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4章:寵姫 アナベル
寵姫 アナベル 3-2
しおりを挟む「――わたくしは、すべての人にその力を得て欲しいと、考えております」
真剣な眼差しで、ミレー夫人を見つめるアナベルに、ミレー夫人は息を飲んだ。
「それが、貴女の『寵姫としての在り方』ですか?」
こくり、とアナベルがうなずく。
「エルヴィス陛下には絶対的な味方がひとりでも多く必要です。わたくしは、彼の宿り木になりたい。わたくしの元で、少しでも安らいでもらいたい。……それは、寵姫ではなく、わたくし個人の考えでもあるのですが……」
彼に抱かれて、自分の想いをハッキリと理解した。
彼の苦悩を少しでも分け与えて欲しい、と。
エルヴィスを取り巻く環境はあまりにも寂しく、厳しく、自分の腕の中で彼を温めてあげたい。
これを、愛と呼ばすになんというのか。
アナベルは笑う。儚く、美しく、彼を焦がれるように。
その笑みを見て、ミレー夫人はアナベルがエルヴィスのことを心から愛しているのだと悟った。
そして彼女もまた、エルヴィスに愛されているのだと。
「……エルヴィス陛下は、本当に愛する人を見つけたのですね……」
しっとりとした口調で、それでも嬉しそうに微笑むミレー夫人に、アナベルは首を傾げた。
「では、アナベル様。貴女は孤児院で、なにをどう教えるつもりなのですか?」
「……まずは文字の読み書きを。それをマスターしたら、魔法の使い方、と徐々にレベルアップをしていきたいのです。子どもたちの考え方は柔軟でしょう? 興味のあることに関しての飲み込みは、きっと早いと思います」
「……誰が、それをするのですか?」
「お許しいただけるのならば、わたくしが直接。魔法の使い方に関しては、わたくしよりも適任者がいるでしょうけれど……見つかるまでは」
アナベルの提案に、ミレー夫人は驚いた。そして、悩むように視線を落とす。ふと、アナベルの手元に視線を向けると、彼女の手が緊張から震えていることがわかった。
(――どうしてそこまでするのかしら?)
視線を彼女の手から顔へと移動させる。意志の強そうな瞳を向けていた。
「……なぜ、貴女がそこまでするのですか?」
「……孤児たちの未来を、守りたいから」
旅芸人の一座で旅をしていた頃、いろいろな人が一座に入り、抜けていった。中にはアナベルと同じように孤児だった人も居た。
その人は、読み書きもろくに出来ずに、かなり低い値段で娼館に売り飛ばされそうになったところを、クレマンが助けて一座に加えた。
彼女はそれから読み書きを学び、踊り子たちをサポートする衣装係として働いていたが、その裁縫の腕が目を引き、とある町の裁縫店にスカウトされた。
クレマンは『自分の人生なんだから、自分で選べ』と彼女に優しい口調で言った。
結果、彼女は裁縫店で働くことを決めた。地に足のついた生活を、してみたかったという。きっと今日も元気に働いているだろう。
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