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2章:寵姫になるために

寵姫になるために 8-2

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 メイドたちは手早くバスタオルを剥ぎ取ると、アナベルの体を見て「これだけのプロポーションならば、シュミーズドレスにショールが良いかしら?」やら、「他のドレスでも似合いそう」やら、「コルセットを使ったドレスも後で着てもらいましょう」やら……。
 アナベルは困惑していた。他人の視線を受けて、これほど困惑したことがないだろうというくらい、頭は混乱していた。
 混乱している間に着替えが済んでいた。シュミーズドレスはとても肌触りが良く、そっと肩に掛けられたショールの肌触りも驚くほど良かった。

「では、今度はこちらに」

 ドレスルームは化粧をするための道具も揃っていた。
 ドレッサーの前に座り、「失礼致します」とメイドが口を開いてから、これまた手早く化粧をされていった。
 普段、舞台の濃い化粧しかしていなかったアナベルは、新鮮な気持ちで鏡を見つめていた。

「髪もセットしましょうね」

 櫛で髪を毛先からゆっくりと梳かされ、ハーフアップにするとヘアアクセサリーで飾りを付けた。

「出来ました! さぁ、食堂へ参りましょう!」

 一仕事が終わったメイドが額に滲んだ汗を拭いて、待っていたメイドたちに声を掛ける。
 アナベルは「食堂はこちらです」とメイドたちに案内されて、食堂へと向かった。

「……あの、本当にこの格好で大丈夫?」

 普段着慣れないドレスに戸惑いながらメイドたちに尋ねると、メイドたちは一斉にうなずいた。
 食堂の扉が開かれて、既に席についていたエルヴィスとロマーヌを見て、アナベルは「お、お待たせしました……」と食堂に入る。

「……これは、驚いた。踊りの子格好も、旅人の格好も似合にあっていたが、ドレス姿もこんなに似合うとは」
「そ、そう?」

 エルヴィスの言葉に、アナベルはほっと安堵したように表情を緩ませた。

「さあ、席について。――さっき話していた、『お姫様ごっこ』の詳細しょうさいを教えてくれないか?」

 アナベルは勧められるまま席につき、それを見た執事たちが料理を運んできた。
 料理がそれぞれに配膳されると、ちらりと窺うようにエルヴィスを見た。

「――言葉通りなのだけど……。まだ幼いあたしに、ミシェルさんが教えてくれたの。お辞儀の仕方、どうしたら動きが綺麗に見えるのか、胸を張って歩くこと……覚えていて損はないからって」

 アナベルの説明に、エルヴィスとロマーヌは目を瞬かせた。そしてどこか納得したようにうなずいた。
 ――ミシェルらしい、と。
 そのことが嬉しく――同時に切なくなった。

「……ミシェルさんって本当に博識はくしきで、『お姫様ごっこ』を彼女がすると、本当の王女様みたいに優雅ゆうがで綺麗で……、あ、本物の王女様を見たことがあるわけではないんだけど……」

 なにも言わないふたりに、アナベルは慌てたように言葉を重ねた。
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