上 下
120 / 122
5章:エピローグへの足音

エピローグへの足音 6-1

しおりを挟む

 そして、瞬く間にイレインの斬首刑の日になった。

 イレインは普段の格好ではなく、みすぼらしい格好になっていた。化粧もしていないため、誰だかわからないくらいになっていた。

 アナベルは、その顔を見てゾッとした。

 美しいと言われていたイレインの美貌は、たった三日でかなり劣化していたからだ。

(若い女性の血を、浴びなかったから……?)

 そう考えて、背筋に冷たいものが走る。アナベルは自分を抱きしめるようにぎゅっと二の腕を掴み、擦った。

「寒いのか?」
「あ、いえ……。彼女の美貌があまりにも……」
「ああ、一気に老け込んだな。たった三日で、このようなことになるとは……」

 どうやらエルヴィスも意外だったらしい。アナベルはエルヴィスに近付くと、エルヴィスはそっと自身のマントを彼女に羽織らせた。

「斬首刑だ。見なくても良いんだぞ」
「……いいえ、わたくしには見届ける義務があります」

 首を緩やかに横に振り、アナベルは真っ直ぐにエルヴィスを見据えた。この計画に参加した自分には、彼女の最期を見届ける義務があるのだと強いまなざしを向ける。

「……そうか。……では、刑を執行しよう」

 エルヴィスがすっと片手を上げる。

 イレインが断頭台へ連れていかれ、そこに姿を見せる。王妃が処刑されることを知った民衆は、その姿を一目見ようと集まっていた。

 そして、民衆たちは小さな悲鳴を上げる。

 噂に聞いていたイレインの美貌とは違い、この世のすべてを恨むようなその表情は、悪魔を連想させた。

「これより、刑を執行する」

 死刑執行人が静かに声を出す。

 イレインは黒服を着た人たちに体を押えられ、穴の中に頭を入れられた。イレインは自分を化け物のように見る民衆に表情を歪める。

「なにか言い残すことはあるか?」

 イレインはなにも言わなかった。なにも言わず、ただ目を伏せた。

 刑は、静かに執行された。彼女の首はねられ、ごろりとその首が落ちた。――アナベルは、しっかりとその姿を目に焼き付けた。

☆☆☆

 イレインが処刑され、残されたイレインに仕えていた者たちは選択肢を与えられた。このまま王宮で働くか、ここから去るか。

 皆、去ることを選んだ。

 イレインが住んでいた宮殿には、捕らえられていた少女たちがいた。全員孤児院にいた少女だったらしく、イレインの生贄として暮らしていたらしい。

「……これで終わった、のよね……」

 ぽつり、とアナベルが呟いた。

「……ああ。これから少し忙しくなるが……」
「ねえ、エルヴィス陛下。あたしはどうなるのかしら?」

 軽く首を傾げて問うと、エルヴィスはぽんと彼女の頭に手を置いて撫でた。

「心配しなくてもいい」

 エルヴィスが優しく言葉を発する。アナベルはエルヴィスを見上げて、小さく眉を下げた。

「……ねえ、エルヴィス陛下。あたしね――……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

処理中です...