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4章:寵姫 アナベル
寵姫 アナベル 10-2
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ゆっくりとお風呂に入り、メイドたちの手によって頭からつま先までピカピカにしてもらい、剣の稽古のために動きやすい服を着た。
演習場となっている場所へ向かうと、別のメイドが慌てたように手紙を持って来た。
「お、王妃殿下からです……!」
「……わたくしに? 陛下ではなくて?」
こくこくと何度もうなずくメイドから手紙を受け取る。そして、アナベルは目を大きく見開いた。
「……宣戦布告、かしらね?」
手紙に書かれていた内容は、アナベルが踊り子であったことをやんわりと批判した内容だ。それと、『ここでのしきたりを知らないでしょうから、私の侍女をひとり、差しあげますわ』と書かれていた。
「……わかりやすく、罠ですよね……?」
メイドたちに内容を伝えると、呆れたような顔をしていた。そして、ほんのりと不安そうにしているのを見て、アナベルは必死に思考を巡らせる。
「……受け入れましょう。その人を」
「ええっ!?」
「ほ、本気ですか……?」
大袈裟なほうに目を見開いて声を上げるメイド、怯えたように震えるメイド、様々な反応を示した。
「だぁって、敵側がやって来てくれるのよ? これはある意味、チャンスではないかしら?」
「あ、アナベル様……」
困惑しているようなメイドたちに、アナベルはふふっと笑う。
「剣の稽古が終わったら、王妃殿下に手紙を書くわ。ああ、手紙の書き方も見てもらわないと。カルメ伯爵夫人に」
アナベルは目を輝かせた。
カルメ伯爵夫人はアナベルの教育係として宮殿に来てくれている。
もちろん、アナベルたちに協力していることで危険にさらされるかもしれない。それに対しては、ダヴィドが対処している。
「わたくしの文字で大丈夫かしら……」
と、不安そうに頬に手を添えて呟いていたが、アナベルはどうやって王妃イレインが『差しあげる』と言った侍女がどんな人なのか考える。
「……本当に受け入れるつもりですか……?」
「ええ。せっかく王妃サマが『あげる』って書いていてくれているし、もらった人をどう扱うかは、わたくし次第でしょう?」
にこにこと笑うアナベルに、メイドたちは顔を見合わせて首を傾げる。
一体、アナベルは王妃イレインから贈られた侍女を、どう扱うつもりなのか、と――……。
「本来なら、あなたたちの名前も知らないといけないのに、わたくしのワガママで呼べなくてごめんなさいね」
――宮殿にはたくさんの執事やメイドがいた。
彼らは自己紹介をしようとしたが、アナベルがそれを断った。
万が一を考えたからだ。
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