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4章:寵姫 アナベル
寵姫 アナベル 11-1
しおりを挟むアナベルの考えた、最悪の事態。
それは、自分が王妃イレインに捕まり、宮殿の執事やメイドたちが危険にさらされること。
イレインは寵姫には手を出すが、宮殿の執事やメイドには手を出さない。寵姫以外の宮殿のものに手を出せば、すぐに調査が始まるだろう。
そして、アナベルがイレインの手に落ちれば、協力者の名を告げろと言われる可能性が高い。
(この人たちの家族を巻き込みたくない……)
そんな最悪のことを考えて、アナベルは目を伏せる。
「私たちのことを考えてくれるのはありがたいですが、アナベル様が一番ですよ?」
「――うん、ありがとう。さあ、この鬱々とした気分を変えるためにも! 剣の稽古に向かうわ!」
演習場に向かう前の廊下で話していたから、アナベルは窓の外に視線を向ける。眩しい太陽がさんさんと光を降り注いでいた。
アナベルはスタスタと早歩きで演習場となっている場所まで向かう。
パトリックの姿が見えた。
「ごきげんよう、パトリック卿。昨日はありがとうございました」
「アナベル様。……その、大丈夫……ですか……?」
「……ご心配、ありがとうございます。大丈夫ですわ」
アナベルの表情をじっと見つめて、パトリックは息を吐いた。
「それなら、よかった。では、今日も始めましょうか」
「はい、お願いします」
丁寧に一礼して、剣の稽古を始める。
やはりパトリックは強かった。勝てるようになるかはわからないが、彼の教え方はアナベルにとってとてもありがたいものだった。
「……本当は、アナベル様に戦って欲しくはありません。しかし、昨日のことで考えが少し変わりました。……やはり、王妃殿下は恐ろしい人です」
「あの後、なにかありまして?」
剣の稽古を終えたアナベルは、タオルで汗を拭いながらパトリックに問う。
パトリックは少し考えるように唸ったが、「まあ、すぐに耳に入るでしょうし……」と頬を掻いた。
「――あの男、あれから正気を取り戻して、再び尋問を行ったんですよ、王妃イレインも参加して」
「……え?」
王妃であるイレインが、尋問に参加したことに驚いて目を丸くするアナベル。
「……一体どんな尋問を……?」
「王妃殿下は、あの男の背中を鞭で打ってましたよ」
「む、鞭で?」
こくりとうなずくパトリックに、アナベルは動きを止めて、昨日の男を思い出す。
「背中から血が出ても、誰も王妃殿下の鞭を取り上げませんでした……。というか、取り上げたら、次の犠牲者は自分だなって気付いているんだと思います」
「……お、恐ろしい人ね……」
「結局王妃殿下の気が済むまでやってましたからね……」
遠い目をするパトリックに、アナベルは眉を下げて微笑んだ。
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