? 1話
しおりを挟む「きゃぁぁあああッ!」
「え? きゃあっ!」
とある日、そろそろ家に帰ろうと廊下を歩き、階段前に差しかかったところで、階段から人が降ってきた。
ごつん、と鈍い音を立てて額と額がぶつかり、二人とも倒れ込む。慌てて顔を上げて視界に入った人物に目を大きく見開き、息を呑んだ。
ストロベリーブロンドの柔らかな巻き髪。痛みに耐えて涙がにじんでいるすみれ色の瞳。メイドたちのスキンケアのおかげでつるつる、つやつやしている――鏡の中でいつも見ていた、自分の姿。
「大丈夫かい、マーセル!」
焦ったように駆け寄ってきたのは、『わたくし』の婚約者であるこの国の第一王子であるマティス殿下。明るい茶色のショートカットの髪に、エメラルドグリーンの瞳。眉を下げて心配そうにこちらを見ている。倒れ込んでいる『わたくし』――カミラ・リンディ・ベネットを一瞥した。
彼が心配しているのは『わたくし』ではなくて、この身体の持ち主――……
「ううん……」
「きみがマーセルを突き落としたのか!?」
「え? え? どうしたのですか、マティスさま……」
びっくりしたように目を丸くして、『わたくし』がマティス殿下を見た。……というか、この状況でどうして『わたくし』が彼女を突き落としたと思えるのか。本当、『マーセル』に惚れてから彼の頭のネジはどこかに飛んでいっちゃったみたいね。
「気色悪い声を出さないでくれないか。さあ、マーセル。こちらへおいで」
「は、はい」
「きみではない、カミラ。あまり私に近付かないでくれ。マーセルが傷つくだろう」
わたくしはいったい、なにを見ているのかしら? 小さく息を吐いて、戸惑いの表情を浮かべている彼女に近付いた。
「申し訳ありません、マティス殿下。わたくし、カミラさまにお話がありますの。二人きりで」
「しかし、それはあまりにも危険ではないか?」
彼にとって『わたくし』は危険人物なのね。愛されていないことは知っていたけれど、チクチクと胸が痛むわ。
「大丈夫です。ねえ、『カミラさま』?」
「え? ええ……」
彼女ははっとしたように顔を上げ、こちらをじっと見ている。そして、きゅっと唇を結んで神妙な表情でうなずいた。
「それでは、ごきげんよう」
すっとカーテシーをして、彼から離れる。他の学生たちも、わたくしたちのことを見ていた。その視線を振り切るように彼女の手を取って歩きだす。
そして、空いている教室に入り、扉を閉めて――目の前の『カミラ』を見つめた。
「貴女、マーセルね?」
「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを!?」
被害妄想もここまでくれば天晴ね。ふるふると震えて泣く姿を見て、わたくしが作り上げた『完璧な公爵令嬢』の像がガラガラと崩れていくことを予感し、長々とため息を吐く。
「がんばってマティスさまを手に入れたのに……!」
「貴女、がんばるところが違うのではなくて? ここは学園よ?」
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