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4章:寵姫 アナベル
寵姫 アナベル 1-2
しおりを挟むパトリックに指摘されたことを意識すると、余計に肩に力が入った。
カァン! と乾いた音が響いて、アナベルは剣を落した。
「……今日も動かせなかったわ……!」
悔しそうに拳を握るアナベルに、パトリックが眉を下げる。
「これでもかなり手加減してますからね。アナベルさんが『戦うための剣』に慣れるまで、動きはありませんよ」
「……どういうこと?」
アナベルが剣を拾ってからパトリックに向かい尋(たず)ねた。
「アナベルさんの戦い方は、戦うためではなく、自らを輝かせるための動きですから……。自分の魅力を最大限に活かしているというか……」
しどろもどろになりながらも、答えをくれた。
(……剣舞の癖が出ているってことかしら?)
「あ、それとアナベル様。敬語が抜けたので、カルメ伯爵夫人の宿題倍増です」
メイドからの言葉に、アナベルはその場で座り込んでがっくりと肩を落とした。
カルメ伯爵夫人は、アナベルを徹底的に『貴族の令嬢』、そしてエルヴィスに似合う『寵姫』としての勉強をさせていた。
剣術を習いたいというのはアナベルの強い願いで、それをカルメ伯爵夫人はあまり良く思わなかったが、すぐに考えを改めた。
元々アナベルは踊り子だ。
それも、剣舞で人々を魅了する踊り子だったのだ。
もしかしたら、何かの役に立つかもしれない。そう考えたカルメ伯爵夫人は、アナベルに剣術の稽古の時は怪我に気をつけるように、と口酸っぱく言い聞かせていた。
紹介の儀も終わり、本格的に稽古が始まった。
紹介の儀が終わるまでは慌ただしく生活していたから、中々剣を握る機会がなく触れたとしても素振りくらいしか出来ず、上達の道は遠いとばかりに考えていたことを思い出して、アナベルは小さく笑う。
「……? どうしました?」
「いいえ。ただ、この恵まれた環境に感謝しているだけですわ」
とはいえ、アナベルは現在、たったひとりのエルヴィスの『寵姫』。
アナベル宛ての招待状がわんさかと届いていた。
それはお茶会だったり、夜会だったりと様々なものだ。
メイドたちが仕分け、どのお茶会や夜会に参加するかを検討していた。
貴族のことに疎いアナベルのために、メイドたちががんばってくれている。
「……お茶会か夜会、どちらに参加したほうが良いのかしら……?」
「日にちがずれているでしょうから、どちらも参加したほうがいろいろ見えると思いますよ。どっちが王妃派で、どっちが陛下派か」
「……そんなもの?」
こくりとうなずくパトリックに、アナベルは「うーん」と首を捻った。
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