【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

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4章:寵姫 アナベル

寵姫 アナベル 13-1

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「ええ、大々的にデビューさせちゃいましょう。それから、わたくしの護衛たちも」
「……では、張り切って準備をしないといけませんね」

 メイドの瞳の奥が燃えている。やる気を出しているのを見て、アナベルは首を傾げた。

「そんなに楽しみ?」
「ええ、そりゃあもう。カルメ伯爵夫人からお聞きしました。あの娼館からアナベル様に劣らない美女が来ると……! 燃えてきましたわ……!」

 やる気を出すメイドを見て、アナベルは「頼もしいですわ」と穏やかに笑う。

「それでは、仲間たちと相談してきます。おやすみなさいませ、アナベル様」
「おやすみなさい」

 ぺこりと頭を下げてから出ていくメイドを、軽く手を振りながら見送りアナベルはベッドへ横になった。

「……一体どういう子が来るのか、楽しみのような、不安のような……。まあ、やれることをやるだけ、よね」

 アナベルはそう呟くと目を閉じた。そして、気が付いたらそのまま眠っていた。

 深夜に、キィと静かな音を立てて扉が開く。

 足音を立てないようにゆっくりと近付いて来る人影。

「……さすがにもう寝ているか……」

 ぽつりと零れた声は、エルヴィスのものだった。

 そっと彼女の髪を撫でて、寝顔を見つめる。

「んぅ……?」

 薄く目を開けたアナベルは、自分の近くに誰かがいることに気付くと体を硬直させた。

(……だれ……?)

 優しく頭を撫でる手の感触に再び目を閉じる。

「ゆっくりおやすみ、ベル」

 甘くとろけるような声でエルヴィスが囁く。その声を聞いて、アナベルはハッとしたように目を開けた。

「……エルヴィス陛下……」
「……起こしてしまったか、すまない」

 アナベルはエルヴィスの姿を確認すると、ふわりと花が綻ぶように微笑んだ。

 そして、彼に向かい手を伸ばす。

 エルヴィスがアナベルの手を取ると、嬉しそうに目元を細めた。

「今日は、会えないかと思いましたわ……」

 眠いのだろう、アナベルの声はいつもよりも甘えたような声だった。

「寂しい思いをさせてしまったかい?」

 エルヴィスはそんなアナベルを愛おしそうに見て、微笑んだ。髪を撫でていた手が、彼女の頬に添えられる。

「ええ、とっても。……でも、わたくしわかっていますのよ、エルヴィス陛下はとてもお忙しい方だって。ですから、……無理は、なさないで……くださいね……」

 段々と小さくなる言葉。最後のほうはほとんど言葉になってはいなかった。目を閉じたアナベルに、エルヴィスはふっと目元を細める。

「……ありがとう、ベル」

 ちゅっ、とアナベルの額に唇を落して、エルヴィスはベッドに潜り込み彼女のことを抱きしめて、眠りについた。
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