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4章:寵姫 アナベル

寵姫 アナベル 11-2

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「いや、ただ単に八つ当たり……というかストレス発散? しているように見えました」

 人の体を鞭で打ってストレスを発散させる? とアナベルが眉間に皺を刻むと、それに気付いたパトリックは慌てたように手を振った。

「アナベル様が気になさることはありませんよ! あの男も自業自得です。我々に手を出そうとしたのですから」
「……そう、ですわよね。……ありがとう、パトリック卿」
「いえ……」
「とりあえず、わたくし、これから少し用がありますの。今日は宮殿の中で大人しくしていますわ」
「……そうですね、昨日の今日ですし……。なにかありましたら、すぐに知らせてください」

 パトリックがそう言ってアナベルに向かい頭を下げる。アナベルはこくりと小さくうなずき、自室へと向かった。

 ドレスに着替え、ロマーヌのところに足を運ぶ。もちろん、王妃イレインからの手紙を持って。

「――カルメ伯爵夫人、いらっしゃいますか?」

 扉をノックしてから声を掛けると、「どうぞ」と声が聞こえた。

「失礼します。ごきげんよう、カルメ伯爵夫人」

 扉を開けて中へ入り、音を立てないように扉を閉める。

 ロマーヌの元に行くと、カーテシーをして挨拶をし、真っ直ぐに彼女を見つめた。

「ごきげんよう、アナベル様。……その手にしているものは?」
「王妃イレインからの、挑戦状……でしょうか」

 くすり、と笑うアナベルに、ロマーヌは「……そうですか」と少し声のトーンを落とした。

「――王妃殿下の侍女……。どのような女性が来るのかわかりませんね……」

 手紙の内容をかいつまんで話すアナベル。内容を理解すると、ロマーヌは額に手を当て、やれやれとばかりに頭を振る。

「わたくし、その侍女を受け入れるつもりです」
「……その理由をたずねても?」
「その侍女はきっと、わたくしを狙うでしょう。ですが、わたくしには切り札がございます。わたくしの身はそう簡単に崩れたりしないということを王妃イレインに示すため」

 アナベルは真っ直ぐに、意志の強い瞳をロマーヌに向けている。ロマーヌはその瞳を見て、アナベルとミシェルの姿が重なった。

(姿かたちは違えども、ミシェルの意志はあなたが継いだのね……)

「……それに、その侍女を保護したいのです。王妃側にいるよりも、こちらに付いたほうが安全だと、知って欲しい。……わたくしの身を崩せなければ、王妃イレインは……」

 ――その侍女を亡き者にするだろう。

 言外にそう語るアナベルに、ロマーヌは目元を細めた。

「……心底王妃側の女性かもしれませんよ」
「……構いませんわ。その時は、わたくしの魅力で落とすまで」

 胸元に手を当てて、自信満々に言い切るアナベルに、ロマーヌは目を丸くして、それから思わずというように微笑んだ。
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