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3章:紹介の儀
紹介の儀 5-2
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――そんな彼が、変わった。
コラリーは少し切なそうに目元を細め、ぎゅっと扇子を握りしめた。
(エルヴィス陛下がもっと早く彼女と再会していれば、あの子は助かったのかしら……?)
そう考えて、その考えを振り払うように頭を横に振る。
ただ、コラリーは願う。――アナベルが、今までの寵姫たちと同じような目に遭わないことを――……。
「……コラリー様? どうかなさいましたか?」
「……いいえ、アナベル様。なんでもありませんわ」
儚く微笑むコラリーに、アナベルは近付いていき、彼女の手を取るとくるりとエルヴィスに顔を向けた。
エルヴィスは小さくうなずく。
「――さて、今宵ももう良い時間だ。紹介の儀に参加してくれた全員に感謝の意を伝えよう。ベル、行くぞ」
「はい、エルヴィス陛下。……コラリー様」
こそりとアナベルが耳打ちをする。
その言葉を聞いて、コラリーは目を大きく目を見開いた。驚愕の表情をアナベルに向けると、アナベルはにっこりと笑い、コラリーから手を離してカーテシーをする。
「本日はわたくしのためにお時間をいただき、誠にありがとうございました。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします」
柔らかな口調、優しい微笑み――しかし、アナベルの目だけは爛々と輝いていた。
そして、エルヴィスがアナベルに手を差し伸べる。その手を取って、アナベルは歩き出す。
アナベルとエルヴィスが会場から出ていくと、その姿を見送っていた貴族たちが一斉に息を吐いた。
「――平民でもあれだけ美しい女性がいるものなのだな……」
「それに、完璧なカーテシーでしたわ。さすがカルメ伯爵夫人が教えただけあります……」
「エルヴィス陛下は、本当に彼女のことを愛しているのだな。ひしひしと感じたよ」
「――王妃殿下と一緒に居る時とは、全然態度が違いましたわね……」
「――彼女が陛下を変えたのだろうか……」
そんな会話をしている貴族たち。アナベルにつくか、イレインにつくかを考えているのだろう。ダヴィドはそんな貴族たちを見て、内心で細く笑う。
――上出来だ、と――……。
アナベルとエルヴィスは馬車に乗り込み、アナベルが住んでいる宮殿へと向かう。
馬車が動き出して、アナベルはようやく終わったばかりに深く息を吐く。
「――疲れたか?」
「そりゃあねぇ。あんなに猫を被ったことなんてないってくらい、猫被ったよ……」
アナベルの言葉に、エルヴィスがクスリと笑う。
「ご苦労だった。カルメ伯爵夫人のおかげで、どこからどう見ても『令嬢』だったよ」
「それはどうも。もうあんだけ猫を被るのは無理だよ……」
心底疲れたのか、アナベルがぐったりとした様子で肩をすくめた。
コラリーは少し切なそうに目元を細め、ぎゅっと扇子を握りしめた。
(エルヴィス陛下がもっと早く彼女と再会していれば、あの子は助かったのかしら……?)
そう考えて、その考えを振り払うように頭を横に振る。
ただ、コラリーは願う。――アナベルが、今までの寵姫たちと同じような目に遭わないことを――……。
「……コラリー様? どうかなさいましたか?」
「……いいえ、アナベル様。なんでもありませんわ」
儚く微笑むコラリーに、アナベルは近付いていき、彼女の手を取るとくるりとエルヴィスに顔を向けた。
エルヴィスは小さくうなずく。
「――さて、今宵ももう良い時間だ。紹介の儀に参加してくれた全員に感謝の意を伝えよう。ベル、行くぞ」
「はい、エルヴィス陛下。……コラリー様」
こそりとアナベルが耳打ちをする。
その言葉を聞いて、コラリーは目を大きく目を見開いた。驚愕の表情をアナベルに向けると、アナベルはにっこりと笑い、コラリーから手を離してカーテシーをする。
「本日はわたくしのためにお時間をいただき、誠にありがとうございました。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします」
柔らかな口調、優しい微笑み――しかし、アナベルの目だけは爛々と輝いていた。
そして、エルヴィスがアナベルに手を差し伸べる。その手を取って、アナベルは歩き出す。
アナベルとエルヴィスが会場から出ていくと、その姿を見送っていた貴族たちが一斉に息を吐いた。
「――平民でもあれだけ美しい女性がいるものなのだな……」
「それに、完璧なカーテシーでしたわ。さすがカルメ伯爵夫人が教えただけあります……」
「エルヴィス陛下は、本当に彼女のことを愛しているのだな。ひしひしと感じたよ」
「――王妃殿下と一緒に居る時とは、全然態度が違いましたわね……」
「――彼女が陛下を変えたのだろうか……」
そんな会話をしている貴族たち。アナベルにつくか、イレインにつくかを考えているのだろう。ダヴィドはそんな貴族たちを見て、内心で細く笑う。
――上出来だ、と――……。
アナベルとエルヴィスは馬車に乗り込み、アナベルが住んでいる宮殿へと向かう。
馬車が動き出して、アナベルはようやく終わったばかりに深く息を吐く。
「――疲れたか?」
「そりゃあねぇ。あんなに猫を被ったことなんてないってくらい、猫被ったよ……」
アナベルの言葉に、エルヴィスがクスリと笑う。
「ご苦労だった。カルメ伯爵夫人のおかげで、どこからどう見ても『令嬢』だったよ」
「それはどうも。もうあんだけ猫を被るのは無理だよ……」
心底疲れたのか、アナベルがぐったりとした様子で肩をすくめた。
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