【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

文字の大きさ
上 下
109 / 122
4章:寵姫 アナベル

寵姫 アナベル 17-2

しおりを挟む

☆☆☆

 ――舞踏会の準備は滞りなく進んだ。

 国の貴族たちを招待したエルヴィスは、隣にいるアナベルの肩に触れた。

「……どうしました?」
「……いや。……ついに明日だ」
「ええ。今からとても楽しみですわ」

 にこりと微笑むアナベルに、エルヴィスは小さく笑う。

 ――あの日、アナベルは魔法を使った。

 香りの魔法と幻想の魔法で彼女をあざむいた。

「全く、末恐ろしい魔法だ」
「うふふ、便利な魔法でしょう? ……明日、ロクサーヌたちも会場に入れますからね」
「わかっている。王妃イレインがどんな人物なのか、貴族たちに見せつけるとしよう」

 ロクサーヌ、イネス、カミーユの働きで、王妃の悪事の証拠は揃った。彼女たちはたくみに王妃イレインに近い貴族の男性たちを誘惑し、様々な証言を得た。

 そこから調べに調べて、イレインが今まで行っていたことを知り、顔をひそめていた。

「……まさか、貴族の男性を誘惑して、とは……」
「彼女たちの得意分野ですわ。……それにしても、本当に陛下の子ではなかったのですね」

 イレインが産んだ子どもに関しても、調べが上がっていた。

「ああ。まさか似たような男をたぶらかしていたとはな……。どうやら私は、とことんイレインにあなどられていたらしい」

 自分自身に呆れたように呟くエルヴィスに、アナベルは「……王妃イレインがおかしいだけでしょう」とバッサリ言い切った。

「……侯爵家の方とそういう行為をしていたとは、思いませんでしたね……。しかも、口封じされていましたし……。良く見つかりました」
「記録用のオーブを発明したものは、表彰ものだな……」

 記録用のオーブを発明した人物は、置物として置いて欲しいといろいろな場所にオーブを配ったらしい。大なり小なり、様々なオーブを。

 その結果、粗悪品で記録出来ないものも多くあったが、イレインや侯爵という自分よりも身分の高いものには質の良いオーブを渡したらしく、バッチリと証拠が残っていた。

「わたくしたちにとっては、ラッキーでしたけれど」
「記録用のオーブ、とは言っていなかったようだからな」

 日付まで記入されているオーブの映像。

 これを見たイレインの表情を思い浮かべて、アナベルは弧を描く。

「――ところで、舞踏会のテーマは本当に『リボン』で良かったんですの?」
「ああ。リボンは結ぶもの。そして……ほどけるものだからな」

 エルヴィスは自分の手を見つめた。そっと、アナベルが自分の手を重ねる。

「……明日だ、ベル」
「ええ、エルヴィス。最後まで、お供いたしますわ」

 そうしてふたりは見つめ合い、小さくうなずきあった。

 ――王妃イレインから、すべてを奪うときが来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...