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3章:紹介の儀
紹介の儀 その後 5-1
しおりを挟むそしてその日の夜、エルヴィスがアナベルの元へと帰って来た。
「お帰りなさい、エルヴィス陛下」
「ただいま。体は大丈夫か?」
「はい、ゆっくり休んだら良くなりました」
頬に手を添え、顔を赤らめるアナベルに「そうか」と微笑み、服を脱ぎ始めるエルヴィスに、アナベルはぱっと視線を逸らした。
背中を向けている彼が笑う気配がしたが、アナベルはハッとしたように彼の背中にある傷に気付いた。
エルヴィスに近付くアナベルに、彼は「どうした?」と声を掛ける。
「……エルヴィス陛下、この傷痕は……」
背中に残る傷痕に、エルヴィスが「ああ」とどこか腑に落ちたように声を出す。
「魔物討伐の時に、部下を庇って出来た傷だ。治癒魔法も掛けなかったから残ったのだろう」
「……どうして」
「治癒魔法師がいなかったから……だな。さすがにポーションだけでは治りきらなかった」
アナベルは唇をかみしめる。
――治癒魔法師もいなく、回復薬であるポーションだけを持って戦っているエルヴィスの姿を想像して涙が込み上げてきた。
(どんなにつらい戦いだったろう)
なぜエルヴィスがそんな目に遭わなくてはいけなかったのか、と。だが、彼らが魔物を討伐してくれたおかげで、各地を巡る旅は順調だったのだ、とも考えて複雑な心境になったアナベル。
そんな彼女の心境を知ってか知らずか、エルヴィスは懐かしむように目元を細めた。
「懐かしいな、この傷はまだ十五歳くらいの時だったか……」
エルヴィスの言葉に、アナベルが顔を上げる。十五歳といえば、まだまだ子どもの時ではないか、と。
「氷の魔法を覚醒して間もなくだったからな、力がうまく制御できずにいた。だが、魔物を討伐していくうちに大分慣れてきたんだ」
ばさり、とエルヴィスが服を脱ぎ捨て、代わりに寝間着を着た。
くるりとアナベルへ向かい合い、そっと彼女の頬へ手を添える。
「ああ、そんなに瞳を潤ませて。そんなに私は可哀想に見えるか?」
アナベルはじっとエルヴィスを見つめて、緩やかに首を横に振った。
「ちがう、違うの……」
アナベルの口から滑り落ちたのはそんな言葉だった。
「あたし、エルヴィス陛下が魔物を討伐している時に何も出来なかった。そのことがやっぱり悔しいの……」
当たり前のように魔物を討伐していたエルヴィス。自分たちはその恩恵を受けながらも、彼に何も返せていない。そのことが、アナベルは悔しかった。
そしてそれは、エルヴィスにとってとても意外な言葉で、その意味を理解すると破顔した。
アナベルの腕を引っ張り自分の腕の中に閉じ込めると、アナベルは驚いたように「エルヴィス陛下!?」と声を上げる。
「愛おしい、というのはこういう時に使うのだろうな……」
ぽつりと零れた言葉を耳にして、アナベルは顔を一気に真っ赤にさせた。それを隠すようにエルヴィスの胸元に額をつけるが、耳まで真っ赤になっているので隠れてはいなかった。
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