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エピローグ

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 ――王妃イレインの処刑から、五年という月日が流れた。
 焼き払われた村は、徐々に元の村に……いや、それよりも発展した町へとなりつつあった。

 人口も増え、クレマン率いる旅芸人たち、娼館から出てここで暮らしたいと言い出した人たち、新しい場所に興味を抱き、わざわざここまで来た人たち……とどんどん増えて行った。

 そんな中、アナベルは以前住んでいた家を建て直し、そこで暮らしていた。ロクサーヌたちも一緒だ。

「五年か……王位の譲渡に結構時間かかったようだな」
「前代未聞だからねぇ」

 新聞を読んでいたクレマンが、ぽつりと呟くとアドリーヌが肩をすくめた。

「まだまだ若い陛下が、王位を譲る、なんてさぁ。……そういえば、王じゃなくなったらどうするんだろう?」
「さあ……?」

 アナベルの家に集まり、そんな話をしているとふと、外が騒がしくなっていることに気付いた。

 どうしたのだろうと外に出ると、豪華な馬車が見えた。アナベルは大きく目を見開く。記憶の中にある馬車と同じだったから。あの時は、中から幼いエルヴィスとイレインが出てきた。

 馬車の扉が開き、中から人が出てくる。五年間、一度も忘れたことはなかった人物を視界に入れて、アナベルは唇を震わせた。

 馬車から出てきた人物――エルヴィスが顔を上げて周りを見渡す。

 そして、アナベルに気付くと一瞬目をみはり、それから破顔した。

「ベル!」
「エルヴィス、陛下……」

 エルヴィスはアナベルに近付いた。アナベルは近付くエルヴィスを見て、これは夢じゃないのかと考えた。

「今はもう王ではない。ただの『エルヴィス』だ」

 エルヴィスはそう言うと、懐からブローチを取り出した。あの日、アナベルが置いて行ったブローチだ。

 そのブローチを、エルヴィスはアナベルに差し出す。

「――王位を降りた私では、ダメだろうか?」

 アナベルはふっと笑みを浮かべて、緩やかに首を振った。

「そんなわけ、ないでしょう……!」

 ブローチを受け取り、涙を浮かべながらアナベルが口にする。

 エルヴィスは、よかった、と呟いて彼女を抱きしめた。

「私もここで暮らしたいと思うのだが……」
「それは……よいのですか?」
「ああ。それに――きみに会いたいと、ここで暮らしたいという者たちも連れてきた」

 アナベルが「え?」と首を傾げると、宮殿で共に過ごしていた人たちが続々と現れた。皆、アナベルを選んだのだ。

「――人口が増えるなぁ」

 クレマンが楽しそうに微笑みながら言葉を呟く。

「本当に大丈夫なの? ここで暮らすなんて――……」
「ああ、ダヴィドからも『さっさと行け』と言われたしな」

 肩をすくめて笑うエルヴィスに、アナベルはふふっと笑い声を上げた。

「――まずは、アナベルのご家族に挨拶をしたいのだが」
「……こっちよ、ついて来て」

 村を復興する時に、焼け払われた人たちのための墓を作った。

 そこに案内すると、エルヴィスは驚いたように目を見開いた。

「――墓、なのか?」
「ええ。クレマンたちが手伝ってくれたの。人口の少ない村だったからね、すぐに終わったわ。……それに、なんとなく、命を感じるものがよかったの」

 アナベルは、墓石ではなく樹木を植えた。樹木は成長しいつか美しい花を咲かせるだろう。

「……そうか……」

 エルヴィスはその場にひざまずき、目を伏せて祈りを捧げた。

「――アナベル」

 静かに彼女の名を紡ぐエルヴィスに、アナベルは「エルヴィス?」と首を傾げる。

「私と共に、生きてくれるか?」
「――ええ、もちろん。あたしの心は、あの日からあなたのものよ」

 立ち上がり、真っ直ぐにアナベルに向かい合うエルヴィスに、アナベルは微笑みを浮かべてうなずいた。

☆☆☆

 それから、レアルテキ王国では様々なことがあった。

 魔物が近くに現れた時は、エルヴィスに出陣の要請が来たし、魔物に怯える人々を元気づけるために、アナベルは剣舞を披露した。

 昔住んでいた頃とは打って変わって、人口が増えた。村から町へ、そして街へと――……。

 クレマンたちの協力もあり、街は徐々に人々に知られ、移住する人たちも増えてきた。

「……寵姫ちょうきの制度を廃止するとは、思わなかったわぁ」
「ダヴィドは惚れたら一途らしい。正妻になった女性は大変そうだ」

 くつくつと喉を鳴らして笑うエルヴィスに、アナベルも微笑む。そして、そっとお腹を撫でた。

「あ、動いた」
「本当か?」

 嬉しそうに聞いて来るエルヴィスに、アナベルはうなずく。

 愛おしそうにアナベルのお腹を撫でて、エルヴィスは幸せそうに表情を綻ばせた。

「会える日が楽しみね」
「そうだな」

 レアルテキ王国の最後の寵姫となったアナベル。そして、自ら王位を降りたエルヴィスは、愛を積み重ねて、国が落ち着いたころに結婚をした。そして今、アナベルのお腹に、ひとつの命が宿っている。

 ふたりはその命と出会えることを、今、一番の楽しみにしていた。

 そっとアナベルの頬にキスをするエルヴィスに、アナベルはくすぐったそうに笑う。

 ――こんな穏やかな日々が、これかも続きますように――。

 アナベルはそう願い、エルヴィスの頬にキスをした。



―FIN―
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