53 / 122
2章:寵姫になるために
寵姫になるために 9-2
しおりを挟むアナベルは目を瞬かせ、それから自分に優しくしてくれたミシェルのことを思い出し、ぐっと耐えるように目を閉じて何度か深呼吸を繰り返した。
「王妃はそんなに前から、そんなことをしていたの?」
「――彼女は、自分が一番ではないと気が済まないのです。国随一の美女がいると聞けば、呼び寄せてその顔を傷つけたり、自分よりも若い女性は全員的、とでも思っていたのでしょう」
ロレーヌはアナベルを見つめた。
「――あなたのその美貌も、イレインは面白くないでしょうね」
「……ふうん、それって、あたしがこの美貌を保っていれば、イレインがちょっかいを出してくれることよねぇ?」
アナベルは自分の頬に手を添えると、口元に弧を描く。
その笑みは自信に満ちていた。
――彼女は自覚している。自身の美しさを。
そして、その美しさは必ずイレインを動かすだろう、と。
「……本当に、肝が据わっている。頼もしい限りだ」
「だぁって、あたし、失うものはないもの。家族も、故郷もないのだから」
そう言って笑うアナベルに、ロレーヌが目を瞬かせた。そして、「そういうことでしたか……」と呟く。
「ここに集っているのは、王妃イレインに復讐したい集まりですのね」
「……そうね、あたしの人生、彼女にぐちゃぐちゃにされたし。出来れば同じような絶望感を味合わせてあげたいわぁ」
――焼け落ちた実家、ひとり残さず消えた村人。
――自分を無理矢理連れて行った貴族。
――忘れるはずのない、忌々しい記憶。
「……ロレーヌさんは、ミシェルさんのために?」
「……私の子は、イレインの侍女になりました。そして、その一年後に謎の死を遂げています」
「えっ」
「……彼女は自分よりも若い女性が大嫌いのようです。王妃の侍女に抜擢された時、娘はとても喜んでいました。それなのに……」
見るも無残な姿で発見された時に、イレインは『まだ若いのに可哀想に』と白々しく言った。
――そして、笑った。
『私のお気に入りに声を掛けられて、舞い上がるからよ』
――と。
ロレーヌはその言葉を耳にした時、イレインを見上げた。イレインは冷たい目をロレーヌの娘に向けていた。
ゾッとした。――彼女は危険だ、と本能で察した。
自分の侍女がこんなにも無残な姿で発見されたというのに――……。
「……私は、彼女が怖い。……そして、彼女を野放しのままにするのも怖いのです。きっとまた――彼女の気分によって、痛めつけられる人が居ると思うと……」
辛そうに眉間に皺を刻み、ロレーヌはゆっくりと息を吐く。
「ですから、陛下が魔物討伐の遠征に行く時に、王妃イレインに対抗できる人を探すと聞いて少し驚きました。こんなにも美しい女性を連れてくるとは思わなかったので……」
「うふふ、褒められるのは嬉しいわぁ。これからよろしくお願いしますね、ロレーヌさん」
「ええ、アナベル。あなたを立派な淑女にしてみせますわ」
ロレーヌの目はアナベルを見つめている。アナベルもまた、彼女を見つめて不敵に笑う。
こうして、彼女たちは手を取り合うことになり、それを見ていたエルヴィスは小さくうなずく。
「――では、これからのことを話そうか」
そして、アナベルたちはこれからのことについて話し合う。紹介の儀までにやらなくてはいけないことを話し合った。
それは夜遅くまで続いた――……。
2
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる