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3章:紹介の儀
紹介の儀 2-1
しおりを挟むそれを見て面白くないのはもちろんイレインだ。それでも、彼女は本心を探られないように微笑みを浮かべる。
ずっと彼の傍にいたというのに、アナベルに向けられるような愛情深いまなざしを受けたことなど、一度もない。むしろ、忌み嫌うように冷たい視線ばかりを受けていた。
「――陛下は魔物の討伐で王城を留守にしてばかりですから、支えてあげないといけませんわ」
イレインはちらりとエルヴィスに視線を向ける。
エルヴィスが氷の魔法を使いこなせるようになって以来、王城で政務をするのはエルヴィスの選んだ側近が主だ。
「はい、王妃殿下。お任せください。エルヴィス陛下のことを、心身ともに支えますわ」
そっと、アナベルは片手をエルヴィスの胸元に置く。
エルヴィスはくすぐったそうに笑った。
「……驚きましたわ、陛下。そんな顔をして笑うのですね」
自分へ向けられることのない笑みを見て、イレインが息を吐く。
「――良い女性だろう?」
そんなイレインを見て、エルヴィスは冷めたまなざしを向ける。「っ」とイレインが息を飲む音が聞こえた。
この場にいる貴族たちは驚いたように目を見開いた。
――エルヴィスとイレインの仲がそんなに良くない、とは耳にしたことがあるが、これほどとは――……と。
「……陛下、そんなに冷たい目を向けては、王妃殿下が哀れですわ」
睨み合うようなふたり。しんと静まり返った会場に、アナベルの言葉が響いた。それも、かなり同情しているような声で言うものだから、イレインはギッとアナベルを睨んだ。
(――あたしを憎みなさい、王妃イレイン!)
そう思いながらも、アナベルは口元に手を添えて眉を下げた。
「――申し訳ございません、王妃殿下。エルヴィス陛下は、先日までの魔物討伐で気が昂っているようですわ……」
「……そうだな。魔物討伐もそうだが、以前宮殿に住んでいた寵姫たちが亡き者になったことで、少し参っているのかもしれない。――ベル、君も同じようになるのではないかと思うと、私は本当に怖いのだよ……」
エルヴィスはガラス細工に触れるように優しく、アナベルの頬へ手を添える。
アナベルはエルヴィスを見上げて、ふわり、と微笑んだ。
「大丈夫ですわ、陛下。わたくし、悪運には自信がありますの」
自信満々にそういうアナベルに、周りの貴族たちは「悪運?」と首を傾げた。
「実はわたくし……五歳の頃に貴族に売られましたの。ですが、その貴族の元に行く馬車が魔物に襲われて……。崖から落ちたのですが、この通り命が助かりましたの。……ですが、村は……」
うるっと目に涙を浮かべて悲しそうに俯くアナベルに、イレインは十五年前のことを思い出した。
(――あの時の小娘か!)
エルヴィスと共に視察で行った村で、目を引いた少女。
イレインはそのことに気付き、ぐっと拳を握った。
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