64 / 122
3章:紹介の儀
紹介の儀 5-1
しおりを挟むエルヴィスがアナベルの手首を掴む。
顔を上げると、エルヴィスが愛しそうにアナベルへ視線を向けていた。
ドキリ、と自分の胸が高鳴ったことにアナベルは眉を下げる。
「どうしました? エルヴィス陛下」
「――舞踏会を開くのならば、君のドレスも新調しないといけないな」
「あら、エルヴィス陛下のお召し物も必要になりますわよ? そうだ、せっかくですし、お揃いの色にしませんか?」
キラキラと目を輝かせ、声を弾ませるアナベルに、周囲の人たちはどよめいた。――揃いの色を身に付ける――それが許されるのは、王妃だけのはずだった。
「ああ、ベルが望むようにしよう」
エルヴィスのその発言に、周囲はさらに戸惑う。
「楽しみですわぁ」
きゃっきゃとはしゃぐアナベルに、そういえば、とばかりにコラリーが声を掛けた。
「……あの、アナベル様はアンリオ、と名乗っていましたよね。アンリオ侯爵家と養子縁組をなさったと……。寵姫は普通、夫人がなるものでしょう? どなたかと婚姻を……?」
アナベルはその質問を待っていた。
そして、薄く微笑みを浮かべると、ゆるりと頭を横に振る。
「――いいえ、わたくしは誰とも婚姻を結んでおりません」
会場内が一気にざわめく。
「では、どうやって寵姫に……?」
訝しむように眉間に皺を寄せた女性が尋ねてきた。
その問いに答えたのはエルヴィスだった。
「――私が強引に寵姫の在り方を変えたのだ」
ざわめきは一層激しくなる。
「ど、どういうことですか、エルヴィス陛下」
困惑したような表情を浮かべて尋ねる男性。
エルヴィスはその人に向かって、不敵に微笑む。
「ベルを結婚させてから……なんてもったいないからな。私は彼女のすべてを手に入れたかった。だから、少し……わがままを強行しただけさ」
――レアルテキ王国初の、未婚の寵姫。
一瞬たりとも他の男のものになるのを許さないという、エルヴィスの独占欲。
――ああ、彼は本当に彼女を愛しているのだ――……。
エルヴィスが寵姫に対してこのような扱いをしたことなど、一度もなかった。帰るべき家を失ったものたちを保護しているような関係だった。
宮殿では寵姫たちは争うこともなく静かに暮らしていた。エルヴィスが自分に興味がないと知っていたから。
住める場所を用意してくれた。食べるものを与えてくれた。温かなベッドで眠らせてくれた。――寵姫たちはそれだけで、充分だと笑っていた。
コラリーはふと、友人のことを思い出した。……一度、友人が寵姫になった時にお茶会に誘い、宮殿の様子を尋ねると話してくれたことがあった。
『エルヴィス陛下は寂しい方なの。誰も愛したことのないお方。私たちへ優しくして下さるけれど、愛されることを望んでいない。どうやって恩を返せば、わからないの……』
魔物討伐に何度も向かう彼は、宮殿へも足を運ぶことが少なかった、と。
1
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる