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4章:寵姫 アナベル

寵姫 アナベル 9-2

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 エルヴィスに自室まで運ばれると、そっとベッドの上におろされた。

「あ、ありがとうございます……」
「いや、無理をさせてすまない」

 アナベルの隣に座り、そっと彼女の手に自分の手を重ねた。

「……あの人は、どうなりますか?」
「……とりあえず、城の牢屋に入れる。イレインがどんな反応を見せるかを、この目で確かめよう」

 アナベルは不安そうにエルヴィスを見た。エルヴィスがぎゅっとアナベルの手を握ると、彼女は小さくうなずいた。

「……この国ではない人たちが、どうやって王妃サマと出会ったのでしょうか?」
「それは……なんとも言えないな。王妃側の連中が手を回したのかもしれない。……任務に失敗して自らの命を絶つ連中だ。本当に、無事でよかった……」

 アナベルの肩にもたれかかるように、エルヴィスが体を密着させる。
 エルヴィスの声が少し掠れていた気がして、アナベルの胸はずきりと痛んだ。

「……やっぱり、強くならなくちゃ……」

 小声で呟くアナベル。決意を固くした彼女の瞳は、爛々らんらんと輝いていた。

 アナベルの言葉はエルヴィスの耳にも届いていたが、彼は何も言わずにただ目を閉じていた。

 静かな時間が流れる。互いの体温を分け合うように寄り添うふたりに、ノックの音が響いた。

「はい」
「アナベル様、こちらにエルヴィス陛下はいらっしゃいますか?」

 エルヴィスに視線を向けると、彼は名残惜しそうにアナベルから離れた。

「どうした?」

 エルヴィスの声を聞いて、扉の向こうにいるメイドが、「いらっしゃったんですね」とどこか安堵したような声を出した。

 アナベルとエルヴィスは顔を見合わせて、首を傾げる。

「どうぞ、入って?」

 アナベルが入室をうながすと、メイドが扉を開けた。そして、なにかを手にしている。

(カード?)

 彼女が手にしているものをエルヴィスへと渡す。エルヴィスはカードを受け取り、誰からかを確認した。

「……イレイン……」
「えっ」

 カードの内容を見て、エルヴィスはくしゃりとカードを握りつぶした。

「な、なにが書かれていましたか?」
「……君は知らないほうが良い」

 そう言ってカードをポケットにしまったエルヴィスに、アナベルは頭の上に疑問符を浮かべた。

(王妃サマがわざわざ、エルヴィスに伝えるようなこと……?)

 なんだろう、と考えてみたが、思いつかなかった。

 メイドは不機嫌そうなエルヴィスを見て、慌てて一礼をしてから「それでは、失礼いたします」と足早に去った。

「怖がられていますよ、エルヴィス」
「今に始まったことではない。……が、そうだな、君に慰めてもらうとするか」
「ふふ、わたくしで良ければ、喜んで」

 ――どちらかと言えば、アナベルのほうが慰めてもらった。

 エルヴィスとともに夜を過ごすことで、恐怖心は薄らいでいき、熟睡することが出来たからだ。
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